大事な話
「それで?全部話したの?誠哉君に、、、」
響子はストローでアイスコーヒーを飲みながら恭丞に訊ねた
桐島たちの夏休みが終わって2週間
桐島の記憶も戻り、昔に起きた出来事も全て分かった響子と恭丞の2人は、行きつけの喫茶店にきていた 桐島のバイト先の喫茶店である マスターと知り合いの恭丞は、桐島がここでアルバイトをしていると知ってからまたよく来るようになっていた
「いや、、、話してない」
恭丞はタバコを吹かし、窓の外を眺めた 外はまだ夏の暑さが残り、眩しいほどの日光が差し込んできていた
「話そうとしたんだがな、、、いいって言われたよ」
「、、、そう」
響子は残念そうに頷いた しかし桐島の心情を思うと、その姿勢を否定も肯定も出来なかった
「つっても、前みてえに後ろ向きな感じじゃなくてな、、、なんか、全部分かってるみてえだったよ」
「、、、?分かってる、、、?」
「ああ、、、」
恭丞はタバコを灰皿に置き、桐島と電話で交わした会話を明かした
「全部分かったからよ、、、名古屋に帰ってきたばっかであれだけど、ちょっと会えねえか?話してえから」
「いえ、聞かないです」
恭丞の提案を桐島はバッサリと断った
「、、、全て、、、もう分かってます 俺は、大丈夫ですから」
「、、、そうか」
今までの投げやりな断りではなく、電話越しにも分かるほど桐島の声は明るかった 恭丞は少しホッとしながら頷いた
「ていうか、、、元々分かってました」
「え?」
「以前、歩の父親に、渡部明日香さんの事を聞いた事があったんです、、、その話と繋げたら、もしかしたらそういう事なんじゃないかって思ってました」
「、、、そうかよ 俺らが必死に調べるまでもなく、お前は先に知ってたんだな」
恭丞は少しだけ嫌味にそう言うと、桐島は笑いながら小さく謝った
「だから、、、後は俺の気持ちだけです ありがとうございました」
「、、、おう」
「そう、、、やっぱり強いなぁ 誠哉君は、、、」
響子はしみじみと呟くようにそう言った その言葉は、桐島を通してもう1人にも伝えているようだった
「ああ、、、そうかもな、、、」
恭丞も、灰皿で火を消しもう1人を思いながら呟いた
「これで、、、終わりよね」
「終わりって言うなよ 解決だ解決 俺たちも、、、やっとあの時間から、解放されたんじゃねえか、、、?」
しみじみと語る2人はホッとしながらも、寂しかった もう過去の美希や誠と共に過ごした時間と関わる事はない ただ、この胸に収めるだけである
「、、、ところで、その誠哉君は?」
響子は何気なく喫茶店を見回して訊ねた ここは桐島がバイトする喫茶店のはずだが、その姿は見当たらなかった
「だよな?休日は1日ここでバイトしてるってこの間聞いたんだが、、、マスター!」
恭丞は知り合いであるマスターにこの事を聞こうとカウンターの方を向いた
「桐島君かい?今日は休みだよ」
どうやら話を聞いていたようで、簡潔に答えてくれた
「やっぱそうか、、、」
「後藤、さっきの電話の時もだけど、、、あんた、ただ誠哉君に会いたいだけなんじゃないの?」
響子は手を口に添え、ニヤリと笑いながら恭丞をからかった
「それがなんか悪ぃかよ、、、響子」
「ふうぇえっ?ななな、なに!?その呼び方!?」
突如下の名前で呼んでくる恭丞に、響子は訳のわからない声を上げながら驚きを表す
「お前が嫌だって言ったんだろ 山田って呼ばれんの なら、響子しかねえだろ」
「な、なんで今更、、、20年近く山田だったくせに、、、!」
「いいから、お前も呼べよ」
「はぁ!?わ、私まで!?」
「おう、後藤じゃなくて、恭丞、な」
ニッと口角を上げて笑う恭丞に、響子は僅かに頬を赤らめる 妙に緊張しながら背筋を伸ばし、深呼吸した
「、、、恭丞」
「あーそういえば桐島君が言ってたんだけど!」
響子の勇気をかき消すようにマスターは大きな声で2人に呼びかけた
「はうっ!?ぐぬぬぬ、、、」
場を濁された事で響子は余計に恥ずかしい思いをしていた
