第二十八 『あなたじゃない』
…………どうして。
「会長」
「なに?」
どうして。
——どうして、一緒にクレープ食べてるんですか、なんて聞けねぇ。
待て、状況把握だ。
まず放課後になった、帰ろうとしたら、会長に呼び止められて……、明日と俺と会長の3人でクレープを食べることになった。
……なんでぇ…???
頭の中で?しか残らない。
ただの友達の遊び??
いや、でもさ、恋敵よね一応。
俺がコウちゃんになびいてないだけでさ、一応攻略対象だし。
分からない。
と百面相を繰り広げていると、会長がねぇと話しかけてきた。
「はい……?」
「……貴方から話しかけてきたじゃない」
あ、やべ、状況整理ターンで大パニック起こして、呼びかけたまま終わってた。
つか、隣にいる明日、助け……口にパンパンにクレープ詰め込んだ状態でこっち向くな!!!幸せそうだなぁ!!!?ホイップついちゃってるし!
「いえ、あの……」
「まぁ、私から話しかけようとしていたから、ちょうど良かったわ。
何もないなら、話してもいいかしら」
「アッハイドウゾ」
やましいことなんてないけど、怖いぃぃ…。
「……貴方、上野七音じゃないでしょう」
「え、いや…上野七音ですけど…」
「別に、どこの誰が上野七音の中にいようがどうでもいいけれど。
——霜井戸君に手を出しさえしなければ。」
声にドスがあるっていうか、その、脅し、ですかね。
隣にいる明日は、まだ幸せそうに食べている。
なぁ、竹馬の友だの一心同体だの言ってたじゃん。
幼馴染のピンチだぜ??
……白状、した方がいいのかな。
(いいんじゃない?
男なら……って流れになりそうだし)
こいつ呑気なフリしてただけかよ。
まぁ、それなら……いけるか?
「あの…実は別の世界から来た男です。
いいお…」
「やだ、じゃあ離れてちょうだい。
霜井戸くんに誤解されたらたまったものじゃないわ」
サッと距離を取られる。
別にさぁ、いいんだけどさぁ。
ちょっとショックじゃん?
ぴえん顔でしょんぼりする。
「……それと貴方たち遊園地に行ったそうね。
楽しかったかしら?」
「……もちろん」
笑顔が固まってないといいが、心配になる。
遊園地はコウちゃんと行っている。
バレるとやばい気がする。
「そう……
私、嘘をつく方は嫌いよ」
「…………霜井戸くんと行きましたが、明日も一緒でした!決してデートではございません!」
「手を繋いでいたわよね」
「えとぉ、幼馴染ゆえの、その、距離の近さっていうか。
こ、こいつとも、手を繋いで…」
「目撃情報は、貴方と霜井戸くんだけよ。
鏡の迷路あたりから、その子はいたはずでしょう。」
あの、あのあのあの…とろくろを回す。
いや、目撃情報って…?
その…、どう言い訳をしたら…?
「霜井戸くんに、好意はあるの?」
「……友達としてなら…」
「——そう、ならいいわ。
それに貴方の言い方だと、宇保町明日も男なのね。
理解したわ。」
いつの間にかクレープを食べ終えていた会長は、ゴミを捨ててから、戻ってきた。
……尋問が終わったから、帰ると思ったのにっ!
と心の中で涙を流す。
そして、隣にいる白状者へ。
クレープ2個目をおかわりしに行くんじゃねぇ。
明日の服を掴み損ね、逃げられる。
くそっ、あいつ…。
「貴方のもう1人の幼馴染は、随分と白状なのね」
赤べこのように首を振りそうになるのを抑える。
「そう、かもしれないです。」
丁寧に失礼のないように。
……でも好感度MAXだったよな、結婚したいくらいだったけ。
なんでだろう。
「あと、もう一つ」
会長は座ったまま、こっちを向かず話しかけてきた。
目線はまっすぐ前を向いたまま、その目線の先を辿ってみるとクレープ屋に向かっている明日が見える。
……日差しがちょうど上にあって、俺には眩しい。
目を逸らし、会長に向ける。
いつの間にかこちらをじっと見ていた会長と目が合う。
「——貴方幽霊になっていたけれど、あれはなんなのかしら。」
背筋が凍る、全身の血の気が引いていく。
あれは、夢だったはずで。
もしかしたら、バッドエンドだったのかもしれない。
けれど、それは。
「他の攻略対象に共有されるはずがない。
だって、プレイヤー側ではないから。」
……目の前にいるのは、本当に会長なのか。
心臓の音が周りの音を妨げるほどにうるさい、なのに、会長の言葉はハッキリと聞こえる。
遠くから足音が聞こえてきた。
「…あれはきっとバッドエンドだけれど。」
タッタッ
「貴方には補習も、苦しかった気持ちも、思い出せないでしょう。」
タッタッタッ
「だって、貴方は霜井戸くんではないもの。」
タッタッ…
「あれ、体調悪くなっちゃった?」
体の芯まで冷たくなった俺を目の前にいる明日は心配してくれている。
会長は話すのをやめ、明日に渡されたコーヒーを飲んでいた。
「……なんでもないよ」
「なら、いいけど…」
明日は口を尖らせて、情報を共有する気のない俺に不満を表す。
(今は無理だ)
(会長がいるから?)
「別に話してもいいわ。
取って食ったりだなんてしないもの」
ヒッと声を上げる俺に、まじか、と小声で呟きながら驚く明日。
「ログを見れば、何を話しているのか。
なにをしていたのか。何を考えているのか。
どこへ向かったのか、分かるわ。」
勝ち目ねぇじゃん。
「ええ、敵ではないことに感謝することね。
最も……霜井戸くんに何かあれば、全てを利用するわ」
そう言うと、会長は俺らの近くから立ち去っていった。




