第二十二 『地獄』
毎回毎回意識を手放している気がするし、毎回穂波に心配かけてる気がする。
目の前で手を握り眠る明日を見ながら思う。
そんな重病人でもないんだからぁとはふざけても言えず、手を握り返していると、ふと自室にもう1人いることに気づいた。
おれの勉強机の椅子を使い器用に寝ているコウちゃんだ。
……どちらにも心配をかけてしまった。
まさかあの女が、こちらに干渉してくるとは思わなかった。
一体いつ、明日と繋いでいない方の手の爪を噛む。
いつ、いつ、いつから…いつから…。
『いつからでしょうかぁ?♡』
「ヒュッ…」
枕で挟み込むように、耳を塞ぐ。
聞こえない、なにも聞こえない、大丈夫、大丈夫。
穂波、穂波が手を繋いでる。
温かい、大丈夫だ。温かいから、大丈夫。
おれも、あいつも生きてる、大丈夫…大丈夫…。
ゆさゆさと揺らされる。
「…!………!」
聞こえない、大丈夫、大丈夫。
「!!…!!!」
「…!」
大丈夫…、だ…温かくない、冷たい。
冷たい。
涙が溢れてくる。
両の手で枕を強く耳に押し付ける。
急に誰かに枕を取り上げられる。
「いい加減にしろ!!」
「ケンちゃんに乱暴すんなっ!!」
「枕を離さなきゃ、会話すら拒まれるだろうが!?」
「あっ」
こうちゃんが枕を持って怒っている。
明日は、ばしばしとコウちゃんの背中を叩いている。
呼んでくれていたのは2人だと気づく。
「ごめ…」
「おう、謝れ!」
「そうだ!」
「え、いや、ごめんなさい?」
よしと2人は口を揃える。
普通さぁ、謝らなくていいとかじゃない…?
いや謝るべきなのは自分なのは分かってるし、迷惑かけた自覚もあるからいいんだけどさ。
「………とりあえずさ、お前らのこと教えろよ」
「……」
「……」
明日と顔を合わせる。
(どこまで?)
(とりま、元の世界とあの女のこととか?)
(コウちゃん、あの女を認識しちゃったのか…!?)
「うん、まぁ…先にあの女の話からかな」
「ツインテールの女?」
「そうそう、あいつは黒八木 柊花
…まぁ、その…俺らの元の世界のヒロイン」
「は?」
コウちゃんは目を見開く、せっかくのイケメンが台無しだ。
その状態で、俺らを交互に指差す。台無し超えて、一見すればヤバいやつだ。
「お察しの通り、元攻略対象…
転生したんだけどさ」
「いや…頭いてぇ…理解は出来る、けど脳が理解を拒んでる。
俺はお前らが主人の転生だと思ってた」
「一言も言ってないし、説明してないから誤解されても仕方ないんだけどさ。」
「つまり、あっちの世界からこっちの世界に転生したってことかよ」
「さすがだね主人公。ちなみに、穂波は元プレイヤーだよ」
「…………脳みそがパンクする情報をサラッと言うなって!!」
「てか、こいつ性格違くね?誰だよ、英語でカッコつけたやつ」
「俺!」
「なー!誰だよ、お前を攻略するとか言いながら、幼馴染に迫ってきたやつ!」
「俺!」
明日と2人で、コウちゃんを責める。
形勢逆転しなくてもいいが、雰囲気は格段に重くなくなった。
「俺のことは置いといてさぁ…」
「顔真っ赤で言ってもぉ…」
「説得力ないって言うかぁ…」
「お前ら揃うと厄介だな!?
説得もくそもなかっただろ、話戻せ!」
新幼馴染がうるさいので、俺らはふざけた態度をなおす。
「で、お前…穂波、の方が元プレイヤー…てことは、どっかで交わったか?」
「かもね、ちなみにタイトルは、『ア・カペラの星』だけど」
「……………知らないな。そもそも、この世界以外の情報は知らない。」
「……それもそっか。
まぁ、俺らの世界では、突然転校生がやってきて、男女問わず攻略していくっていうのが流れ」
「…"男女問わず"?」
「メインはもちろん俺らなんだけど…女子生徒もいなくなってたんだよね。
俺から見ても攻略対象は男だけだったんだけど、ある日を境に女の子も追加されたり消えたりが繰り返されてた」
「……あの世界での明日の役割はお前だったのか」
「…まぁそう、かな?」
「穂波はある日を境に好感度が見れるようになっただけで、補助を買って出たわけじゃない。
穂波は絶対にあいつ側じゃない、それは俺が証明する。」
「味方だの敵だのはいいんだが、シュウカの正体ってなんだ?
人間じゃないだろ、あれ」
俺と穂波は顔を合わせて答えに惑う。
この世界のみんなと同じようにエンドという概念はあった。
それは操る側が見るモノであって、操られる側が見れるモノではない。
だから、答えは一つ。
「"人間ではないとは理解していても、正体を俺らは知らない"」
「………………」
コウちゃんはさらに頭が痛そうなポーズをする。
俺らも最初は悩んだ、だからこそ、だからこそだ。
「コウちゃん、考えることをやめよう」
「はぁ?」
「考えても、なにをしても、あの女に太刀打ち出来る算段はない。
それが俺らが導いた答え。だからこそ、こんな美少女になれたのが奇跡で、こんな平和な世界に転生出来たのも……」
俺がコウちゃんにあの女について詮索するなと釘を刺していると、突然着信音が鳴り出す。
「あれ、ごめん」
明日はそう言うとスマホを取り出し、部屋から出ていく。
「……だからさ、もう、あの女を、俺らの元の世界についてさ、詮索しないでほしい。
あの日のことは忘れてほ」
「ケンちゃん」
「どうした?」
「…………ケンちゃんから電話が来た」
「俺?誤作動かな」
「違う!飯岡健から!」
「………?」
「俺らの元の世界から、俺らの身体から」
「…………」
地獄から、俺らから電話。
冷や汗が頬を伝う、心の臓が一気に冷える。




