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  作者: 外山
216/216


高校を卒業した桐島は約束通りにマスターの喫茶店を引き継いでいた

昼間は喫茶店、夕方から夜にかけては洋食屋といった形に改良し、マスターと相談しながら店を作り上げていった

既存のメニューも残しつつ幾つかの新メニューも加え、新しい飲食店としての準備を進めていた


「ふーっ、、、やっと全部綺麗になったな、、、」

桐島は店の奥の部屋の中で呟いた この店はもともと家だったようで、奥には畳の部屋があった もちろんトイレも風呂もキッチンもあり、なんと2階にも部屋がある しかし誰も住んでいなかったため、一部は業者に委託しながらも自分で清掃をしていた

高校卒業後、桐島が自分でここに住むためである


「お疲れ様でした わぁ、すっごい綺麗ー!」

そう言って目を輝かせたのは渡部だった 老朽化した畳をフローリングに差し替えたため、ペタペタとする床が一番光っていた

「お店の改装も部屋の掃除も終わったし、、、ベッドだけ2階に運んであるから、今日からやっとここに住めるねー」

渡部は何も無い部屋に何を置くか考えながら胸を弾ませていた

「ああ、、、けど、本当にいいのか?」

「? なにが?」

「2階もあるっつっても、広いわけじゃねえし、、、無理して店に住まなくてもさ、歩は実家にいたままでもいいんだぞ?近いんだし、、、」

桐島は少し不安そうに迷いながら言った

「、、、なに言ってるの?」

渡部はクスッと笑いながら窓に背を向け、桐島を見て微笑んだ

「結婚するんだよ、、、?一緒に住むなんて、当たり前でしょ?」

「っ、、、そ、そうか、、、だよな」

結婚、という言葉に桐島は照れ臭くなった そして何度か頷いた後、再び口を開いた

「よ、よし!じゃあ行くか」

桐島は自分に言い聞かせるようにわざと大きな声で言った そして、ずっと手に持っていた1枚の紙を渡部に渡した

「、、、うん」

渡部はその紙を受け取り、静かに笑った その表情に、渡部の幸せの全てが表されていると、桐島はそう感じた

その婚姻届の記入欄は、もう全て埋められていた





2人は婚姻届を持って家を出た 暖かい春の陽気の中、2人はこの天気のようにポカポカとした気分で歩いていた

「あ、そうだ、、、役所に行く前に、ちょっと行きたい所があるんだ」

桐島は唐突にそんな事を言い出した

「え?どこに行くの?」

「歩も来てくれるか?」

渡部は首を傾げ不思議そうにしながらも、とりあえず頷いた



役所への道を逸れた2人は、とある墓地へとやってきていた

そして1つの墓の前に、2人は立った


「、、、ここって、、、」

「、、、歩は、1回ぐらい来たか?」

そこは、菅井家の墓だった 菅井緋斬、菅井南が眠っている墓である

「うん、、、去年の命日に、、、浩二君と梓ちゃん、それと緋斬君のお母さん、あと埼玉から来てくれた野波佳君も一緒に、、、」

(でもその日、、、誠哉君は来なかった、、、)

