第二十三 『情報共有』
「俺らの身体?」
「俺が健ちゃんの声を間違うはずがない、あれは健ちゃんの声だった」
「違う、俺がパニくってんのは…、誰が俺の身体にいるのかってこと!」
「………」
穂波は青ざめたまま黙る。
視線を彷徨わせた後、俯き、ぼそぼそと喋る。
「……の…ね」
「の、ね…?
…………まさか」
コウちゃんは聞こえたのか、誰なのか気づいたようだ。
「聞こえねぇよ」
「上野、七音…本人から」
「——うそ、だろ…」
「スピーカーにして、ここにいる全員と話がしたいって」
「……」
体が震える。
楽観的な考えだった、転生しただなんて考えて、元の世界に戻ろうとするでもなく、
「まだ繋がってる?」
「ミュートしてるだけ、繋がってるよ」
「…よし、解除しよう。
この世界の上野七音なのかは、コウちゃんが判断して」
「……」
コウちゃんは無言で頷く。
その様子を見て、明日はミュートを解除した。
「…もしもし」
『思ったより早かったわね』
「うん、その…スピーカーにしたんだけど」
『じゃあ……そうね…、私は上野七音。
こちらには宇保町明日もいるわ』
「……」
『あら、自己紹介の流れじゃなかったかしら』
「……くそ、本物かよ。
霜井戸孝乃、分かってんだろ」
『やだ、不快感は今なお健在なのね。
ごきげんようコウちゃん』
「うぇ、鳥肌……」
「……一応、宇保町明日。」
「私も、上野七音です。」
『……あなた方1周目?』
「……」
「……」
明日…穂波と目を合わせる。
『…………本当の名前を言ってちょうだい。
私たちは情報が欲しいの。
あなた方、飯岡健と高岡穂波ね』
「……ああ、上野七音の体にいる、飯岡健だ。」
「俺は……宇保町明日の体にいる高岡穂波…」
『…………私たち、入れ替わったみたいね。
更新された私たちじゃなくて、逆に安心したわ。』
「こっちも、情報を共有してたところだ」
『ちょうど良かったのね。
目が覚めたら、赤い世界にいて、人っ子1人見つからな………怪しい女が1人しか見つけれなかったの。
その女からこのスマホを渡されたの。』
「で、電話してきたと…。
盗聴されてるとは思わなかったのかよ。」
『情報一つ見つけられない、こんな絶望的な状況で情報を与えてくれるというなら、ありがたく享受してもらうしかないじゃない。』
「それも…まぁ、そうか…?」
『でも、でもでも!気に入ったから特別って、元の体に戻してあげるって言ってたから…!
あんまり悪い子じゃない、かも』
『明日、悪い人は必ず悪いことを言って騙すわけではないわ。
耳障りの良い言葉を並べて、誑すのよ。』
「……明日も本物…だな…。」
『こっちの情報は渡したわ、そちらの情報をちょうだい。』
唾を飲み込む。キィンと耳鳴りがしてくる。
"入れ替わり"、つまり、俺らがこのままでいるとこの身体は乗っ取りとなる。
スゥと息を吸い、息を吐く。
「……そっちの世界は俺らの元の世界だ」
『知ってるわ』
「そっちは乙女ゲーの世界で、一応俺らは攻略対象だ。
ヒロインは…」
『察してはいるわ。
私たちにスマホを渡してきた、ツインテールで、一見すると少女に見える身長の、ニマニマ笑う、頭のおかしい子でしょう?
名前は…多分黒八木柊花』
「名前まで…」
『あの女から接触してきて、スマホを渡してきた。
名前もスマホにあったものよ。』
「そっか。
ヒロインはお察しの通り、柊花。
ただ、人間ではないこと以外、そいつに関して俺らは何も知らない。」
『………………は?
この世界の人間でしょう?
なら分かるはずよ』
「……終わりの先を観測できるのは、俺らじゃない。
操る側のプレイヤーだ。分かるはずがない。」
『…………はぁ、そうね。
貴方たちはプレイヤーじゃない、ただの攻略対象で、あの女に脅かされてる一般人。
そして、私たちの体を乗っ取った。』
「乗っ取ってはいない!!
