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  作者: 外山
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ただいま

美希の葬儀の後


誠と誠哉は2人でとある階段を歩いていた

美希の両親との約束により、2人が共に過ごせる時間はあとごく僅かである

誠はビニール袋を片手に持ち、もう片手で誠哉の手を握っていた

「誠哉、、、この場所、覚えてるか?」

誠は周りを広く見渡しながら訊ねた ここはつい最近来たばかりの神社である 相変わらず土や木の匂いがする場所だ

「うん、、、鬼ごっこ」

「そうだな 鬼ごっこしたな、、、お母さんも見てくれてた、、、」

誠はふと、近くの石段を見た その石段は、鬼ごっこをしている誠と誠哉を優しい顔で見守っていた美希が腰かけていた場所である 今、その場所に美希はいない 誠の視界に腰かける美希が一瞬映り、そして消えていった

「、、、、、」

誠は思わず溢れそうな涙と気持ちを、息を整えることで抑え込んだ

「パパ、、、それ、、、?」

誠哉は誠の持っているビニール袋を指差しながら言った

「、、、ん?これか?」

誠は誠哉の目線に合わせてしゃがみ、ビニール袋の中に手を入れた

「これはな、母さんが、、、3人で食べようって、結婚式の夜に買ってきてくれたものだ、、、」

誠が取り出したのは肉まんだった 誠哉は初めて見る肉まんに首をかしげる

「母さんと父さんの大好物なんだ、、、あの赤い看板のお店の肉まんは、、、」

誠は肉まんを渡した 誠哉は熱い肉まんを両手で持ち、まじまじと見る

「うっ、、、うぅ、、、」

この場所で誠哉が肉まんを食べている事に、誠は感極まって泣いてしまった 美希と夫婦になる前、何度もここで肉まんを食べた その美希との間に出来た息子が、それを食べている姿を見せてやれない事が悔しく、悲しく、どうしようもなかった