渡部はこの事について桐島に触れた事は無かった 菅井の命日は桐島にプロポーズされた約1ヶ月後だったが、桐島は渡部や皆からの墓参りの誘いを断っていたのだ

「ここにはさ、、、緋斬だけじゃなくて、南も入ってるから、、、」

そう言うと桐島は、隣にいる渡部を見た

「南は、、、、、俺の初めての彼女だから、、、歩と2人で、ここに来たかったんだ」


桐島は目線を墓に戻し、南の顔を思い浮かべた


「南、、、遅くなってごめんな、、、ずっと、会いに来なくてごめん、、、」

南に向かってゆっくりと言葉をかける 走馬灯の最後、生死を彷徨う最中に見た南の姿を墓に重ね合わせた

「お前に会いに来る時は、、、一生大切にしたい人と2人で来るって、、、そう決めてたんだ」

「、、、、、!」

桐島からの言葉に渡部はビクッと反応した そしてその後、桐島と同じように墓を見つめた

「歩を見たら、お前なんて言うかなぁ、、、ヤキモチ妬いてくれるか?応援してくれるか?」

そう問いかけると、桐島には南からの返事が聞こえたような気がした

「、、、やっぱり、へったくそな料理作って、祝ってくれるんだな、、、」

この言葉にも、南ならなんと言い返すか桐島には分かるような気がした


「、、、緋斬」

桐島は次に菅井に呼びかけた またあの白い空間で見た菅井を思い浮かべる

「お前の幼馴染みと結婚する事になったよ、、、中学の時は喧嘩ばっかしてた不良だったけど、、、もうしてねえからさ?安心しろよ?」

桐島は少し笑いながらそう言った そしてカバンから小包を取り出した

「これ、、、やるよ 好きなんだろ?卵焼き」

桐島はしゃがみ込んで小包を解き、中の箱を開けると卵焼きが入っていた

「南が言ってたんだよ 緋斬に色んな料理食わしたらこれが一番好評だってさ、、、南特製の出汁があったらしいけど、味はまあまあ再現出来てると思う」

桐島はさらに懐から、とある紙を取り出した 端々は切れ、シワも付いている紙だ

「ウチの店の新メニューにもしようと思ってる だから本当は料金を取りたいとこなんだけど、、、お前からはこれを貰ってるからよ?」

その紙には、こう書いてあった



【菅井レストラン・喫茶店 桐島料理長の一品 無料券 00001】



「無料券を利用すんのはお前が最初で最後だよ、、、そんなもんねえから」

そう言いながらゆっくりと立ち上がる 日差しが墓から反射し眩しかった

「南、約束通り、料理長になったから、、、兄貴と一緒に食えよ お前らがウチの最初のお客さんだ」

桐島は最後にそう言い残し、その場を去った


そして少し歩き、また違う1つの墓の前に立った

これは、旧姓波崎美希、桐島美希、つまり桐島の母のお墓だった

「、、、、、」

桐島は墓をじっと見ながら、写真と走馬灯で見た美希の顔を思い浮かべる

「はっ、、、お、お母さん、、、!?」

すると渡部は慌てた表情で桐島に確認する

「え、、、あ、ああ」

「やっぱり!お、お母さん!この度、誠哉君と結婚させて頂ける事になりました、渡部歩と申します、、、!挨拶が遅れまして、、、申しわけございません!」

渡部は突然お墓に向かって挨拶を始めた 額の汗を拭いながら緊張気味に喋っているため所々噛んでいる上に言葉遣いも少しおかしかった

「精進いたしますのでどうか宜しくお願い申し上げます、、、!頑張ります、、、!未熟者であると自覚しております故に、、、その、、、ええっと、、、」

「もういいって 何を訳の分かんねえ事言ってんだよ」

目をぐるぐる回している渡部を桐島は笑いながら止めた

「うぅ、、、ごめん、、、」

困った様子でいる渡部を一歩下がらせ、桐島は改めて母親と向き合った

「こんな感じの奴だけど、、、意外としっかりしてるトコもあるから、、、」

桐島は渡部の肩に手を置きながら言った 渡部は先ほどまでの自分のダメ具合を考えると小さくなるしかなかった

「、、、幸せになるよ、、、」

桐島はもう一度この約束を誓った

「母さん、、、、、ありがとう」

ずっと言いたかったこの言葉を、やっと言うことが出来た 母さんと呼びたかった 命をかけて助けてくれてありがとうと言いたかった

(やっと、、、伝えられた、、、)

桐島は後ろにいる渡部の方を見て手を繋いだ そしてもう一度だけ美希の墓を見つめて、最後の言葉を告げた

「もっと幸せになったら、、、また会いに来るよ いつか、、、母さんに会える日まで、、、、、何回も幸せになって、何回も会いに来る」





墓参りを終えた2人は墓地の出入り口付近を歩いていた

特に交わす言葉もなく、かと言って気まずいわけでもなく、その沈黙を互いに味わいながら一歩ずつそこから離れていく

すると、前方から歩いてくる男性の姿が見えた おそらく墓参りに来たのだろう、墓地に向かって歩くその男性は少し俯いていて、桐島からは顔が見えなかった

その男性とすれ違った瞬間、桐島は何かを感じた

懐かしい香りのような、突き刺す痛みのような、握りつぶされる恐怖のような、暖かい愛のような、、、、、

桐島は思わず、足を止めた

「、、、、、」

「、、、誠哉君?」

渡部は不思議そうに首をかしげる 足を止めた桐島は後ろを振り向かず、目を瞑っていた

その男性がいる後ろが気になって仕方なかった そして桐島には見ていなくても分かる その男性も、間違いなくすぐそこで立ち止まっていた

今しかない 桐島はその事に気づいていた

もうきっとこのチャンスは訪れない 未来の事など分かるはずもないが、このチャンスはもう一生来ないと、そう桐島は思った

「、、、、、」

桐島はゆっくりと目を開いた そして、一歩前に足を踏み出した

「、、、?」

渡部は不思議そうにしながらも、歩く桐島についていく

(きっとこの人は、、、俺が会っちゃいけねえ人なんだな、、、)

