第二十一 『魔法の鏡』
「メガマウスのカチューシャつけようぜ!」
「どんなセンスだよ」
売店ではしゃいでカチューシャを差し出すと、うげぇという顔をされる。
穂波にもセンスが悪いと言われたことがある。
こういう時はぁ…。
「…だめか?」
「いぃ…けどさぁ」
「よしっ!じゃあ、お前の分買うわ」
よぉし!ぶりっこ作戦成功〜!
ナハハ、皆の衆センスの悪い平凡イケメンを楽しめ〜!
少しニヤつきながら、レジへ向かおうとしたが、俺の魂胆に気づいたコウちゃんは俺の肩をがっしり掴む。
少し痛い。
「俺だけメガマウスってのも味気なくないかぁ…?」
「いやぁ、私のは…いらないよ♡」
「いーや!お前のも買おうな!仲良しカップルになろうな!」
「カップルじゃないんですけど!?」
「じゃあ、お揃いってことで。」
俺の手からカチューシャを奪い、カチューシャ2つを買いにレジへと行ってしまった。
くそぅ、美少女というのにも限度があるんだぞ…。
男泣きで悔しがっていると、頭にカチューシャをつけられる。
「よし、行くぞ」
「…うん」
こいつもこいつではしゃいでいるようだ。
その後俺らはメリーゴーランドやらジェットコースターに乗ったりと楽しいものに乗り、
コーヒーカップにて2人してはしゃいで勢いよく回し、ベンチにてグロッキー状態になってしまった。
「お前さぁ…」
「いやいや、お前がぁ…うぷっ…」
「吐くな吐くな…うぁ〜まだぐわんぐわんする…」
「…」
「……」
2人して無言になる。
いや、喋っても気持ち悪いだけだからいいんだけどさ、なんか気まず〜…。
「あのさ」
そんなことを考えていたら、ふとコウちゃんが話しかけてきた。
無言で目だけを向けると、俺が気づかなかっただけでコウちゃんはこちらを真面目な顔で見ていたようだ。
話を聞く気があると判断したのか、続けて喋りだす。
「俺の…元幼馴染ていうかさ、お前がくる前のあいつの話になんだけどさ」
「…」
「つかどっちも七音なの言いにくい、名前教えろ、名前」
「……上野」
「だからぁ…」
「上野でいいだろ……」
「うんちゃんて呼ぶぞ」
運転手みたいでやだな…
「………飯岡健」
「じゃあ、攻略対象もいなけりゃ、ケンって呼ぶわ」
「おう」
「まぁ、七音はさ、俺のことクソほど嫌いで…まぁ俺も好きではなかったし」
「そうやって言うと強がりみたいでキモいぞ」
「いやガチ嫌いあいだったし」
「へぇ」
「まぁでも、攻略対象として嫌いってだけで、ただの友達ではあったんだわ」
返事するのもめんどくさくなり、目を逸らして、頷くだけにする。
あっ、アリだ。
1、2、3…
おっ、ポップコーンのかけらかな。すごいな。
「俺の事情も知ってたから、限界が来てたら、根回しとかしてくれてさ。
会長とも仲良かったから、暴走しすぎないようにしたり。
でも、まぁ、所詮ゲームキャラクターだから、まぁ…
恋愛したり、殺されたり…そんな物騒なエンドは少ないんだけどさ。
………………
七音なんかは一個しかないし。
だから、安心してほしい。
なんかあっても俺がお前を守ってやるから、ておい、聞いてないだろ。」
「あ?
あー、聞いてはいたけど…見ろよアリが10匹いるぜ」
「ありがとうじゃないんだよ、お前なぁ…
……もう落ち着いたか?」
「まぁ」
「じゃあ、最後にあそこ行こうぜ」
もう夕方に差し掛かってる。
学生の身だから、ここらで最後になるだろう。
「相場最後ならさ、観覧車とかじゃない?」
「観覧車でもいいけど、相場1番上でキスだぜ?」
「わぁ〜!!鏡の大迷路いいなぁ〜!!行こうぜ〜!!」
「複雑〜……」
コウちゃんの手を引っ張り、鏡の大迷路まで走っていく。
複雑だと宣うコウちゃんも体調は良くなり、微笑みを浮かべている。
ちょうどよく人が少なくなっていた頃合いだったようで、長く待つことなく迷路に入ることが出来た。
「おお〜」
「金かかってんな、あで…!」
「ぶつかってやんの〜、あははふぐっ…!」
下手に動くとぶつかってしまう。
無言でコウちゃんの服を掴み、先に進めと促す。
俺がぶつかったのを見たコウちゃんは笑いを堪えながら、手を使い、前へ前へと進んでいく。
ふと、後ろにいたはずのお客さんがいないことに気づく。
「なぁ…後ろにいたお客さんいないんだけど、大丈夫かな」
「大丈夫だろ、出れなきゃそのうちキャストが来る」
「それもそうか」
「七音もしっかり捕まっとけよ、迷子になったら俺が迎えに行かなきゃいけなくなる」
「うん………、……?」
微妙な違和感。
なんにもおかしいところは、なかった。
はず。
(七音?)
