第三十五 『悪夢』
「ケン!」
嬉しそうな男の声が聞こえる。
健ちゃんは後ろ姿しか見えない。
「コウちゃん、呼び出してどうしたんだ」
その声は、いつも俺に話しかけてくれるような声音だった。
やだ、健ちゃんには知らないやつだったはずだろ。
七音として一緒にいただけじゃん。
健ちゃんの考えが全部流れてくる。
(いつも隣にいた)
(隣にいるのが当たり前だった)
…………。
そいつじゃない、健ちゃんの幼馴染は、俺だろ。
高岡穂波、ただ1人しか、いなかったはずだろ。
ずっと、ずっと隣にいたのは俺だった!
そんなやつに期待すんなよ、おかしいじゃん。
違う、違う、これは夢だ。
頬に添えられた手に語りかける。
なあ、これは夢だろっ!
『いいえ、夢ではないの。
……さあ、最終局面よ、貴方の幼馴染の、感動シーンを最後まで見なさい♡』
…………視界を2人に固定される。
——なんで、そいつの手を掴むんだよっ!
くそっ、嬉しそうにするなっ……声が出ない、カヒュカヒュッと音が聞こえる。
呼吸が上手く出来ていないのだと、遠い意識で理解した。
そんな中、ついにハッピーエンドへの切り札が出される。
「ずっと前から、出会った時から好きだった。
付き合ってほしい」
「俺も、好きだ」
夕陽に照らされた影が重なる。
——ああ、俺は、なんのために。
——なんのために。
後ろから視界を手で覆われる。
耳元で甘い声で語りかけられる。
「一途で、可愛い穂波くん♡
悪夢だと信じてやまない貴方♡
——なんのために、貴方たち2人をこの世界に送ったのか、忘れちゃう可愛い子♡
今はすこし、眠りなさい♡」
だめ、だめだ、寝ちゃいけない。
きっと何かの、間違いだと。
……確認、を。
しなきゃ、いけ、ない、の、に。
…………………………。
「——いい子……♡」