桐島は隣にいる渡部の手をそっと握った

「え、、、?」

渡部は桐島の顔を見る その桐島の表情は、今まで渡部が見た事がないほど大人びていた

「、、、、、行こう 歩 幸せになりに」

その言葉に、渡部は小さく微笑んだ 春風が2人の間を吹き抜け、長い冬の終わりを強く感じさせる

「、、、、、うん」






「、、、、、今、まで繋がってる、、、、、」

















1年後



「、、、んー?なんか変じゃねえかな、、、」

ここは名古屋のとあるビルの2階

桐島は眉間にシワを寄せ、鏡を見ながら真っ白のタキシードのネクタイを触る

「だーかーら!大丈夫だって!イライラするねーもー!」

せっかく整えたネクタイに首を傾げられ、瞬はイラ立ちを桐島にぶつけていた


ここは桐島誠哉と桐島歩、旧姓渡部歩の結婚式場である

結婚生活を1年過ごした後、貯めたお金でなんとか結婚式を執り行う事が出来たのだ

「おー!桐島かっこいいじゃん!」

九頭は桐島の背後に回り込み、鏡越しに目を合わせた

「って、そう言ってるあんたのネクタイがズレてるから」

北脇は九頭の肩を掴んで、ネクタイをきゅっと締め直す 九頭は息苦しそうに首元を触っていた

桐島は慣れない衣装に疲れ、ソファーに座って息をついた

「桐島、お前どうなんだよ 店の調子は」

そのソファーで横に座っていた外山は何気なく桐島に訊ねる

「ああ、まあまあだよ 元の喫茶店の常連さんも来てくれてるし、、、今んとこはやってけそうだ」

「ふ〜ん、、、そうか」

外山は大きく何度か頷きながら相槌を打った

「、、、ま、やっぱお前には似合ってるよ あの店は」

「、、、なんだよそれ」

外山のそのセリフに若干聞き覚えがあったが、桐島は軽く笑って流していた

すると野波佳が2人の前に現れ、桐島の隣に座った

「結婚かぁー、、、まさかお前がなぁー、、、」

野波佳はわざとらしく息を吐きながら桐島に言った

「結婚したのは1年ちょっと前だけどな、、、俺はそれより、お前が大学行ってる方が驚きだよ」

「ははっ、確かになー、、、悪魔が結婚して、狂犬が大学かよ」

野波佳は中学時代の自分たちの異名を引き合いに出し、懐かしそうに笑った

「んで、、、死神のヤローが真っ先に死にやがったからな、、、」

「、、、ことごとく似合わねえな 間違ってたんだよ 俺らのあだ名」

野波佳と桐島は顔を見合わせ笑った そしてその瞬間はきっと、菅井緋斬も一緒になって笑っていた事だろう


ガチャ


「お待たせしましたー!花嫁のご登場でぇーす!」

ドアが開いたと同時に徒仲の甲高い声が響き渡る

その声に控え室にいた全員がそちらに注目した

「ちょ、ちょっと麻癒!そんな大袈裟に言われたら、、、!」

そう言いながらウェディングドレス姿で現れたのは渡部歩改め、桐島歩だった 歩は注目される皆と目が合いハッと動きを止める

「大丈夫だよあゆみーん!かわいいかわいい!」

そう言って後ろから背中を押すのは安川だった 安川は慌てる歩の姿さえもニヤニヤしながら楽しんでいる