「パパ、、、?」

涙を流す父親の姿を、誠哉は不思議そうに見ている

「母さんと父さんはな、、、ここで肉まん食べるのが、大好きだったんだ、、、」

誠は誠哉に涙を見せないように必死に拭い続けた

「、、、母さんと一緒に、、、食べたかったな、、、」

「、、、ママは?」

「、、、ママは、、、ここにはいない」

誠は誠哉の頭を撫でながら言った せめて誠哉と目を合わせる事が、誠に表せる誠意だった

「ママ、どこ?」

「ははっ、お前は、、、色々喋れるようになったなぁ、、、もうちょいで2歳だもんなぁ、、、」

誠は息子の成長を感じながら、また涙を拭った

「ママはな、、、今は会えないんだ、、、もうずっと、会えないんだ、、、」

「、、、イヤ、、、」

誠哉は首を振りながら、思わず泣き出しそうな表情になる

「でもな、、、誠哉が、一生懸命頑張って、、、幸せになれば、きっと会えるよ、、、」

誠はその両腕で誠哉を抱きしめた

「、、、幸せ?」

「ああ、母さんは、、、美希は、誠哉の幸せを誰より願ってるから、、、母さんの願い事を叶えてあげれば、会えるんだ」

「、、、ママ」

「父さんも、、、誠哉とは一緒にいれない、、、」

誠は誠哉を思い切り強く抱きしめる 涙を誠哉に見せないために、抱きしめた

「情けない父親でごめんな、、、ごめん、誠哉、、、」

「パパ、、、痛い」

「バカ、、、こんぐらい我慢しろ、、、」





また、桐島の視界は薄れだんだんと暗くなっていく


そしてもう、映像がスライドされていく事は無かった


真っ黒なこの視界を桐島は見ているのか、意識があるのか無いのか、何も分からない

不確かなこの空間が存在するのかしないのか、それすらも、何もかもが分からない


桐島は気がつくと、真っ白な空間にいた

「、、、ん?」

桐島は四方を見渡す 見渡す限りの白だった

果てしなく続いているようにも見える、手を伸ばせばそこに壁があるかのようにも見える ただ真っ白な世界のどこかに桐島は座っていた

「あれ、、、?どこだここ、、、確か、色んな映像、、、記憶みたいなのがどんどん頭の中に流れ込んできて、、、暗くなって、、、真っ黒になって、、、」

桐島は順に記憶をたどっていく しかし、この白い空間にくる手順を何か踏んだようには思えない

「んー、、、?なんだよこれ、、、」

桐島は訳が分からないまま、無造作に頭を掻いた

「誠哉っ」

ふとそんなハネるような元気な声が聞こえた そして背中をツンツンと指でつつかれる感触がした 桐島はその声に聞き覚えがあった

だが誰かまでは特定出来ないまま、声が聞こえた方向に振り向いた

「、、、え、、、」

桐島は目を見開いて驚いた 目の前で信じられない事が起こっている


「なにアホみてえな顔してんだ」

「ふふっ、びっくりしてるー」


そこにはある2人が立っていた 2人は桐島の驚く顔を見ながら笑っていた

そこに立っていたのは中学時代を共にしたかつての親友、菅井緋斬 そして菅井の妹でありかつての恋人、菅井南だった

亡くなったはずの2人が、何食わぬ顔で桐島の前に現れた

「は、、、?な、なんで、、、?」

「口が半開きになってんぞ 焦栄ならともかく、らしくねーな」

「なっ、、、!」

菅井が笑いながら自分の口をつつくと、桐島は慌てて口を押さえた

「ふふっ、久々じゃーん!お久じゃーん誠哉ー!」

南は桐島の頬をペチペチと叩きながら嬉しそうに笑った

「ちょっ、やめろって、、、ペチペチすんな!」

「んふふー 良い反応!」

南は満足そうにそう言うと叩くのをやめた

「、、、、、」

桐島は2人の顔をまじまじと見て小さく息をついた

「緋斬、、、南、、、」

「ん?なんだ?」

「どしたの?誠哉」

「やっと、、、会えた」

桐島はそう呟くと、ほっと落ち着いて笑った

「ずっと、、、2人に会いたかった、2人に言いたい事が、、、いっぱいあるから」

桐島がそう言うと、菅井と南の表情が少し曇った

「まだ早いよ?」

「えっ?」

「お前は寝てる場合じゃねえって事だ いつまでもよ?」

「な、、、なんでだよ?やっと会えたのに、、、!」

桐島は2人を見ると思わず泣き出してしまいそうだった それほどまでに会いたかった 謝りたかった お礼を言いたかった

「俺、高校でいっぱい友達出来たんだよ!そうだ、徒仲とか!徒仲麻癒っつってさ、焦栄の彼女がいるんだよ!緋斬、会ってねえだろ?」

「ああ、会えなかったな、、、あのバカの彼女か」

「どんな人だろーね?一途な焦栄さんの事だから、きっと彼女さんにぞっこんなんだろうねー」

菅井と南は顔を合わせてそう言うと、思わず吹き出して笑った

「そうなんだよ!お前らにも会って欲しいから、、、緋斬にも、、、南にも、、、」

桐島はその言葉と同時に涙が頬を伝うのが分かった 慌てて俯き、それを拭う

「、、、ごめん、、、俺がしっかりしてねえから、、、2人は、、、」

菅井と南を想うと、桐島の感情のタガは外れてしまう それはもうどうしようもないものだった

「誠哉、、、」

菅井は桐島の前まで近寄り、しゃがんで目線を合わせた

「うぬぼれんなバカ」

「、、、え?」

菅井は至って冷静な表情で桐島に言って見せた

「少なくとも俺は、お前に殺されたつもりなんかねえ ケンカだってお前に負けた事はねえ むしろ勝ってんだからよ?」

「私もだよー?誠哉にはむしろ、助けられた事の方が多いしね」

菅井は桐島を睨みながら額を指で突き、南はその後ろから顔を覗かせた

「え、、、いや俺は、、、」

「とにかく泣いてんじゃねえよ ったく、悪魔とまで言われた男がよぉ?」

「う、うるせえ、、、」

不良だった中学時代の異名を菅井に言われ、桐島は照れ臭そうに言い返しながら頬を拭いた

「いいからさっさと帰れよ」

「誠哉の、本当の居場所に」

菅井と南は桐島を無理やり立たせ、そして背中を押した

「俺の、、、居場所?」

「ここじゃねえだろ?お前の居場所はよ?」

菅井がそう言うと、桐島の目の前が強く光った 眩しくて目も開けられないほど強く光ったそこに、誰かが立っている事が分かった

「え、、、?」

桐島は手で光を覆いながらその誰かを見る その姿の全ては見えないがそれが誰なのか、桐島はすぐに分かった

「ぐっ、、、なんで、、、見えないんだよ?なぁ、、、なんか言ってくれよ、、、」

桐島は目をこらしながら必死で叫んだ その人物は何も言わずにそこに佇んでいた

「まだ、、、会えないんだって」

「、、、え?」

南の言葉に振り向きながら桐島は答える

「その人のお願い事、、、誠哉はまだ叶えてないんだって だから、会えないんだよ」

「、、、願い事、、、」

桐島は南の言った事を繰り返し口にした そして再び前に向き、その光を見た

光はどんどん強くなりますます桐島の視界を消していく

その人物の姿もどんどん見えなくなっていく

だが、優しく微笑むその表情が桐島には見えた気がした

「そうか、、、」

(ここまで、、、繋がってる)

