第三十九 『目覚まし時計から響く後悔の音』
——ピピピピッ、ピピピピッ
時計の音が響く。
身体中が痛い。
起き上がってみると、いつものベッドにいた。
そう、いつもの俺のベッド。
洗面台へ急いで走る。
間取りも全て、前と一緒。
鏡を見ると、飯岡健がいた。
「ぜ、全部、夢…!?」
良かった、へたり込んで息を整える。
いや、まだ安心できない。
とりあえず、穂波のところに行こう。
もしかしたら、あの女はすでに転校してきてるかもしれない。
けど、今まで貯めたバイト代で、遠くまで逃げよう。
そう決心して、隣の部屋まで行く。
玄関まで歩いている最中に足元に何かがあると気づく。
「あ」
あの女から渡された、眷属。
「……」
夢なんかじゃなかった。
「くそ」
拳を握り、立ち尽くす。
眷属はわたわたと俺の足を登ってきていた。
今にも落ちてしまいそうだ。
そいつを手のひらに乗せて、問う。
「お前は俺の味方か?」
「きゅっ!」
万歳をして意思表示をしてくれる。
そうか、味方か……。
心から信用はできないが、利用は出来る。
なにもないよりマシだ。
手のひらに乗せたそいつを肩に乗せる。
歩いて落ちないかを確認すると、案外バランスがいいのか、落ち着いて座っていた。
とりあえず、隣を見に行こう。
あの女が元の世界にいると言ったんだ、このアパートが残っているなら、きっと。
靴を履き替え、隣の部屋前まで行く。
ノックをするが、応答はない。
「穂波〜!!」
頼む、いてくれ。
呼んでも望んだ反応はない。
ずんと心が重くなる。
部屋に戻る。
母さんたちが起きてなければいいけど。
……待てよ、俺が起きる頃には母さんは起きてた。
「母さんっ!父さんっ!」
両親の寝室を開ける。
そこには、誰もおらず、人がいたという痕跡だけが残っていた。
「嘘だろ」
またへたり込んでしまう。
……学校、学校に……。
でも、ここは、本当に元の世界なのか?
俺がそう認識してたというだけで、戻れてるわけじゃなければ?
もし、あっちの世界なら?
制服……制服を見れば。
よたよたとおぼつかない足で歩く。
自分が思っているよりずっと、ダメージが重い。
制服の入っているクローゼットを開ける。
ブレザーが入っていた。
校章はコウちゃんのと一緒。
つまり。
「はは、はははは……」
笑いしか出てこない。
自分勝手が招いた結末だ。
きっと、穂波は俺のために契約した。
「俺があんな地獄から逃げたいなんて言ったから……!」
「きゅっ…きゅう…」
あいつの眷属が俺の頬を小さい手でペチペチ叩く。
声音はまるで心配しているように聞こえる。
「……学校に行くよ……コウちゃん……は、いないかもしれないけど、もしかしたら、誰かが覚えているかもしれない」
「きゅっ!」
それに、俺が七音じゃなくなったのなら、もしかしたら、元の七音がいるかもしれない。
明日の中に、穂波がいるかもしれない。
……そんな小さな希望を抱いて、俺は学校へ行く支度を始めた。
(……お前の名前どうしような)
(きゅう…)
(…………キュウタロウは安直すぎるかな)
(……キュッ)
(触手がねじれてる…そんなに嫌かよ…)