「も、もぉ、真奈美さん、、、」

「ね、キリシマン!かわいいでしょ?」

困っている歩をよそに、安川は桐島に感想を求めた

「えっ?、、、お、、、」

桐島は改めて歩の姿を見る 純白のドレスを身にまとう歩に、桐島は言葉が出なかった

「、、、うん、、、その、、、」

「、、、、、」

狼狽える桐島に、歩はさらに恥ずかしくなっていた

「もーキリシマン0点!ダメだよねぇ?」

「最悪ね なんでもあるでしょーに」

安川と瞬の両側から責められ桐島は苦い顔をするしかなかった


「ったく、ダメダメだな誠哉 女性の扱いが分かってねえ」

「未だ独身のあんたよりは分かってるんじゃないの?」

そんな辛辣なやり取りをしながら現れたのは恭丞と響子だった

「ぐっ、、、」

「恭丞さん!響子さん!来てくれたんですね!?」

恭丞の言葉に対しさらに苦い顔をする桐島とは対照的に、歩は目を輝かせながら2人を迎えた

「当たり前でしょ?」

「俺にとっちゃ、親友2人の息子と娘の結婚式だからな、、、」

恭丞はそう返事しつつ周りを見渡しながら、ゆっくりと桐島に近づいていく

「、、、この場所を選んだんだな?」

「、、、はい」

恭丞の言葉に桐島はゆっくりと頷く

「そうか、、、」

恭丞はゆっくりと顔を上げて少し離れた場所にあるソファーを見た そのやり取りを聞いていた響子も、恭丞と同じソファーを見ていた

そのソファーの近くでは、無邪気にじゃれ合う2人の幼児の姿が浮かんでいた

「、、、でかくなりやがって ったく」

恭丞は桐島の頭を荒っぽく撫で、ドアの方へ向かって歩き出した

「このウェディングドレス、、、」

響子は歩の着ているウェディングドレスを見ながら、遠い過去の事を思い出す

「、、、はい、これは、、、誠哉君のお母さんが着ていたモノなんです、、、」

歩は目線を下げ、じっとウェディングドレスを見つめる

「、、、そうよね、、、」

響子が過去の美希の姿を思い浮かべていると、そこに歩の母、由美が現れた

「あ、お母さん、、、」

「、、、、、」

響子の後ろからスッと現れた由美は、歩の呼ぶ声に答えずにそのウェディングドレスを見つめていた

(美希さんの、、、、、)

由美は思い出していた 自分が原因で、美希を死に追いやってしまった事を それで長年苦しんでいた事を

「、、、、、!」

由美は奥に座ってる桐島を見て、目を見開いた 誠とそっくりなそのタキシード姿をしている少年は、かつての結婚式で娘と遊ばしていた子供である その子供達が互いに成長し、この場所に夫婦として戻ってくる この事に由美は運命を、いや、縁を感じずにはいられなかった

(、、、今に、繋がってる、、、全ての出来事が、、、)

由美は歩を見て、ゆっくりと口を開いた

「、、、綺麗よ 歩 ウェディングドレス、、、よく似合ってる」

もし以前のように、美希や桐島から逃げたままの由美だったら、この言葉は出なかったろう かといって、過去の事情が無くなる訳ではない それも含めてその全てが、今へと繋がっていくのだ