俺らも、何も分からず、この世界に来た。転生だと思ってたし。」
『じゃあ、この世界にあいつと私たち以外の人間が、他の攻略対象となりそうな人間がいないことの説明をしてちょうだい。』
「……それは…」
「なにも分からないって言ってただろ。
こっちも大変だったんだ、あんまり追い詰めんな。」
『流石ね、王子様
拍手を止められないわ、離脱して盛場で腰でも振ってきたら、いかがかしら。』
「口悪いな…本当…」
コウちゃんは手を仰ぎながら、うめき出す。
「……すまん、会話に入ってくんなって言われた、どっちの味方かも問われた。
ある意味俺は中立の存在だ、お前らの味方ともあいつらの味方とも、どちらの敵ともなり得る。
話は最後まで聞く、だが口を挟めば、最悪な選択を選びかねない。」
幼馴染とはここまで会話を汲み取る力があるのだろうか。
場違いは承知だが、感心してしまう。
穂波もこんな風に汲み取ってくれていたのだろうか、無意識に全てを託していた可能性がある。
「…さっき言った大変なことなんだけど、あの女がこっちに干渉してきた。」
『意味がわからないわ』
「柊花が、世界を超えて、干渉してきた」
『2回も同じことを言わないでちょうだい
意味がわからないと言ったのは、あの女に対してよ。』
『つまり…柊花ちゃんが、こっちからそちらに行くことが出来るってことだよね!
じゃあ、柊花ちゃんに頼んで、連れて行ってもらったら…』
「……あまりおすすめはしない。話を戻すけど、人っ子1人いなかった、だよね。」
『ええ』
「憶測、というには確信めいてるけど、俺らは攻略完了になると捨てられる。」
『……』
「俺らのエンドはバッドエンドしかない、1人も見当たらないというのなら、全員が攻略完了になった可能性がある。」
『はぁ…頭が痛い。
捨てられるっていうのは?
殺されるってこと?エンドを観測できないという割には知ってるじゃない。』
「……魅了されてて、意識が薄い。
ところどころしか認識できない上に、攻略完了となった後の意識がない。あったとしても、暗くてなにも見えない真っ暗なところにいる。
その後意識を手放す。
つまり、データを破棄されてるようなもの、捨てられるってこと…だと俺は考えてる」
穂波は淡々と言葉を並べる。
「俺は半ば発狂状態なことが多くて、役に立てない。
ごめん」
『ええ、本当に役立たず共ね。
でも、いいわ、最大限活用してあげる。
私たちが戻れる条件は【私たち自身で解決すること】
また、情報共有があれば連絡をちょうだい、それじゃあ。』
「ま、待てよ、魅了ってことはお前ら危ないんだろ!?
うろちょろしたりせず、こっちが解決するのを…」
『聞こえなかったのかしら、コウちゃん
解決するのは私たち、条件がそう定まっているのなら、手出しは無用よ。
指を咥えて、会長に子守でもされてなさい。
……あと、魅了は効かなかったわ、多分。
あの女、数秒見つめた後、効かないのねって言ってたわ。』
「…………動揺しすぎて、情報共有の意味も分かってねぇな、七音」
『喋らないでちょうだい、不快よ、コウちゃん
私が話してるのは、飯岡健と高倉穂波よ』
『そ、そんな言い方しなくても…』
『……………………
ごめんなさい、コウちゃん…
私も動揺してるの、そっちでもなにか帰れる情報探してくれると嬉しいな。
会長にもよろしく言っといてね!それじゃあね』
あちらの明日が七音に声をかけると、数秒した後声音を変えて、コウちゃんに話しかける。
そして、通話が切れる音があたりに鳴り響く。
コウちゃんはというと、その声音で鳥肌が立ち、チキン野郎もあながち間違いじゃねぇなと呟いている。
穂波はずっと俯いている。
俺も穂波も帰りたくない、あの女とは接触したくない。
けれど、あの2人をそのままにするわけにはいかない。
俺と穂波で話し合わないと、いけない。