止まらずに強くなる光の中、桐島は目を開いた その姿は桐島からは見えないが、自分の姿を見せるために桐島は顔を上げた



「俺、、、幸せになるよ」













桐島が目を覚ましたその場所は病室だった

明義と渡部と話していたあの場所で、突然強烈な頭痛と眩暈に襲われそのまま寝込んでいたらしい

目を覚ました桐島を見て、看護師や医者たちが慌ただしく動き出した その中には明義の姿もあり、ホッと安心した表情で桐島を見ていた



聞いた話によると、桐島は3日間もの間、昏睡状態だったらしい あの突然の頭痛は今回の事故、そして過去の事故の際に頭部を強打した古傷や、母親を目の前で亡くすというトラウマのフラッシュバックで記憶を司る脳機能が、、、など、様々な説明をされたが、桐島はあまり気にしていなかった


きっともう頭痛に悩まされることも、悪夢を見る事も、フラッシュバックする事もないからだ


目を覚ましたその日、検査で全く問題なかった桐島はすぐに改めて退院した

記憶も元通り、いや、普通の人なら覚えていない幼少期の頃までの記憶もある分、元通り以上の状態で復活していた

明義に車で孤児院まで送ってもらう事になり、その道中、こんな話をしていた

「人は本来、生まれた瞬間から今までの記憶は全てこの脳に残ってるんだよ」

明義はハンドルを握りながら後部座席の桐島に話しかける

「桐島君の場合は記憶を失い、元に戻るきっかけでその全てを思い出したようだね」

「そうみたいですね、、、」

「でもきっと、、、その幼い頃の記憶は、時間と共に忘れ去ってしまうだろう」

「え、、、?」

「個人差はあるがね、、、おそらく、殆どの場合はまるで夢を見ていたかのように、だんだんと薄れていき、思い出せなくなっていく、、、」

「、、、、、」





孤児院についた桐島は受付のおっさんこと草津談司に挨拶をした

「せ、誠哉君、、、!」

「大丈夫 おっさんのことも覚えてるよ」

桐島は優しくそう言うと、草津は感激しながら肩を叩いた





ガラガラ


孤児院の子供たちの集まる部屋についた

「久しぶりー 元気かガキ共ー」

桐島は開口一番、憎まれ口を叩きながら部屋に入った

「誠兄だー!」

「せーにー!私達の事覚えてる!?」

子供達は桐島に群がりながら飛びついて声を上げる

「当たり前だろ?お前らの甲高い声はなかなか忘れらんねーからな!」

桐島は子供たちの頭を荒っぽく撫でる 子供達は嫌がったり大人しく撫でられたり、各々の反応を見せた

「、、、誠哉」

子供達の後ろでそう名前を呼んだのは鈴科愛すずしなあいだった

「愛、、、ただいま」

「、、、バカ」

鈴科は子供達の間をすり抜け、桐島に抱きついた

「バカ!やっと思い出したの!?バカ!3日もバカみたいに寝ちゃって、、、!心配したんだからね!?バカ!」

鈴科は泣きながら桐島の胸を叩いた

「そんなバカバカ言うなよ、、、悪かった もう大丈夫だからさ、、、」

桐島は鈴科を優しく抱き寄せ、頭を撫でながら謝った その姿はもう10年ほど前から変わることの無い、兄と妹の姿だった

「ほっほっ、、、」

おばあさんはそんな姿を見ながら微笑んでいた

「、、、おばあちゃん」

桐島は鈴科をなだめながら離し、おばあさんの方へと歩み寄った

「せいちゃん、元気になってよかったねぇ、、、ほほ、、、」

「、、、うん ありがとう」

桐島は頷きながらそう返事をした

「っ、、、」

おばあさんは動揺した その言葉遣いに

記憶が戻っても、かつての敬語ではなくなっているのだ

「心配かけてごめん 元気になったから またよろしく、おばあちゃん」

「、、、ほほほ、、、ありがとうねぇ、、、」

おばあさんは何度も頷きながら、その言葉を噛み締めた もう諦めていた孫と祖母の普通の口調での会話、おばあさんはそんな事が嬉しく嬉しくてたまらなかった







翌日


桐島は名古屋へ帰るために新幹線に乗り込もうとしていた なんせ3日間も昏睡状態だったのだ もう夏休みも終わり学校は始まっていた


