第三十三 『諦めた方が楽なのに』
「穂波は関係ないだろっ!!!」
「——じゃあ、私も関係ないわっ!
貴方たちの助けになることは出来ない!
…………はぁっ、それが分かったら、もう二度と私の目の前に現れないで。」
そう言いながら、会長は立ち去った。
明日は後ろから気にしないで、と背中を叩いてくれる。
「きっとバグってるだけだしさ」
「バグって…!…………コウちゃん?」
手を払いのける。
その時に、今まで後ろにいたコウちゃんと目が。
……合わない。
空を見つめたまま、様子がおかしくなっている。
まさか、あいつか、と警戒したのも束の間、コウちゃんはこちらを向く。
「七音、伝えたいことがあるんだ。
屋上に来てよ。」
「…………うん、分かった。」
目が合わない、顔はこちらを向いている。
なのに、いつものコウちゃんじゃないと分かる。
隣で明日は顔を真っ青にしている。
コウちゃんは、その後何も言わずにその場を去っていった。
「なにあれ」
「——プレイヤーが動かしてる」
「……今まで放置されてたのに?」
「で、七音は……」
「告白……?」
コクンと頷く明日に絶望する。
もし、これが成功して、リセットされたら?
……俺と穂波はどうなる?
「で、電話、七音に電話…!
なんか、回避する方法とか!」
「……きっとない、よ」
「なんで、なんで穂波が諦めてんだよ……!」
だめだ、この状態で話しても、喧嘩になる。
くそっ、1人にならなきゃいけない。
「……それでも、相談くらいしてもいいだろっ!
俺1人で電話するから、穂波は先に屋上行け」
「でも」
「でもじゃねぇ!俺が知ってる穂波はそんな事言わねえ!」
明日が傷ついたような表情を浮かべる。
「っ………」
あとで、全部が解決したら謝ろう。
そう考えながら、その場を離れる。
少し走ったら、息が上がる。
後ろから明日は追いかけてこない。
「……」
少し不安になる。
けど、今は……。
スマホを手に持ち、穂波から貰った番号にかける。
待機音数秒。とても長く感じる。
早く、早く、早く……。
『……もしもし』
「七音っ!告白イベントの回避ってどうやって…」
『…………』
「七音…?」
『うるさいのよ、告白イベントに回避なんてないに決まってるでしょう』
「じゃあ、俺がそこに行かなかったら……?」
「…………貴方もいずれかは分かるわ。
私の身体は、抗うことは出来ない。』
「何言って……うぐっ…!」
体の自由が効かない。
勝手に歩き始める。
『ほらね、何度抵抗しても無理だから諦めなさい。』
「っ!!でもっ!」
『貴方覚えてないの?
そこは恋愛ゲームの世界よ、ご都合主義の世界。
主人公と恋愛をするために攻略対象が存在するの。
私たちの意思なんか存在しないの。
そのうち、セリフも言わされるわ、覚悟だけしなさい。』
「こ、コウちゃん、コウちゃんは!抵抗出来ないのか!?」
『……貴方に屋上に来いと伝えた霜井戸は、感情なんてない顔をしていたでしょう。
あいつの意思なんか、プレイヤーが操る限り、ないわ。』
屋上のドアの前まで来てしまった。
途中に誰もいない、背景に助けを求めても来ない。
(言ったでしょう?諦めた方がいいと)
会長の声が脳裏に響く。
近くに会長はいない。
幻聴だ、幻聴なんだ。
なのに、苛つく心は会長へと敵意を向ける。
——明日、明日はどこだ。
明日なら、穂波なら、俺を止められるかもしれない。
もう、先に屋上にいるかもしれない。
そんな希望を抱きながら、ドアを開く。




