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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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86/200

男の抵抗

 男が放った魔力は周囲に拡散し、明らかに空気が重くなった。それはどうやら足止めの魔法。結界ほど強固ではないが、ユークやアンジェの動きを鈍らせようとする動きであった。

 そうした魔法を通し、ユークは男の実力を看破する。勇者オルトのような、日々魔物と戦い続けるような戦士ではない。体格も決して良いとは言えず、むしろ内にこもって研究をしているように見える。


(勇者ではなく、魔法の研究者……か?)


 ユークはそう直感しつつ、足を前に出す。男にとっては精一杯の足止めかもしれないが、ユークとしては効果がほとんどない。

 だが、相手の狙いはわかっていた。少しでもユーク達の行動を遅らせ、横手からやってくる紅の魔物による奇襲攻撃――しかしユークはそれを読んでいた。


 男を間合いに入れる寸前までユークは到達する。あと一歩で斬れる――その段階で男も焦りの表情を見せたが、それでもまだ瞳には希望が宿っていた。

 かざした魔法がさらに強くなる。しかしユークの動きを足止めすることはできず――


「――終わり、だ!」


 男の宣言。この時点でユークの横手に紅の魔物が出現した。森から飛び出すや否や、ユークの首筋を狙い剣が振り下ろされる――

 だが、ユークは動きも読み切り、魔物を見ずに剣で斬撃を防いだ。男は一度ビクリと震える。気付いていたのか――そんな表情。


 ユークは魔物の剣を弾き飛ばすと同時、剣を振ってその首を切った。男から視線を外さぬままの攻撃で紅の魔物は消滅し――それで男は、目の前に存在する勇者がどれほどの実力なのか、おぼろげに理解した様子。


「……はは」


 最初から、勝ち目はなかった。この異空間に入られた時点で、決着はついていたのだ――そう悟った男へ向け、ユークは剣を振るった。刃ではなく刀身の腹で男の体を打ち、相手は倒れ伏した。

 そこで周囲を見る。アンジェは迫っていた紅の魔物を全て倒し、なおかつ一緒に突入した騎士は負傷者もなく魔物を倒しきろうとしていた。


 戦いが終結しようとする中、ユークは周囲に視線を巡らせる。異空間を作成した男が倒れているのに異空間そのものは消えていない――これは大森林の魔力を利用しているためだ。供給を止めない限り、異空間は維持し続ける。


「終わったようね」


 ここでシアラが近寄ってきて声を上げた。


「倒れているその男の能力が低かったのが幸いね」

「魔物を蹴散らしながら色々探ってみたけど、戦士の類いじゃないな。魔物を研究している人間じゃないかと思う……魔法でこちらを拘束するとか、そういう攻撃を仕掛けてきたら厄介だったけど、足止めの魔法だったから短時間で決着がついた」


 ユークはそう言いながらシアラへ目を向け、


「この異空間は大森林内に存在する魔力を基にして作成されているみたいだし、男がここで生活していた可能性は高い。所持品を見つければ何か情報があるかも」

「そこは将軍達に任せましょう」


 話している内に戦闘が終わる。騎士達は負傷者などを確認した後、無傷の人間は森の中を調べ始めた。異空間を作成した人間を倒したらどうするか、将軍は既に指示を出していたらしい。

 一方でユークが倒した男を拘束し、外へ運び出そうとする者も。それを見ながらユークは、


「シアラ、俺達はどうしようか?」

「一度ノイド将軍に確認しましょう。異空間調査については私達の出番はないけど、大森林内を調べるかもしれないから」

「そうだな……アンジェ、戻るとしようか」

「はい」


 ユーク達は騎士達へ戻る旨を伝えて歩き出す。先んじて男を運ぶ騎士が現実世界との出入り口である亀裂から外へ出た。

 続いてユーク達も外へ。そこでノイド将軍が騎士へ指示を出し、その後、


「おお、怪我もなく戻ってきて何よりだ……君達のおかげで事件解決が一気に進みそうだ。礼を言う」

「これで事件解決だと良いのですが」


 と、シアラが述べる。


「魔物を使役していたということで、王族襲撃事件に関与している可能性は高そうですが」

「その辺りは異空間の中を調査して、判断を下すことにしよう……無論、複数犯である可能性も考慮している。本当の事件解決というのは魔物を作成している組織撲滅になるだろうが、現時点でそれが早期に可能かは不明だ……しかし事態が進展したのは確かだ」


 ノイド将軍は満足そうな表情を示しつつ、続ける。


「男の身元を割り出すことはそう難しくはないだろうから、そこから組織に繋がるものを探す……ということもできるだろう。どういう形であれ様々な情報は間違いなく手に入る」


 表情から、今回の件を足がかりにして一気に終わらせたい――という思惑が明瞭にわかった。


「勇者シアラ、勇者ユーク、勇者アンジェ……協力に感謝する。そして事件に大きく関わったことで、今後も何かあれば手を貸してもらいたいが……どうだ?」


 ユーク達は一斉に頷く。それに将軍は「ありがとう」と礼を述べた。


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