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隣国の騒動

 旅を続け、ユーク達はディリウス王国の国境を越えた。


 当初、ユークは国境を抜ける前に一騒動あるのではないかと考えていた。自分達の居場所が知られている可能性は微妙ではあったが、純白や青の魔物を倒しているという情報を組織側が手に入れているのだとしたら、ユーク達のことを捜索して動き出す可能性も――十分あった。

 しかし実際は何も起きなかった。ユークは見逃しているのか見つけていないのかどちらだろう、と頭を悩ませアンジェに話題を振ってみると、


「さすがに、居所を知らないのでは?」

「うーん……魔物の居場所くらいは把握していそうだし、それに基づいて俺達がいる所も……」

「実験場所や魔物の位置を知る術があるにしても、私達のことを監視しているわけではないでしょうし」

「……それもそうか」


 会話をしつつ、ユーク達はシアラの下へ向かう。その間に情報収集についても行う。ディリウス王国側では勇者オルトが捕まったことで聖騎士団が動いている。そしてログエン王国では、


「……何やら、こちらも騒動があるようですね」


 情報を集め、街道を歩みながらアンジェが言う。それに対しユークは「そうだな」と応じ、頷いた。

 ログエン王国に入った最初の町でいくらか聞き込みをすると、国内で生じている騒動について情報が出た。なんでも最近王族を狙った襲撃事件があったらしい。


「魔物の仕業らしいですが、その魔物は誰かに使役されていた……と」

「そういう風に誰もが口を揃えて言っているな……これについては、俺達が追っている組織と関係あるかどうかは現時点で不明だ」

「シアラ様の見解を聞きたいところですね」

「そうだな」


 他に騒動というのはないようで、町そのものは平和であった。ただここはディリウス王国も同じ。今はまだ、脅威が表面化していない。しかしもし町の人々の目に触れるような事態となれば――その時は、手遅れだ。


「……騒動解決までの道のりは長そうだけど、頑張ろう」


 ユークの発言にアンジェは小さく頷き、二人は歩き続けた。






 そして――ユーク達はアンジェが住む屋敷がある町に辿り着いた。領主がいるということでそれなりの規模を持つ町であり、かつやや遠目に大森林が見える。


「あれだな」


 ユークは町の奥に存在する屋敷を指差した。町を進み、なだらかな上り坂の先にその屋敷はあった。建物の周囲は木々も見え、自然と一体化したような、不思議な存在感を放っている。


「ユーク様、まず屋敷へ向かいますか?」

「そうしよう……腰を落ち着かせた後、町を見て回ることにしよう」

「はい」


 ユーク達は大通りを進む。結構人の往来はしており、露店などには客もいて賑わっている。


「街道はこの町からさらに東へ伸びています」


 と、ふいにアンジェが話し始めた。


「そちらへ進むとやがてログエン王国の王都へ向かうことができるようです」

「交易路も兼ねているというわけだ……だからこそ人が多いんだろうな」


 そう言いつつユークは活気溢れる町並みを眺める。


「そして、シアラの領主としての能力も高い」

「はい……勇者の証を持つ若き領主――立場的には非常に大変でしょう。しかし、シアラ様はどうやら非常に上手く統治できているようです」

「統治能力……そこについては俺達がどう頑張っても得られないものだな……ただ剣と魔法の修練をしただけではない。シアラはきっと、俺達以上に大変だったかもしれない」

「領主という責務がありますしね……」


 アンジェもまた町並みを眺めながら応じる。人々が笑いながら雑談に興じる姿――それはまさしく、シアラの統治を反映している。統治の手腕が高くなければ、決して見ることのできない光景。

 ユーク達は通りを歩き、やがて屋敷の門前に到達した。屋敷は坂の上かつ、鉄柵の門が開け放たれその手前に門番が二人いた。


「――止まってください」


 丁寧な物言いで兵士がユーク達に呼び掛ける。


「領主にご用ですか?」

「はい……ユークとアンジェの二人が来たと、伝えてもらえますか」


 兵士はそれで頷き、屋敷へと向かう。態度からして名前などは門番に伝えていた様子。

 少しして兵士は戻ってきた。次いでユーク達を屋敷入り口へ手で示し、


「お入りください」

「どうも」


 敷地内へ。石畳の道を少し歩んだ先に屋敷の扉。ユークがドアノブを握り、開ける。重厚な音と共に扉が開くと、


「ようこそ」


 屋敷のエントランスに、シアラが待っていた。以前着ていた鎧姿ではなく、淡い紫色のドレス姿。


「迎える用意はできているわ……ここに着たということは、当然ディリウス王国から許可はもらっているのよね?」

「もちろん……それと、別れてからいくつか新たに判明したことがある。まずはその話し合いをしたい」

「わかった。その前に二人に使ってもらう部屋を案内するわ」

「シアラ自身が?」

「最高待遇の賓客だもの。領主自ら歓迎しないとね」


 そう述べるとシアラは微笑を浮かべた。


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