森の中の攻防
ユークとアンジェは青の魔物が生み出した魔物を一閃して撃破しつつ、青を狙うべく駆ける。ユーク達にとって周辺にいる魔物は相手ではない。漆黒クラスの個体がいなければ、突破できる。
そこで魔物へ指示を出す男は驚いた表情を示し――選択に迫られる。彼は魔物と騎士が交戦し始めた段階で少しずつ後ろに下がっていた。基本的には逃げることを前提にし、状況を見て攻めるようという判断だったようだが、ユークによって目論見が外された形。
そこで、男は――ユーク達を見た。以前紅の魔物と交戦した時、間違いなくその姿は目に留めていたはずであり、
「くっ――押しつぶせ!」
近くにいる青の魔物へさらに指示を出し――新たな雑兵が生まれた。数によってユーク達の動きを縫い止めようという魂胆だった。
ただ、言葉通り数で迎撃しようという考えはない様子。その理由は、さらなる魔物が生まれたというのに足は後方へ向かっている。彼はユーク達の戦いぶりを見て、数で押し込もうにも無理だと悟り逃げる体勢に入っていた。
(外にはノイド将軍がいる……けれど、大森林の中にある入口全てを把握できているわけじゃない。この異空間から出られたら逃げ切られる可能性がある)
ユークはここで周囲の気配を探った。騎士と魔物が交戦し、アンジェの剣戟が炸裂する中で調べるのは難しかったが――それでもユークは、男の後方に異空間の出口らしき魔力の溜まりがあるのを確認する。
とはいえそれは、男が数歩でいける距離ではない。
(このまま間合いを詰めれば決着はつけられる……問題は森の中に潜んでいる魔物か)
最初、紅の魔物と交戦した時は各個撃破で処理した。だが、間違いなく男へ向かえば複数体の紅が押し寄せてくるに違いない。
「――アンジェ」
そこで横にいる従者へ声を掛ける。
「このまま突撃すれば、間違いなく人型の魔物が複数体、襲い掛かってくる。
「わかりました」
彼女の返事は明瞭――ユークはそれで決断した。
先んじてユークが速度を上げる。それで男は自分が狙いだと悟り、青の魔物へ指示を出して生成した魔物を差し向けた。
だが次の瞬間、魔力を込めたユークの斬撃が放たれる。それは魔力による衝撃波を伴い、周辺にいた魔物をまとめて吹き飛ばした。
「っ……!?」
男は瞠目しつつも後退は続ける。背を向け一目散に逃げ出してもおかしくなかったが、それをやれば魔物に指示は出せなくなり、終わる――ということを本能的に理解したのか、踏みとどまりながらじりじりと下がっていく。
そしてユークは青の魔物へ肉薄し、その体へ一閃。これによってとうとう魔物の生成手段が消え失せ、残るは――
「かかれぇ!」
男が叫び、同時に森の中から紅の魔物が複数体飛び出した。男にとって最後の切り札。紅の魔物による攻撃によってユーク達を迎撃する。
一体ずつではなく、まったくの同時に紅の魔物は森から出現し、ユーク達を狙う――その挙動からユークとアンジェについては先の戦いで観測していたに違いない。すなわち、一体だけで挑んでも瞬殺されるだけであり、複数体による攻撃でなければ勝機はないと。
男は飛び出した紅の魔物を見て、会心の笑みを浮かべた。逃げるフリをしてユーク達を誘い込み、紅の魔物を使って始末する――そういう魂胆だったのだろう。
無論、ユークは魔力を探り予想できていた――森にいた紅の魔物。その気配をしっかりと把握していた時点で、勝負は決まっていた。
紅の魔物が斬撃を放つ。王道とも呼べる騎士の剣術は正確無比にユークとアンジェへ襲い掛かる。そして複数体がまったく同じタイミングで迫っており、完璧な連携ができている。人間同士で常日頃共に戦っている騎士同士でさえ、こうは上手くいかないだろう。
(命令の仕方によって、紅同士で連係攻撃ができる……これもまた、脅威だな)
ユークはそう断定しつつ、剣に魔力を注いだ。そして紅の魔物が放った刃に対し、一閃する。
その威力は、紅の魔物による攻撃を弾き飛ばすほどの勢いがあった。途端、男の表情が驚愕に染まる。紅の魔物はすかさず体勢を立て直そうとしたが、それより先に切り返したユークの剣戟が複数体の魔物の首を両断した。
それによって紅の魔物は等しく消滅する。なおかつ、アンジェの方も剣を巧みに避けつつ紅の魔物の首を刎ねた。彼女はユークのように一気に倒すことはできなかったが、騎士の剣術を完璧にいなし、一体一体魔物を撃破する。
そして紅の魔物と激突して十数秒後にはユークの真正面に魔物がいなくなる。切り札が消え失せた男は顔を引きつらせながら手をかざす。
別の魔物か、それとも魔法か――ユークは魔力を探りながら駆ける。それと同時、男が魔力を発した。