「ん?なんだよマスター」
「桐島君が、、、今日は勝負に行くと言っていたよ」
マスターの言葉に2人は揃って首を傾げた
「勝負?」
恭丞と響子は顔を見合わせて首を傾げた
渡部の家
渡部は緊張気味に正座をしながら自室で鏡と向き合っていた
「うぅ〜、、、」
「も〜いつまで鏡見てんの?何も問題ないから大丈夫だってば」
凛は渡部のベッドに寝転がりながら呆れたように言った
「え、でもでも!なんか、、、変なとことかあるかも!」
渡部は終始髪を触りながら不安そうな表情をしていた
「今更何がそんなに恐いのかな〜、もう付き合いも長いのに」
凛は眉間にしわを寄せて不思議そうにしていた
「でも、、、フラれてから、まだ告白されてないし、、、してないし、、、」
渡部は小さな声で不服そうに呟いた その言葉を聞き、凛は呆れてため息をついた
ピンポーン
すると家にインターホンが鳴り響いた
「あ、来たんじゃない?出るね」
凛はすぐに立ち上がり部屋を出ようとした
「ちょっ、凛!わたっ、私が出るから!」
渡部は慌てて妹を追いかけ肩を掴む
2人は縺れ合いながら玄関までたどり着いた
「り、凛!待って!凛はここにいるように!ね!?」
渡部は凛の両肩を掴み、後ろを向かせた
「はいはい 分かったって」
凛はため息混じりにそう言うと、両手を上げた
渡部は自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、玄関のドアノブに手をかけた
ガチャ
「、、、お、こんにちは」
ドアを開けた先、そう言って挨拶をしたのは桐島だった
「こ、、、こんにちは!誠哉君!」
渡部は両手を揃えて膝に合わせ、お辞儀をした
バタン
すると両手を離した拍子に、ドアが閉じてしまった
「、、、あ」
渡部は慌ててもう一度ドアを開けた
「ごごごめん!ごめん!」
「お、おう、、、大丈夫」
桐島は苦笑いしながらドアを支えて玄関に入ってきた
「あははは!もぉー!何してんの姉さんー!面白すぎ、、、!」
凛はその様子を見て腹を抱えて笑っていた
「うぅ、、、わ、笑わないでよ凛、、、」
渡部は恥ずかしさやらなんやらで小さくなるしかなかった
「はは、、、お久しぶりですね 誠哉さん」
凛は息を整えて笑いを抑え、桐島に挨拶した
「久し振り 元気そうだな 凛ちゃん」
「、、、、、はい」
凛はにっこりと笑って頷いた
「姉さんと誠哉さんを見てたら、、、私はやっぱり、凛ちゃんだなって思います!」
凛はくるっと回って2人に背を向け、リビングへと続くドアを開けた
「、、、そうか」
桐島はそう頷くと、凛が開けたドアを通りリビングへとやってきた
リビングの奥の部分はカーペットが敷いてあり、そこにはテレビとソファーが置いてあった その手前のフローリングにはテーブルとイスが設置してある そのイスに渡部の両親、明義と由美が座って桐島を待っていた
「、、、こんにちは 桐島誠哉です」
桐島はそう言うと丁寧にお辞儀をした 明義とは事故の関係で何度か会っているが、由美と会うのは1年半ぶりである
「こんにちは 歩の父です ご存知だと思うがね、、、まあ座りなさい」
明義は手をイスに向けて桐島に差し出した 桐島は会釈しながらそのイスに座った
「、、、歩の母です こんにちは」
由美は目線を下に向けたまま、小さくお辞儀をした 渡部も桐島のイスの横に座り、4人はそれぞれの席に着いた
凛は奥のソファーに座り、4人に背を向けながらもこの場から離れられないでいた
「どうだ?体の具合は、、、もう何ともないかい?」
「はい 先生のおかげで、、、お世話になりました」
明義からの問いかけに桐島は笑顔で答え、改めてお辞儀をした
そんな会話の間、渡部は1人で考え込んでいた
(誠哉君、、、今日は大事な話があるって言って、ウチに来たんだよね、、、)
渡部はテーブルを見つめながら、今のこの状況について考えていた
(やっぱり、、、昔の話、だよね、、、まだお母さんと誠哉君は何も話していないだろうし、、、)