「、、、うん!ありがとう!」

歩は満面の笑みを浮かべた その笑顔を見ると、由美も響子も心の底から安心する事が出来た

「誠哉君もお父さんそっくり!似合ってる!」

由美は少し離れた桐島に手を振りながら声をかける

「、、、ありがとうございます」

以前まで由美から感じていた壁は無くなり、桐島は嬉しそうに頷く

「ふっ、、、んじゃ、俺タバコ吸ってくるわ〜」

由美と桐島のやり取りを見て微笑んだ恭丞は、そのままドアの外へと出て行き歩いていく

「え?じゃあ私も行く 吸わないけど」

由美も恭丞の後に続いて出て行く

「え、、、ちょ、私だけ置いてかないでくれる!?」

1人だけ年長者になるのが怖かった響子もそのまま出て行った



「あれ?浜先輩とか来てるよね?」

瞬は安川に確認するように訊ねた

「うん でもこっちには来ないって 浜さんも片岡さんも早乙女先輩もなんか酔っ払っててさ〜 あ、須原君と秋本ちゃんと千佳ちゃんもそれに付き合わされてるみたい」

安川がそう説明している最中に激しい足音が聞こえてきた

「おーはようございまーす!はぁ、はぁはぁ、、、」

そう言って着いて早々膝に手をついたのは桐島の幼馴染み、水野千佳だった どうやら走ってきたようだ

「いやー、先輩方から抜け出すのは大変だったよー!って、おー!みーゆ!」

水野は目の前の歩に気づき忙しくリアクションをする

「みっちー!久しぶり!」

「みーゆ!めちゃかわいいよ!すごーい!」

水野は目を輝かせて歩の全身を見る

「わざわざ東京からありがとうね 大学で忙しいのに、、、」

「埼玉の方が遠いぞー」

歩の気遣いの言葉に外山は小声でヤジを挟んだ

「いいよいいよ!天下の卆壬大学生は余裕があるのだよ」

水野は指をピストルの形にして顎に添え、得意げな顔を見せた 卆壬大学とは浜や片岡も通ってる日本で最も偏差値が高い東京の大学である

「、、、ん、おっ、誠ちゃん!かっこいいね〜」

桐島に気づいた水野はニヤニヤしながら近づいていく

「なんだよ、、、」

「タキシードなんか着ちゃってー、ネクタイ締めちゃってー、このこのー!」

「やたらテンション高えなぁ、、、浜さんと一緒に酒でも飲んでたんじゃねえだろうな?」

終始楽しそうな水野に桐島は引き気味に言葉を返す

「あっ、そうそう!私のテンションの高さにも理由があるのだよ!お酒じゃないヨ?」

水野は指を立ててまたわざとらしい口調で言った

「どこ?誠ちゃんとみーゆの赤ちゃん!」

水野はそう言うとキョロキョロ周りを見る しかし赤ちゃんは見当たらない

「そうだ!それ忘れてたぜ!」

外山も俄然テンションが上がり、ソファーから立ち上がった

「どこ!?みーゆ!?女の子なんだよね!?」

水野はバッと勢いよく後ろを振り返り、歩に訊ねた

「うん、あの子なら今、、、」

「おーおー、噂されてるねぇ、、、」

歩が答えようとしたその時、ドアの外から現れたのは鈴科孤児院のおばあさんだった おばあさんは赤ちゃんを抱きかかえながらよしよしと宥める

「せ、誠哉の娘!」

「!見たい!」

真っ先におばあさんの元に駆け寄ったのは野波佳と水野の2人だった 2人はおばあさんの腕の中にいる赤ちゃんの顔を覗き込む

「、、、うっ、、、ひぐっ、、、おぎゃーおぎゃー」

2人の勢いに赤ちゃんはすっかり怯え、泣き出してしまった

「あー、せっかく落ち着いた所だったのにぃ」

するとおばあさんの後ろから鈴科が現れ、赤ちゃんをあやし始めた

しかしなかなか静かにならない

「ったく、お前ら泣かすんじゃねえよ」

すると桐島がおばあさんの元に駆け寄り、赤ちゃんを受け取った

「ほーら、もう大丈夫だぞ〜」

桐島は普段の声よりも高く穏やかなトーンで赤ちゃんに話しかける 桐島に抱かれると、赤ちゃんはすっと落ち着きゆっくりと静かになっていった

「、、、おい」

すると外山が遠くから声をかけた

「あ?なんだよ?」

桐島は大体何を言われるか予想が付いていたため、最初から喧嘩腰で返事をした

「え、、、な、なに?今の声?」

北脇は手で口を覆いながら桐島に訊ねる

「ああ?だから何が?」

「ぷ、、、くく、、、キリシマンが、、、」

安川はしゃがみ込んで必死に笑いをこらえながら震えていた

「ほーら、もう大丈夫だぞ〜」

瞬が桐島のモノマネをした瞬間、張り詰めた糸が切れたように笑いが起きた

「はっはっはっはぁ〜!んだよそれお前よぉ〜!桐島が!?あの声!?」

外山は腹を抱えて大笑いしていた

「ちょっと純〜!?モノマネはナシだよ〜!あははは!」

「悪くないよ!?誠哉は何も悪く無いんだけど、、、うっ、、、くくく!」

安川と北脇はソファーに座り込んで苦しそうなほど笑っていた

