第十九 『衝動、もしくは穏やかな』
さて2人のわだかまりを取り除いて平和な日常に戻ろうとしていた俺。
だが、目の前の男はそれを許してくれないようだ。
「お前ぇ〜!!!!会長に俺を売りやがって〜…!!!」
「な、なんのことやら…」
ギャグのように涙を流し、俺の肩を掴みガッタガッタと揺らす男を目の前にしらばっくれるしかない。
——「受験生を呼んでなにかしら」
「いや、その…そう!霜井戸くんが呼んでました!」
「あら、そうなの、それならそうと早く言ってちょうだい。待ってなさい、式場の準備は終わっているわ…」
「あ、そのぅ、えと…ロッカー上のカメラが見たいそうで…実は…」
「……他の攻略対象の助けになることはしたくないのだけれど」
「ぁー…霜井戸くんがデートしてくれるそうですよ、えー…そう!この水族館チケット渡してくれと…」
「…上野七音、私が見込んだ女ね」
「滅相もない!さっ、早くフィアンセの元へ行ってあげてください!」
「ええ、1秒も惜しいわ、さようなら」
「うすっ!健闘祈ってます!」
記憶の中の俺はでっちあげにでっちあげを繰り返していた覚えがある。
休日が終わり、まさか主人公に絡まれることになると思っていなかった。
「いや、そのありがとうね、ほんと」
「ありがとうもクソもねぇよ!?
なぁ、俺言ったよな、対象はお前だって!?」
「あれはー、たとえ話って言ってたし、私女だし…」
「中身男だって確信してんだよこっちはぁ!
あぁ、こっちは女がこえぇんだよ…!!」
あははと笑うしかない、明日〜、明日〜!来てくれ〜!
会長でもいい、俺の強い味方〜!!
心の中で助けを求めるが、誰も来てくれない。
「……」
「………」
喚き散らしてすっきりしたのか、相手は急に黙る。
が、俺の肩から手を離したと思えば、急に鞄に手を突っ込んだ。
……まさか、そんなことはないとは思うが。
危険物が出てくるかもしれないと警戒心をあげる。
そいつが鞄から出したのは紙切れだった。
「は?」
「……お詫びに俺とデートいけ」
「いや、え、は?」
「遊園地のチケットだよっ!受け取れっての!」
俺に押し付けるように渡してくる。
「次の休み!朝迎えにいくから!
準備しとけっ!」
…えぇ…強引に渡してきた上に、怒り狂いながら先に歩いて行ってしまった。
どうすんだよ、これ…。
扱いに悩む紙切れを鞄へしまい、とりあえず追いかけることにした。
まだ道覚えきれてないから、置いてくなー!
——
「でぇ?受け取っちゃったのぉ?」
「…うん」
「いいねぇ、さすが幼馴染様様」
「お前が幼馴染だろうが!!」
2人で中庭で昼飯を食いながら、駄弁る。
高菜ちゃんはしばらく旗靡と飯を食うようだ。
つもる話もあるのだろう、しばらくは2人の世界にしてあげよう。
そして、つい明日に今朝のことを話すと、急にぶすくれてしまう明日は見た目だけならとても可愛い。
ぷっーと膨らんだ頬をツンツンと突くと、もっー!と怒る。
うん、可愛い。
「…犬もついてっていい?」
「犬って、頼れる味方がいてくれたらいいけどさ…
これはお詫びだから、あいつに悪りぃよ。
一回のデートで気が晴れるならいいかなって」
「…あいつ男だよ?
主人公だよ?
ケンちゃん攻略対象なんだよ?」
「分かってる分かってる、いつものダチとの遊びって思えばいいじゃん」
「…」
明日…いや穂波は表情を暗くし、下を向く。
その目はまだ赤い。
「お前は頑張ってくれてたからさ、俺がいいとこ取りしちゃったけど、お前がいなかったら、俺屋上まで辿り着けなかったかもしんなかった、会長も呼びに行けなかったかもしれない
全部間に合って、全部解決したのはお前のおかげだよ、穂波」
頭を撫でてやると、こちらの方に頭を預けてくる。
——「明日!」
「…ケンちゃんっ!俺っ、オレぇ!屋上入れなくて、助けれないっ!!!早く、高菜ちゃんを、2人を助けてっ!!!」
屋上の扉の前で泣き続ける明日の手は、赤く、ドアを殴り続けていた。
なにかのプログラムが邪魔をして、明日は屋上の扉を開けられなかった。
扉の奥から高菜ちゃんの悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
俺はしゃがみこむ明日の頭を撫でてからドアを開ける。
「任せろ」
そうして屋上へ入れる俺は、なんとか2人を救えた。
思い出す俺の横で、ふと寝息が聞こえる。
「あれっ、待って待って、明日〜?
あーすちゃぁん?寝ないで〜!」
「すぅ…すぅ…
ばかけんちゃん…すぅ…」
「寝言が悪意に溢れてる件について」
まぁいっか、肩から膝へと明日の頭を移す。
『いつだって味方』
「……俺もいつだって穂波の味方だからな」
そう言いながら、さらさらとした髪を撫でる。
予鈴が鳴り響くまで俺らは中庭で穏やかに過ごすのだった。