そう思うと、渡部は不安な思いに駆られていた 以前、由美は桐島と別れるべきだと言っていた そしてそう言っていた事を桐島に話し、結果として由美の言う通りになった その事をこの2人はどう捉えているのか、渡部は分からなかった
(私は、、、どうしたら、、、確かに何があったかだけは聞いたけど、でも、よく分からないし、、、)
渡部は隣にいる桐島の胸中が如何程か、全く聞いた事がなかった
(誠哉君は、、、どう思ってるんだろう、、、)
「、、、み、、、歩、、、」
「え?」
名を呼ばれた気がして、渡部はパッと顔を上げた
「歩!」
「は、はいっ!?」
渡部は慌てて返事をした どうやら渡部の名を呼んでいたのは明義だったようだ 何度か呼んでいたのだが、考え事をしていた渡部は気づくのが遅れた
「何をボーッとしているんだ?聞いていたか?」
明義は呆れたように眉をひそめながらため息をついた
「あ、いえ、、、ごめんなさい」
渡部は苦笑いしながら周りの様子を伺う 先ほどと別段変わった様子はなかった
「だから、進路の話だ 桐島君が訊ねているだろう?」
「えっ?進路?」
渡部はくるっと桐島の方へ首を回す
「ああ、歩はどうすんのかなって」
「あ〜、、、うん まだ決まってないんだけど、、、大学に行く事になりそうかな、、、」
桐島からの何気ない問いに渡部は考えながら答えた
「大学か、、、」
桐島は手を口元に添え、深く頷いた
「今はどこにするか絞ってる段階 そろそろ決めないといけないんだけどね」
「そうか、、、じゃ、まだ決まってないんだな、、、」
首を傾げながら話す渡部に、桐島は軽く相槌を打った
「誠哉君は?前は何も考えてないって言ってたけど、、、あ、私が大学を勧めたんだよね?」
渡部は以前に桐島とした進路についての話を思い出しながら言った
「おう、でも大学は止めとくよ 」
「え、、、じゃあ進路決まったの?」
落ち着いた様子の桐島に、渡部は少し動揺しながら訊ねた
「ああ、、、俺、飲食店で自分の店を開こうと思ってる」
「、、、はぇっ!?えぇっ?」
渡部は椅子を座り直して桐島の方を向く あまりの意外な進路に驚きを隠せなかった
「俺がバイトしてる喫茶店あるだろ?あそこのマスターはもう定年迎えるんだよ それを機に店も閉める予定だったらしいんだけど、俺が引き継ぎたいって言ったら店をもらえる事になった」
「えぇ、、、そうなんだぁ、、、全然知らなかった、、、」
渡部はもう驚く事しか出来なかった 詰まり切った息を思い切り吐き出す
「ホントは結構前から決まってたんだけどな だから閉店後もマスターに色々教えてもらったりして、、、まだ高校卒業までは色々教えてもらう予定だよ」
桐島は終始落ち着いた様子で話していた 以前から決まっていたというのはどうやら本当のようだ
「、、、そっか」
(すごいなぁ、、、ホントに、、、)
渡部は感心するばかりだった やりたい事もやるべき事も見つけられない渡部に対し、桐島はずっとやる事を決めていたのだ
「、、、あ、もしかして、話ってこの事?」
渡部はハッと気がつき、桐島に訊ねた
「ん?」
「今日、大事な話があるって言ってたよね?それってこの、、、進路の、、、事、、、?」
渡部は話しながら桐島や両親の微妙な反応を感じ、だんだんと声のトーンを落としていく
「、、、かと、思ったんだけど、、、違った、、、かな?」
渡部は最後に小首を傾げ、軽く笑って誤魔化そうとした
「、、、昔の事、でしょ?」
由美はずっと閉ざしていた口をゆっくりと開いた
「えっ、、、」
「、、、、、」
由美の言葉におどおどする渡部に対し、桐島は黙ったまま動かなかった
「それは、、、避けては通れないものね、、、」
由美は覚悟を決めたように深く息を吐きながら独り言のように呟いた
「、、、由美」
いつもと様子の違う由美の様子に明義も気が引き締まった
「私は、、、貴方に合わせる顔が無い、、、貴方には、、、謝る事しか出来ない、、、」