徒仲、野波佳、水野も申し訳ないとは思いつつ、顔をそらしながら笑っていた 九頭は何のことかよく分からずキョトンとしていた

「あーもーうるせえ!黙れ!」

桐島は赤ちゃんを抱きしめたまま首を振って聞かないようにしていた

「誠哉君ね、この子の事いっつも甘やかすの 今日もこの子の名前を書いた大きな板を持ってきててね?後で一緒に写真を撮るんだって」

「余計な事言うな!」

更に暴露しようとする歩を桐島は慌てて止めた

「名前、、、そうだ!この子なんて名前なの?私まだ聞いてない」

水野は手を上げて質問した どうやら水野以外はなんだかんだで名前を聞いていたようだった

「みっちーには言ってなかったっけ?」

歩が再度確認すると、水野はコクっと頷いた

「、、、、、私達がこうやって出会えて、繋がって、それって凄い事だと思うの 人と人がいるから、色んな事が起こる」

歩は今までの日々の事を思い出しながら語った

「だから、そんな繋がりを結んでいける、人と人の中にいるようなそんな子になって欲しいって意味でーーーーーーーー」




「へぇ〜、、、良い名前」

水野は頷きながらそう答えた

「あゆみん、結構考えてるんだねー」

「あ、名前を考えたの私じゃないですよ?」

安川の言葉に歩は笑って答えた

「え?じゃあ、、、」

北脇は桐島に目を合わせる

「あぁ!?なんだよ!?」

桐島はまた、何を言われるか分かった気がした

「あははは!人見知りなお前の何が人との繋がりだよ!お前面白すぎるわ!ははははは!」

外山はまたもや涙を出して笑い転げていた

「しかもその可愛らしい名前、、、!桐島君の口からその名が出ると思うだけで、、、!」

瞬は自分で言ったこの言葉で改めて笑ってしまった

先ほどと全く同じ空気が出来上がってしまっていた

「あーー!うるせえ!出ろ!控え室に来んな!お前ら全員!」

桐島がそう怒鳴ると、赤ちゃんはまた泣き出してしまった







式の直前


これからバージンロードを歩く明義と歩は、2人で廊下に立っていた

「、、、ねえ、お父さん」

歩はおもむろに呟いた 以前からずっと聞きたかった事を聞くには、今しかないと思ったからである

「、、、 なんだ?」

明義はいつもと変わらない、落ち着いた様子で返事をした

「、、、今更だけど、、、なんであんなにすぐに結婚を許してくれたの?」

「、、、、、」

歩の言葉に明義はぐっと考え込む

「まだ高校生だったのに、、、」

「許さなかったら、お前は結婚していなかったか?」

「え?、、、う〜ん、、、」

歩はその場合を想定して考えてみた だが上手く想像出来ず、よく分からなかった

「きっと言う事を聞かなかったろう 大人しそうに見えて、ここって時に我が強い子だからな お前は、、、」

「、、、そう、、、かな 」

「本当の事を言えば、もちろん反対だったよ、、、当時はまだ18歳だったというのに、、、」

明義は歩に背を向け、ため息まじりにそう言った

(、、、やっぱり、、、)

歩は申し訳なく思った 自分のしている事が親不孝なのではないかと不安になっていたのだ

「しかし、、、相手は桐島君だった」

「、、、、、!」

歩はパッと顔を上げ明義を見る

「私に、娘達と向き合う決心をさせてくれた、、、凛を明るく元気に笑顔にさせてくれた、、、昔の事で苦しむ由美を救ってくれた、、、そして、歩を守ってくれた、、、」

明義は桐島との出会いから今までの事を思い出していく

「彼は幼少期の経験からか、人とえんを作りにくい人見知りな性格のようだ そんな人見知りな性格だからこそ、出来た縁を濃く、大切に守る子だと思っている、、、だから皆が彼を中心に自然体でいられる」

「、、、、、」

明義のその言葉に、歩は先ほどまでの控え室での事を思い出していた

(自然体で、、、)

大学や就職、様々な道を選び滅多に集まらないみんなが、かつての高校生の時と変わらない空気で笑いながら楽しんでいた そしてその中心にいたのは、やはり桐島だった

「彼は両親と共に育っていないが、両親からの愛を、、、普通の家庭で育った子達以上に感じているのかもしれないな、、、そしてその愛を歩とあの子に伝えてくれる そんな姿をこの1年間、もうたっぷりと見させてもらったよ」

明義は歩の目を見ながら優しく笑った

「、、、お父さん、、、」

「それに以前も言ったろう?娘が親の全てだ、、、歩の幸せが、私の願いだ、、、」

「、、、、、っ」

歩は思い出していた 今まで父に対して取ってきたわがままな行動や反抗的な態度 その極め付けはこの結婚である それでも父はいつでも味方でいてくれた 心の距離を感じていた歩だが、そんなものは初めから無かったのだと、ようやく気づくことが出来た