「なぁ、俺らの他にももしかして攻略対象がいる?」
「…はぁ?2人でデートに来ただろ」
パッとコウちゃんから手を離す。
無意識に震える手をもう一つの手で押さえつける。
「おい」
「お前!誰だよ!?」
「はぁ?幼馴染の顔も忘れちゃったのかよ?」
「……」
「ははは、鏡だらけでおかしくなったのかよ」
「なぁ、七音のこと、どう思ってんだよ」
「そんなの…決まってるだろ、好きだよ」
いつも通り微笑みかけてくるコウちゃんに背中がゾワゾワと寒気立つ。
穂波、穂波、穂波穂波…!!
助けて、助けて…!!
「もう、勘だけはいいんだから♡」
目の前から聞こえてはいけない声が聞こえる。
いや、いやいやいや、嫌だ!!!
思わず目の前の化け物を押し退けて、駆け出す。
顔を、腕を、足をぶつけても、進み続ける。
出口、出口、出口、出口が、見つかるまで。
『なんで、逃げ切れると思っていたの?』
うるさい。
『あの男とのデートは楽しかった?♡』
うるさい。
『かぁわいい〜♡泣いちゃってるの♡』
うるさい。
『…』
戻れ戻れ、出ていけ出ていけ、出ていけっ!
黒い霧のようなものが見える。
もう、もうだめなのか?
助けて助けて…。
脳内に響いていた声が止んで、精神が憔悴する。
みっともなく取り乱す、顔なんかボロボロになっているだろう。
息は過呼吸気味になり、自分がどう息をしていたのか思い出せない。
そんな時、耳元で悪魔の囁きが聞こえた。
『ねぇ、あなたの幼馴染、どうなったと思う?♡』
「ッ!!?」
と同時に腕を掴まれる。
腕を掴んだ人物を見る前に、抗う。
「はっ…!離せっ!!!離せよっ!!!離せアバズレっ!!!
助けて、いやっ!!穂波っ!!!!穂波!!!」
「おっ、おい!?落ち着け!!ケンちゃん…!」
俺の名前が聞こえてきた、動揺した一瞬、目の前の人物に目を向ける。
「スゥッ…ヒュッ…ハァッ…!!」
「深呼吸しろ、大丈夫だ、大丈夫」
どくんどくんと脈打つ胸の音が聞こえてくる。
少し、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「穂波……穂波、ほなみ…」
「ここにいるよ、大丈夫、大丈夫……」
あの女の声がまだ脳に粘りついてくる。
そのねばつきがいつか脳みそごと溶かしてしまうのではないかと恐怖する。
どくんどくん。
「大丈夫」
どくんどくん。
「ケンちゃんなら大丈夫」
どくんどくん。
「俺もここにいるよ、大丈夫」
すぅ、はぁ…
俺の呼吸音と穂波の心臓音が脳内に響く。
穂波の大丈夫という魔法の言葉を頼りに呼吸する。
(俺……、俺…)
「大丈夫、ケンちゃんは大丈夫だよ、コウも外にいるよ、大丈夫、大丈夫」
「ふぅっ…ふうっ…はぁっ…あい、つが…」
「うん、大丈夫、もういないよ、大丈夫」
「いて…ふぐっ…うっ」
泣きたくないのに、涙が溢れてくる。
「大丈夫、大丈夫」
「お前が…どうなった、とおも、う?って」
「大丈夫だよ、大丈夫」
背中をトントンと叩かれていることに気づいた。
いつの間にか、キャストの人が近くにいることに気づいた。
なんだか眠たくなってくる。
目を閉じたら穂波がいなくなってしまう、そんな気がして、腕を掴んで離せない。
これじゃあ歩くのにも一苦労してしまう。
(穂波…穂波…)
抱えられる感覚がする、脳が働いていないのか、ぼうっとする。
「大丈夫、大丈夫だよ」
俺はその声を皮切りに意識を手放した。




