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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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89/200

作戦後

 大森林内での騒動後――捕らえた人物をきっかけとして、ログエン王国は彼と繋がりのある人物を一網打尽にするべく作戦を決行。見事成功した。

 結果として事件に関わっていた貴族は全て捕まり、様々な魔物の実験に関する資料を発見し、また同時に組織に所属していた面々も判明。それにはディリウス王国の貴族もいて――まさに芋づる式に人間が捕まり、事件が公となった。


 ユーク達にはノイド将軍から作戦の詳細を含め情報が入ってくる。その全てが良い内容であり、組織は瓦解したと考えてもいいはずなのだが――


「ディリウス王国内でも、騒動になっているみたいだ」


 ユークはある日、一人シアラのいる執務室を訪れ、話をする。


「ログエン王国はディリウス王国側にも情報を伝達し、勇者オルト以外にも組織に手を貸していた人物を捕まえたらしい」

「影響の範囲は相当大きいわね」

「情報が明かされればこんな形になるだろうとある程度予測はしていたけど……ノイド将軍から提示された情報から、組織そのものは俺達の手によって壊滅、という見方ができるしログエン王国はそういう判断だろう」

「ディリウス王国は?」

「……先日手紙が届いた。組織と内通していた貴族も捕まったらしい。そして騒動解決について改めて礼が言いたいと、城へ来るよう書かれている」


 ここでユークはシアラへじっと視線を向け、


「君の両親を毒殺したと思しき貴族……組織を通じてログエン王国内に干渉していた貴族も捕まったみたいだ」

「なるほど、ね」


 シアラはどこか納得したように声を上げると、


「組織としてはこれで幕引きがしたい、というわけね。」

「俺も同意見だ。組織は多数の人員……身代わりを差し出し、組織が壊滅したと見せかけた」

「とはいえ多くの人を失う以上、組織にとっても痛手だと思うのだけれど」

「魔物の実験そのものは、たぶん人がいなくてもできるんだと思う。それと捕まった人数はかなり多いわけで、もしかすると今回のことを利用していらない人員を排除したなんて可能性もある」

「……ねえユーク、今回で騒動が解決した、ということはないわよね?」


 確認の意味を込めての問い掛けに対しユークは深々と頷いた。


「ああ、それは間違いない……大森林にあった異界に残っていた情報からも、そこは確定だ」


 ――既に異界については消え失せている。しかし消えるより前にユークはもう一度中へ侵入して調査を行った。

 結果、あることがわかった。ユークが再度入った理由は、中で活動していた男の魔力に関する情報を収集するため。


 調査中の騎士に声を掛け、許可をもらって男の所持品について魔力を解析した――といっても、ユークは専門家ではないので限界はある。

 しかしそれでも、ユークは二つの情報を得た。一つは男に関する魔力。そしてもう一つは、


「倒した男から特殊な魔力を感じた……調査員も彼の所持品を調べていて気付いたみたいだけど、組織から支給された魔法の道具だろうという見解だった。けど俺の意見は違う……あれは遭遇した漆黒の魔物と同質のもの。それが男を傀儡にしていた魔力だ」

「ユークは最初に踏み込んだ時点で何か気付いていた?」

「男の魔力以外に何か……違和感みたいなものがあった。男も気付かぬ内に魔力が付与され、意識を誘導されていたんだと思う」

「つまり、本人も操られているとは思っていない……というわけね」


 ユークは再び頷く。


「そういった傀儡としていた者達を動員して、組織壊滅を演出した、といったところだと思う」

「……傀儡、と言っても本人にも気付かれないレベルということよね? だとすれば、今回捕まった人達は自分達こそ組織の構成員であり幹部、とか思っているのかしら」

「彼らの証言とかは聞いていないけど、たぶんそういうことなんだと思う」

「敵の尻尾をつかむのは難しそうね」

「ああ……で、だ。敵は今回の騒動で手打ちにしようとしている。ディリウス王国としても、ログエン王国としても事件首謀者が捕まったことで終わりにするだろう」

「私達はどうすべきか、ね」


 ユークとシアラは互いに目を合わせる。


「ユーク、ログエン王国は今回の作戦で魔物に関する情報も得た。それは偽情報という可能性はあるかしら?」

「判断は難しいな。能力を含め得られた情報は少なく、今回得た情報が正しいかは、判断つかないな」

「より魔物について調べないと、わからないというわけね……私達は、どう立ち回るべきかしら?」

「普通に考えれば、まだ組織は存続しているということを報告するのが筋だと思うが、国に伝えればその時点で組織にも情報は伝達するだろうな」

「つまり、相手の尻尾を捕まえるには……」

「この場で情報を留めて、自分達の足で探すしかない」


 ユークの発言によって、室内には沈黙が生じた。


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