「、、、ありがとうっ、、、お父さん、、、」

「、、、涙を拭きなさい歩 今日は祝いの場だ」














そうして、式は無事に執り行われた
















優しい音を立て、式場から中庭へと続くドアが開いた

桐島と歩の2人は、階段の下にいるみんなの姿を見渡す

ワァっと歓声が中庭に響く

先ほどまで姿が見えなかった浜、片岡、早乙女、須原、秋本の姿も見える

更に埼玉から受付のおっさんこと草津はもちろん、南涯高校の先輩だった竹内、歩の先輩の西野和也、美嚢先生の姿まで確認出来た

「おー、すげえいっぱい来てくれてたんだなぁ」

「見えてなかったの?緊張しすぎだよ」

桐島の言葉に歩はクスッと笑いながら言った

「、、、そうか なんか、、、嬉しいな」

階段の下に並ぶみんなを見ながら、桐島は照れ臭そうに笑った

「、、、、、」

歩は桐島の手をそっと握った

「、、、?」

「きっと、、、離れられないんだね 私達」

歩は自分の胸元に提げているお守りを取り出す

「私達の縁は、、、このお守りと、この指輪と、、、あの子のおかげで切れない、、、だから離れられない気がする、、、というより、離れたくない、かな」

歩はとびきり嬉しそうな笑顔を見せた 夏目前の春の陽気の中、その笑顔は桐島には眩しくて、でも目を逸らさずに見つめていた

「、、、俺も離れたくねえ」

桐島はそう言うと、歩の笑顔に応えるように微笑んだ

「愛してる」

「、、、ふぇっ、ええ、、、!?」

歩は突然動揺し、顔を真っ赤にした

「え、えっ?なんだよ?」

歩の反応に、桐島は急に恥ずかしくなってきた

「だ、だって、、、そんな事、言われた事ないから、、、!」

「へっ?そ、そうだっけ、、、」

2人は真っ赤になった顔を見合わせた

「、、、わ、私も!」

歩は間を空けずに前のめりになって返事をする

「あ、、、愛して、、、ます」

「、、、あ、ああ、、、」


「いつまでイチャついてんねーん!早よ降りてきーー!」

すると階段の下から特徴的な関西弁が聞こえてきた 秋本である

「そうよ〜 あなた達待ちよ〜 先輩を待たせるなんていい度胸ね〜」

「うむ いい加減にしろ あと渡部 お前は私に携帯の番号を教えろ 何故教えない」

「早くしてー!もうお酒切れちゃったのよー!」

片岡、浜、早乙女は酒でほろ酔いになりながら2人に野次を飛ばした

「写真撮るぞー!梓が良いカメラ持ってっから、お前ら抜きで撮っちまうぞー!」

須原も秋本の横から声を張り上げる


「うっ、、、うるっせえなー!俺らが主役だろ!黙ってろ!」

「ひゃっ!」

桐島は須原達に言い返しながら歩をひょいと持ち上げお姫様抱っこする

「ひゅー!桐島!渡部!ひゅー!」

「誠哉!力っもちー!ひゅー!」

九頭と北脇は唇を尖らせ2人を煽る

「なんだお前らいきなり!ひゅーの発音が悪ぃんだよ!」

桐島は歩を抱いたまま階段を降りていく

「ほ〜ら、大丈夫だぞ〜」

「〜〜〜〜!ちょっと純〜!それ面白すぎ〜!」

「ひゃっひゃっひゃ!おい桐島ぁ!俺、大丈夫じゃねえから!大丈夫だぞって言ってくれよ!」

桐島のモノマネをする瞬を見て安川と外山は大笑いしていた

「俺のモノマネを鉄板にすんな!しかも全然つまんねえし!」

桐島は階段を降り、中庭に足をつけた

「姉さん!誠哉さん!日本の離婚率は右肩上がりで〜す!」

凛は手を振りながら笑顔で呼びかけた

「なんで今その話すんだよ!そんな笑顔で!」

桐島はゆっくりと歩をその場におろした

「お店の売り上げが上がったら我らの鈴科孤児院に寄付を〜!」

「寄付を〜!お恵みを〜!」

鈴科と水野は声を揃えて呼びかける

「分かったよ!するから!言われなくても!」

桐島は歩の腰を支え、横に並んで立った

「、、、、、ふふ」

野次に言い返す桐島を見ながら、歩は小さく笑っていた

すると目の前に、野波佳と徒仲が立っていた

「、、、、、」

「、、、、、」

野波佳と徒仲は黙って、桐島と歩の顔をじっと見ている

「、、、な、なんだよ、、、」

「、、、麻癒、、、?」

桐島と歩はたじろぎながらそれぞれに呼びかける

「、、、おめでとう誠哉〜!」

「歩ぢゃ〜ん!おめでどーーー!」

すると突然そう叫びながら桐島と歩に抱きついてきた

「おわっ!なんだよ気持ち悪ぃなぁー!」

「ま、麻癒!?どうしたのいきなり!?」

桐島と歩は2人を落ち着かせながら対処する

「ははっ!いいじゃねえかよ〜!あんま会えねーんだからよ!」