由美はずっと俯いたまま話し続けていた 話どころか、最初の挨拶の時でさえ目を合わせられないでいた
「貴方の目が、、、姿が、言葉が怖い、、、」
(誠哉君の後ろには、、、誠君と美希さんの姿が見えるから、、、)
由美は怯えていた 桐島はきっと自分を恨んでいるだろうと思っているからだ そして、桐島の言葉は両親の気持ちの代弁であると、そう由美は考えていたからだ
「ごめんなさい、、、!貴方から全てを奪ったのは私です、、、!ごめんなさい、、、!」
由美はテーブルに這いつくばるように頭を下げて謝罪した 17年ほど前の出来事に対してだけでなく、この事から逃げ続けていた、目を背け続けていた罪悪感もあり、由美は目の前の桐島の顔を見る事も出来ないまま頭を下げた
「本来、、、謝るべきは私だ すまない」
明義は背筋を伸ばし、隣の由美にならって頭を下げた
「お母さん、、、お父さん、、、」
渡部はこの場をなんとか収めたかったが、どうする事もできなかった 桐島の味方をすることも、両親を庇う事も出来ず、ただ狼狽えるだけだった
「、、、、、」
凛はソファーから振り返り、その光景を目を細めながら見ていた そして再び前を向いて座り、4人に背中を向けてため息をついた
「、、、俺に謝る必要はないですよ」
桐島はふっと軽く呟いた この閉塞しきった雰囲気に風穴を開け空気を入れ替えるには、その一言で充分だった
「俺の母親が亡くなったのも、、、俺が孤児院に行ったのも、、、結局は全部偶然ですから、、、」
「でも、、、!それでも、原因を作ったのは私達よ、、、!?私はそれこそ、貴方に殺されたって文句なんか言えない、、、!それだけの事をしたって、、、ずっと、そう思ってた、、、!」
由美はテーブルに突っ伏して顔を上げないまま息を激しく荒げていた
渡部は苦しむ母の姿を辛そうに見ていた 明義は何も言えずに、ただ桐島に頭を下げるだけだ そんな4人の声を、凛は背中を向けたまま聞いていた
「俺は、、、不幸じゃないですよ」
桐島は先ほどまでと同じように、落ち着き払った声で答える
「、、、っ!」
その言葉を聞き、由美は息を止めた そしてゆっくりと整え、桐島の次の言葉に耳を澄ませる
「俺が不幸だったら、、、もしかしたら、お2人の事を恨んでたのかもしれません、、、でも、、、俺は孤児院に、埼玉に行って、、、不幸だったとは思ってないです」
桐島は記憶を遡らせていく この記憶はもともと覚えていた部分と、走馬灯によって再生された部分の両方を合わせた記憶である
「孤児院でも、家族は出来ました 幼馴染が出来ました 安心して帰ってこれる場所が出来ました」
おばあさん、受付の草津、鈴科愛、水野千佳、他にも孤児院で出会った多くの人達を頭に浮かべながら、その人達を思いながら、桐島は言った
「中学では、親友って呼べる奴が出来て、、、すげえ色々、、、多分人生で一番色んな事をして、楽しい事もあれば、、、悲しい事も、、、どうしようもないような、辛い事もあって、、、」
野波佳焦栄、菅井緋斬と中学時代にやっていた事を思い出していた そして最後に、菅井南と過ごしたたった数ヶ月の思い出と、長すぎる別れを、はっきりと頭に思い浮かべていた
「高校に入って、、、何人も友達が出来て、、、体育祭とか文化祭とか学園祭とか、みんなで作りながら楽しんで、、、」
徒仲麻癒、外山英太、北脇紗菜、九頭寿、瞬純、安川真奈美、浜薫、片岡綾、その他にも高校で知り合った人達や、南涯高校の校舎やグラウンド、全てを思い出していた
「名古屋に来てからも友達は出来ました、、、その友達は、中学時代に出来た親友の幼馴染だったり、、、たまたま京都みたいな遠いところからきた奴がアパートの部屋で隣だったり、、、そのアパートの大家が、埼玉の高校の先輩の友達だったり、、、」
須原浩二、秋本梓、早乙女葵、3人との繋がりと一緒にアパートや銘東高校を思い出しながら話す
「色んな人達と出会いました、、、楽しい奴、ムカつく奴、頑張ってる奴、バカな奴、、、それと、、、」