その見送りに、野波佳や徒仲のみんな、先輩達まで来ていてくれていた

「もう名古屋に帰っちゃうの?昨日目を覚ましたばっかりなのに」

またたきは寂しさと心配の両方を込めて言った

「はい、もう二学期始まってますから やっぱ辞めずに続けようと思うし、、、すみません 休日なのにわざわざ、、、」

「マジでいい迷惑だよー、かんべんしてくれよなー」

「そうよねー?ホントに面倒くさい」

九頭くず北脇きたわきは顔を見合わせながら息を揃えた

「やめろよ!なんか見覚えあんぞこのやりとり!」

桐島がそうツッコむと2人は楽しそうに笑った

「いやマジで マジめんどくせえから」

「しつけえんだよ!これも込みでなんか見た事あるわ!」

かぶせてきた外山そとやまにもすかさずツッコむ このやりとりは以前、桐島が埼玉から名古屋へ引っ越す際にも行われていた

「キリシマン、向こうでも頑張るのだよ?姉さんが応援しててあげるからさ!」

「なんすかそれ、、、ありがとうございます」

安川やすかわの明るい笑顔に桐島もつられて笑った

「浜さん、片岡先輩、東京の大学から、わざわざすみません」

「何を言ってるの相変わらずバカね〜、大学生の夏休みは長いのよ〜?まだ薫ちゃんと一緒に埼玉ライフを満喫するわ〜」

片岡かたおかは相変わらずほんわり柔らかい口調で厳しかった

「そういう事だ 葵によろしくな」

はまはビシッと掌を見せ挨拶した 葵とは桐島の住むアパートの管理人の早乙女葵さおとめあおいである


「焦栄、、、じゃ、またな」

桐島はそう言うと爽やかに笑って見せた

「なんだよその爽やかな感じ お前まだ記憶戻ってねーのかよ?」

野波佳は少しバカにしたように笑った

「誠哉君はもともと爽やかじゃん!ね!?」

すると徒仲が野波佳の肩を叩きながら桐島をフォローした

「へへっ、、、緋斬が言ってたよ」

「え、、、?緋斬?」

野波佳は驚きながら菅井の名を繰り返して口にする

「おう、俺が倒れてる時になんつうか、、、夢枕に立ったんだけどよ お前に彼女がいるって話したら、見てみてえってよ」

「、、、そうか あいつが、、、」

野波佳は俯きながら菅井を思い出す そして、隣にいる徒仲を見た

「あのバカの彼女か、、、つってたよ」

「なっ、、、あの野郎、、、!死んでも憎たらしいまんまだな!」

野波佳は拳を握りしめて怒りを露わにする

「んふふっ!じゃね誠哉君!歩ちゃんによろしく!」

徒仲はそんな野波佳を見て笑いながら、桐島に最後の挨拶をした






名古屋駅


桐島はまた、この場所に戻ってきた

様々の縁が絡み合い、もつれ、もう戻ってこないと決めたこの場所に、桐島は再び足を踏み入れた

人々の流れに合わせて、桐島は名古屋駅の改札を通った

「、、、、、!」

顔を上げた桐島は目を見開いた 改札を出た目の前の柱、そこにある女の子が立っていた

「、、、っ、、、」

向こうもこちらに気づき、その綺麗な黒髪を耳にかける メガネの奥の瞳が戸惑っている事に桐島は気付いた

桐島はゆっくりと彼女の元へと足を進めた まだ戸惑っている彼女は、何度も呼吸を繰り返し息を整えている

「、、、、、歩」

桐島はその名を呼んだ 苗字ではなく、名を呼んだ それだけで彼女には、渡部には全て伝わった

「、、、、、誠哉君」

そして渡部も苗字ではなくその名を呼んだ

瞳に戸惑いがなくなり、最愛の人を真っ直ぐと見て満面の笑みを浮かべた

「、、、おかえり」

渡部は首から提げているお守りを握った それを見て、桐島も自分が提げているお守りを握る 記憶を失っても何故か外さずつけていたそのお守り 【縁】と描かれたそれが、2人を繋げているモノだった


桐島は愛してる人を、渡部を抱き締めた 愛する人とここまで近くにいれる喜びを全身で感じ、渡部以上の明るい笑顔を弾けさせた



「ーーーただいま」


















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