野波佳は態勢を崩してもおかまいなしに桐島に抱きつき続ける

「や、やめろって!頬ずりすんな!マジ気持ち悪ぃーから!」

桐島は必死で逃れようとするが、姿勢的に有利な野波佳からは逃げられなかった

「歩ぢゃん、、、!本当は2人の赤ぢゃん見だ時がら結構ヤバぐでね〜!泣ぎぞうでね〜!」

徒仲は泣きじゃくりながら歩に抱きつく

「ま、麻癒、、、もう、、、泣ぐの止めでよ〜!私まで、、、泣いぢゃうがら〜!」

徒仲と歩は抱きしめ合いながら、互いに涙を隠さずに泣き叫んでいた

















人と人が接する事で生まれる【縁】

【縁】は、時に人を苦しめ、悩ませ、弄び、悲しい気持ちにさせる





「みんなー!桐島夫妻真ん中にして写真撮りまーす!並んでやー!」

秋本はカメラと三脚を階段に向けて設置しながら呼びかけた

階段を使えば段違いで無理なく大人数が写ることが出来る ゾロゾロとみんなが集まってきた





だが、その辛さから助けてくれるのもまた【縁】

そんな【縁】は時に、常識では考えられない確率で紡がれる





「緋斬、見てっかー?お前の親友と幼馴染みの結婚式だぞー」

須原は空を見上げながら何気なく呟いた

「きっと見てますよ ね?南、、、」

鈴科も須原と同じように綺麗に晴れた空を眺めていた





それが例え、埼玉と名古屋のような離れた場所であっても、、、、、





「響子さん!恭丞さん!早く来てください!」

歩は少し離れた場所にいる2人に声をかけた

「俺らは遠慮しとく あんまり良い思い出も、、、」

「ありがとう!歩ちゃん!」

響子は恭丞の腕を引っ張りながら言った

「は、はぁ!?なんで俺まで、、、!」





15年以上経っていようとも、、、、、


互いに引き寄せてしまう奇妙な力が【縁】にはある






そしてその縁は、これからも生まれていく





「誠哉君も!こっちこっち!」

歩は遠くで背を向けている桐島を手招きして呼んだ

「、、、ああ」

桐島は振り向いて、そちらに向けて歩き出した





せっかく生まれた縁も、時に理不尽に失われてしまう それはとても怖い事だ





「ちょっと〜、表情固いんやけど〜?笑顔笑顔!」

「お、おう、、、」

「なんか緊張するね、、、」

カメラマンの秋本にそう言われても、2人の表情はぎこちないままだった

「おらー!」

「それーい!」

野波佳と徒仲は後ろから2人の脇腹をさすった

「はわっ!はは!やめろって!」

「ひゃう!あはは!」


パシャッ





でも例え失われたとしても、その願いを叶え続ける事で、より強くなる 全ての縁がもっと大切になる





「なんだよこれ、、、ひでえ顔になってんじゃねえか」

「えへへ でも楽しそう!」

桐島と歩は写真を見ながら感想を言い合う

「おぎゃーおぎゃー」

すると少し離れた場所にいるおばあさんの腕の中で、赤ちゃんが泣き始めた

「あ、、、ふふっ、あの子も一緒に撮らないと、、、ね?」

「あっ、そうだった、、、あれ持って写真撮らねえとな!」

歩の言葉で桐島はある事を思い出し、慌てて荷物を取りに行った





だからみんな、人との繋がりを、、、縁を恐れないで欲しい





「はーい!じゃあ撮るよー!家族3人バージョン!笑顔でねー!」

秋本は声をあげて呼びかけた 歩が赤ちゃんを抱き、桐島は赤ちゃんの名前が書いた大きな板を持っていた

「ふふっ、なにそれー」

歩は桐島が作ったその板を笑いながら見ていた

「俺らの家族が誕生したんだから、記念だよ記念!」

桐島は楽しそうに板を持って話す

「家族、、、、、か」

歩は赤ちゃんを見ながら呟く その歩の目は、幸せながらも不安さも兼ね備えた色をしていた

「、、、、、」

そしてその目は、桐島も同じだった 辛さも悲しさも苦しさも、全てを思い出に変えて2人はここにいる そして、2人の子供がいる

「俺達は、、、家族だよ」

桐島はそっと呟く 夏目前の春最後の日、不安になるほど心地の良い日差しが3人を照らす





「だから、、、ずっと一緒にいよう」


「、、、、、うんっ」





その縁はきっと、かけがえのないものになるはずだから

























その板には、赤ちゃんの名前がこう記されていた












桐島縁きりしまゆかり


挿絵(By みてみん)

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