桐島はゆっくりと渡部の方を見た 渡部もそれに気付き、桐島と目を合わせる すると桐島は、優しい顔で微笑んだ
「大切な人に、、、好きな人に、出会えました」
「、、、、、!」
突然の言葉に、渡部は息を飲み何も言えなかった 照れ臭そうに目をそらし、また桐島の言葉に耳を傾ける
「何度離れ離れになっても、、、今はこうして隣にいます、、、きっとこれから何があっても、どれだけ遠くに離れても、絶対に切れない繋がりなんです それが、、、縁なんです」
桐島は真っ直ぐに由美と明義を見ていた そしてこの言葉は桐島と渡部、2人だけを表したモノではない
名古屋で再会した水野、親友だった菅井と渡部が幼馴染だった事、渡部の両親と桐島の両親の関係、その他にもあった様々な繋がり、思い、そして【縁】の全てを受け入れ、噛み締め、桐島は全身で感じていた
「それに、、、もう17年も経ってるんですから、先生は特に、そんなに謝らないで欲しいです」
桐島は少し冗談っぽく笑いながら明義に言った
「え?いやしかし、、、悪いのは私で、、、」
明義は桐島のよく分からない言葉を慌てて否定し、謝る姿勢を覆そうとしない
「その事が良いか悪いかなんて、他人の俺が言う事じゃないんで何も言わないですし、、、それに先生を肯定するつもりもないです、、、でも、、、」
桐島は顔を上げた 渡部の両親の間を抜けて更に奥、ソファーに座って背中を向けている凛を見た
「でも、少なくとも、、、先生が渡部明日香さんに出会わなければ、、、凛ちゃんはいなかった、、、」
「、、、え、、、」
凛は自分の名前が聞こえ、急いで振り返った
「だから、、、俺に謝るのは辞めてください、、、俺は、凛ちゃんに会えて良かったって思ってるんで」
桐島は明義と由美の顔を見ながら笑顔でそう言った 明義と由美は戸惑いながら後ろを向き、ソファーに座る凛を見た
凛は丸くした背中を向け、クッションに顔を埋めて表情を見せなかった
「ば、、、ばかじゃないんですか?本当に、、、」
凛は必死で息を整えながら言った 泣いてる事を悟られたくないからだ
桐島と渡部の両親の話題が出てから、凛はずっと辛かった
(私なんか、、、生まれて来なければ良かった、、、って、みんなに言われてる気がしてた、、、)
両親が桐島に謝る姿を見て、凛は更にその思いを強めていたのだ 今日、4人がこのテーブルにつく事も、凛にとってかなりのストレスだった
(そう一番思うはずの、、、一番の被害者のはずの誠哉さんが、、、)
桐島の言葉に凛は間違いなく救われていた
「バカな事言わないでください、、、こっちまでバカになりそうですよ」
(、、、ありがとうございます、、、誠哉さん、、、)
クッションに押し付けるように放った言葉は、その心と真逆だった しかし、その心の中はこの4人全員にしっかりと伝わっていた
「、、、由美さん」
桐島は俯いている由美の名を呼んだ 桐島から初めてその名を呼ばれた由美はビクッと反応しながらも、まだ桐島の顔を見れないでいた
「俺は、、、全て縁で繋がってるんだって、本当にそう思ってます、、、俺は確かに両親と離れて埼玉に行きました けど、、、」
桐島は目の前の由美に伝わるように前のめりになった
「俺と由美さんは、、、また会えたじゃないですか、、、!由美さんの親友だった桐島誠の息子が、ここにいるじゃないですか、、、?」
「、、、っ、、、!」
由美はゆっくりとテーブルから顔を離した
「これだって縁ですよ だから、、、目を逸らさないで欲しいです この繋がりも、、、俺にとっては良いモノですから」
桐島の言葉通り、由美は顔を上げた 涙を必死で拭った後桐島と目を合わせ、その顔を、表情を見た
「っ、、、」
(、、、誠君に、、、すごく似てる、、、)
由美は桐島の顔から目が離せなくなった かつての親友に瓜二つのその姿が目の前にある事に、由美は喜びを感じていた
「また、、、俺の父親の話、聞かせてください 後藤さんと一緒に、、、出来れば響子さんもいれて、俺の母親の話も、、、」
「、、、うんっ、、、うん、、、!」
