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▶いいえ

 お祖母様は言った。

「女であることを恥なさい。お前は男に生まれるべきだった。」と。


 お祖父様は言った。

「なにかあってはいけないから、他の男には近づくな。」と。


 お父様は言った。

「この家を継ぐことは出来ないが、小崎家の役に立てる。誇りに思いなさい。」と。


 お母様は言った。

「お父様に感謝しなさいね。

 ……初潮はまだだもの、まだ使えるわ。」と。


 あの子は言った。

「将来的には、僕と君の子供が跡を継ぐ。

 ……男を生んだら、の話だけど。」と。


 倉の中、朦朧とした意識で宙を舞う埃を見つめていた。

 光に当てられて、汚いはずなのに、綺麗に見える、埃。

 喉が渇く、唾を飲み込んで、なんとかなった気になる。

 埃は、倒れている私の目に入る。

 異物感はあるものの、痛くない。

 痛みなどとうに感じなくなった。

 私が男であったなら、という夢物語も、見なくなった。

 世の中には希望という言葉があるらしい。

 あることの実現を願いのぞむこと。また、その願い。のぞみ。

 将来によせる期待。見通し。

 学校の辞書を熟読している時に知った。

 今までずっと知らなかった。

 私が見ていた夢は、希望、だったらしい。

 そして、私の今の状況を指す言葉も知っている。

 私は、今、絶望している。

 茫然自失と日々を過ごして、私は子供のままでいた私自身を殺し、『小崎古味(わたし)』となった。


 ▽『画面の向こうの貴方へ』


 ▽『貴方は、私の、小崎古味の、』


 ▽『名前の由来を知っていますか。』


 ▽『…………』


 ▽『……………………』


 ▽『貴方はきっと、いいえ、を選ぶでしょう』


 ▽『だって、』


 ▽『私も知らないのですから。』


 ▽『どうでもいい子供に』


 ▽『つける名など』


 ▽『どんな名前をつけても』



 「意味などないのですから。」

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