勇者の見立て
そしてユーク達は、シアラに別れの挨拶を済ませ旅を再開した。ただ、ここを拠点とするのは間違いなく、シアラにも「時折ここへ戻ってくる」という旨は伝えてある。
「ユーク様、どこへ向かわれるのですか?」
町を出てすぐアンジェが問い掛けてくる。
「方針としてはディリウス王国へ戻るとのことですが」
「ああ……アンジェ、報告書は?」
「作成して昨日の段階で送りました。ユーク様のご指示通り見識を広めるべく色んな勇者と交流する、という点を強調しましたが」
「ああ、それでいい……アンジェ、俺達は組織が存続しているということがわかっているため、居所を探すわけだが……ここで重要なのは、どこを拠点としているかだ」
「拠点……ログエン王国なのか、それともディリウス王国なのか、ということですか?」
「そうだ。魔物の実験をしている場所が多いのはディリウス王国だし、勇者オルトを始め色んな勇者が関わっているようにも思える……ただログエン王国にも結構な人数の傀儡がいた」
「今回の騒動を解決したことでログエン王国の貴族が大いに関わっていたことが公になりました。よって、こちらの国を主軸にしているという可能性もありますが……」
「難しいところではあるな。ただ俺としては……ディリウス王国側に本拠、もしくは主軸に活動しているのではと考えた」
ユークの発言を受けて、アンジェは少しばかり考え込む様子を見せ、
「……ログエン王国側に本拠があるように見せかけた、ということでしょうか?」
「そういう形だと俺は思っている……あるいは本拠自体は別所にあるかもしれない。言わばどこの国にも属さないような場所とか、そんなケースも考えられる」
「国境付近であったり、あるいは山奥であったり、とかですか」
アンジェの言葉にユークは「そうだ」と返答しつつ、
「現時点ではあらゆる可能性があるけど、遠いところではないと思う」
「本拠地が山奥であったなら、探すのも一苦労ですが向こうも活動しにくいですね」
「そうだな。ただ魔物の実験をするというのなら、逆に人気がない所の方がやりやすいかもしれない」
「……ユーク様、改めて問いますが、敵の目的は何だと思いますか?」
ユークはアンジェの質問を受けて少し間を置く。
その間も二人の足は街道を歩み続けるが――やがて、
「勇者オルトの存在から、勇者を配下にできるほどの存在……相応の権力か、あるいは国をひっくり返せる何かを持っている存在、というのは間違いなさそうだ」
「それはわかります……勇者制度というものに対する反逆とかでしょうか?」
「その場合は、魔物の生成実験なんて真似はしないだろう。極端な話、政治的な発言力を高めればいいだけの話だ。魔物を生み出す以上、国へ喧嘩を売るつもりではいるんだろう」
アンジェの顔が硬質なものとなる。そんな表情を見ながらユークは話を続ける。
「そして今回の騒動……ログエン王国はかなり対応に苦慮していたみたいだな。何せシアラの所へ調査のため派遣されたのが将軍と騎士団長だったわけだし」
「犠牲者などは出なかったようですが……」
「それでも、ログエン王国自体をかき回していたのは間違いない。軍事力を保有している国であっても、魔物の騒動にはかなり脆弱な面が見られた」
「ディリウス王国もおそらく同じでしょうね」
アンジェは確信を持った顔つきで語る。
「同様の事件が何の前触れもなく起これば、国内は混乱に陥るでしょう」
「そうだな……敵としては有効な手だと思ったことだろう。いくらか騒動を引き起こし、騎士団の身動きをとれなくしてから魔物による攻撃……二段構えによって、制圧が容易だと考えたはずだ」
「必要なのは十分な戦力……魔物の製造ですか」
「動きが鈍った騎士達を魔物の強襲で一気に攻撃する……これが最悪の展開かな。もっとも、魔物はまだ実験段階だ。こんな風になるのはもっと時間が経過してからだろう」
「ユーク様の見立てで、どの程度の時間でしょうか?」
「少なくとも数年かな……組織は身代わりを用いて隠れたわけだし、まだまだ実験などをする必要性を感じたんだろう」
「数年、ですか」
呟き返したアンジェに対し、ユークは笑みを浮かべる。
「まだまだ先、と思ったか?」
「はい、その間に情報集めや組織の関係者を見つける、ですか」
「ああ、基本的にはそういう方針……だけど、敵が準備を終えるのを待つつもりはないし、今対処しておかなければ取り返しがつかなくなると俺は思う。よって、可能な限り早く見つけたいところだ」
「本拠が判明したらどうしますか?」
「シアラに助けを借りて人員を集めたいところだな……本来なら俺達の力で人を集めたいところだけど」
そう言いつつユークはアンジェへ言った。
「勇者と交流、というのは一緒に戦ってくれる人がいないか探すという意味合いもある……大丈夫だと思うけど、アンジェ。人と接する場合はなるべく柔らかく頼むよ――」




