第三十八 『白紙』
「———そう呼んでくれるのね♡」
黒八木は、会長から手を離し、こちらに近寄ってくる。
俺の前まで来ると、俺の目前まで顔が迫る。
近く感じるが、離れることもできない。
「なぁに?」
「——契約しよう。」
そう伝えると、柊花は嬉しそうに顔を歪めた。
「弱いのに?♡」
「お前がずっと求めてただろ」
「あんな侮辱をしたのに?♡」
「……悪かった、俺には何も出来ないから」
「んふ、うふふふ♡
ねぇ、今までずっと私を拒否してきたのに、どうして私を求めたの?」
俺の顎に手を添えられ、顔を上げられる。
「怖いのに♡
殺したいのに♡
屈服しなきゃいけない、屈辱に耐えてまで、
契約しなきゃいけなくなった理由ってな〜に?♡」
力もなくて、何も出来ない人間のくせに。という本心が滲み出ている。
「みんなを助けるために」
「………………ぷっ」
あはははは!と笑い声をあげて、柊花は尻餅をつく。
馬鹿にされてる自覚はあるし、くさいセリフなのも分かってるが、正真正銘の本心である。
「あはっ、ねぇ、人間って建前だけで生きてるのってなんで??
それとも、健くんが超絶馬鹿の朴念仁なの?」
あはははは!とでかい笑い声をあげる。
「あははっ!……もぅ、久しぶりに笑っちゃった♡
契約はしてあげなぁい♡
けどぉ………」
柊花が指を鳴らすと、手の上にハムスターくらいの生き物が出てくる。
ハムスターとは似ても似つかない黒い生き物。
なめくじが這うような感覚にゾワゾワする。
手足が生えている、触手が髪の毛のように生えて、ネチネチと粘膜の擦れる音が聞こえる。
「これ、あげる♡」
「……なんだよ、これ」
「いーでしょ、私の眷属♡
リセットするから、2週目用のお助けアイテム、必要でしょう?♡」
柊花は黒い生き物にデコピンを与える。
黒い生き物はわたわたとしながら、俺の手に身を寄せる。
「何の役に立つんだよ」
「ん〜、私の補習にいつでも来れるし、可愛いでしょう?♡
一途な子なの♡」
パッと俺から手を離し、もう、リセットされるわ。と柊花は上を見上げる。
「待てよ、穂波たちは!」
「明日ちゃんも七音ちゃんは貴方たちと入れ替わって、私のところにいるわ♡
もちろん、穂波くんもね♡」
だからぁと頭を撫でてくる。
「——心の底から後悔してね♡」