由美は何度も頷いた 誠の姿や行動を思い出しながら、桐島の言葉に何度も頷いた
(見た目だけじゃない、、、その優しい所も、、、本当に、、、)
堪えようとすればするほど気持ちが溢れ、由美は自分の涙を抑える事が出来ず、息を乱していた
「うぅ〜、、、うっうっ〜、、、」
渡部は桐島の隣で話を聞きながら、凛や由美以上に泣いていた
「なんでお前が泣いてんだよ、、、」
桐島は呆れた様子で笑いながら言った
「だって、、、みんな仲良く出来て良かったからぁ、、、」
貰い泣きを本人達以上にしていた渡部は、肩を揺らしながら俯いていた
「なんだよそれ、、、」
渡部の返事に桐島は更に笑った そのやり取りを見て、明義と由美、後ろにいる凛も小さく笑っていた
「でも、、、誠哉君の大事な話、ちゃんと出来てよかった、、、」
息を整えた渡部は、桐島を見ながら笑顔になった
「ん?」
「、、、って思ったけど、、、違う、の?」
桐島の反応を見て、渡部はまた誤魔化しながら首をかしげた
明義、由美、凛も不思議そうな顔で桐島を見る 桐島の言う大事な話とは、この事であると思っていたからだ
「いや、、、まあ確かにこの話もしねえとなとは思ってたけど、、、本当の大事な話ってのはちょっと違ってさ」
桐島は持っていたカバンをゴソゴソと探り出した
「俺が記憶喪失になってる時にさ、、、歩にすげえ言いたい事があるって言ったの、覚えてるか?」
「ふぇっ?あ、、、う、うん!」
桐島の問いかけに渡部は慌てて激しく頷く
(確か、、、記憶が戻った時の俺が言いたい事だと思うから、今は言わないって、、、は!記憶が戻った時って、今!?)
渡部は1人であれこれ考えながらドギマギしていた
「とりあえず、、、これ」
桐島はカバンからあるものを取り出した
それは四角い箱だった 赤く四角い箱が綺麗にラッピングされていた
「え、、、?」
桐島に差し出され、渡部は困惑したまま受け取った
「見ていい?」
「おう」
渡部の問いに端的に答えた桐島は、ラッピングが解かれていくのを緊張しながら見ていた
そしてその四角い箱が貝殻のように開くと、渡部は少し口を開けたまま驚いた
「こ、、、これ、指輪?」
「ああ、、、歩に似合いそうなの選んだつもりなんだけど、、、」
「綺麗、、、」
渡部はイエローゴールドの指輪を見ながらふと呟いた 二本の紐が絡み合っているかのような特殊なデザインに、小さい宝石が散りばめられている
「嬉しい、、、ありがとう」
渡部はそう言った後、ハッとある事に気づいた
「で、でもこんなの綺麗すぎてどう付けていいか分かんないっていうか、、、ど、どうしよ!?何かお返しとかした方が、、、」
「いいって それは、歩の誕生日の時に渡す予定だったから」
「え、、、?」
渡部の誕生日、それは2人が別れたその日でもあった
「そんで、この指輪はこのお守りのお返しだからさ」
桐島は首に提げているお守りを取り出した 渡部から貰った【縁】と書いてあるお守りである
「この指輪の名前、、、縁って言うんだよ この紐のデザインがそれをイメージしてるらしい、、、」
「、、、えにし、、、?」
「ああ、縁って書いてえにし、お守りと同じ字だよ お返しにはぴったりだろ?」
「、、、、、」
渡部は改めて指輪を見た 桐島から貰えたという事が、渡部にとっては何より嬉しく、勝手ににやけてしまっていた
「誕生日の時は、、、俺に覚悟が無かったから、、、」
「、、、え?」
ぼそっと呟く桐島に、渡部は顔を上げて聞き返した
「さっきも聞いたけど、、、まだ進路は決まってないんだよな?」
「え?う、うん、大学をまだ調べてる段階だから、、、」
「じゃあよ、卒業したら大学なんて行かねえで、、、」
2人は目を合わせた その瞬間、すぐ近くにいる明義、由美、凛の姿は視界に入らなくなった それどころかテーブルもソファーもテレビもカーペットも、その全てが無くなり、互いに互いの姿しか見えなくなった
「俺と結婚してくれ」
「、、、、、え?」




