勇者の屋敷
ユーク達は屋敷内を歩き、それぞれの部屋へと通された。荷物を部屋に置いた後、シアラの案内によって屋敷内をぐるりと巡り、それが終わると客室で話し合いをすることとなった。
ユークがシアラと別れた直後に顔を合わせた戦士院の長、勇者シャノンのことを始め、魔物を生み出す青の魔物の存在といった一連の情報を伝えると、シアラは腕組みをしながらうなり始めた。
「かなり話が大きくなってきたわね……そもそも凶悪な魔物だったから、深刻な話ではあったけれど」
「魔物を大量に生み出せる存在がいる以上、いつ何時騒動が大きくなってもおかしくない……が、漆黒や純白の魔物はまだ実験段階という状況。青の魔物もおそらく同じだろうから、さすがに組織が現段階で無茶をするとも考えにくい」
「今後は小康状態が続くのかしら」
「個人的にはそれが理想だけど」
「組織側が動かず様子を見ている間に、私達がどこまで相手に近づけるかが勝負ね」
シアラの発言にユークは頷く。
「そうだ……正直手がかりはないから、国に頑張ってもらう必要があるけどね……と、ここでシアラに質問だ」
「何かしら?」
「ログエン王国側が今回の一件に関し、何かしら調べているとかはないのか?」
「王族への襲撃事件があったことは知っている?」
「ああ、情報収集をしていて知った」
「それに関する調査に集中していて、ディリウス王国内で生じた騒動に首を突っ込むという状況にはない。勇者が国に反旗を翻していた、なんてスキャンダルにしても大きいものだけど、ログエン王国でも使役された魔物に王族が襲われた……こっちも似たように大きい話だし、ディリウス王国と手を組んで何かをする、というのはないわね」
シアラはここで肩をすくめ、
「この襲撃事件が組織と関係あるのなら、私達が調べることで組織に近づける可能性もある」
「……シアラ、二つ質問がある」
「問い掛けについて予想できるわ。魔物は本当に使役された存在なのか? そして、私自身襲撃事件についてどう考えているか……特に組織と関係があるのか、でしょう?」
ユークはシアラの言葉に深々と頷いた――王族に対する襲撃事件。内容としては紛れもなく国家に対する反逆だ。そんなことをする輩がいるのかどうか――さすがに町中に広まっている噂レベルの情報では、確たる情報は出なかった。
「私は領主だから色々と情報も手に入れることができている……まず、襲撃事件が起きたのは今から一ヶ月ほど前。ただ当初は野生の魔物が城に入り込んだのではないか、という推測で王城の警戒度合いは上がったけれど、どこから侵入したのかを把握すれば対処は容易だろう、という見解だった」
「でも、使役しているという結論になっている」
「魔物がどうやって現れたのかという調査の過程で、魔物から採取した残留魔力が人間の手が入ったものであることがわかったのよ。よって王族を襲ったのは野生の魔物ではなく、誰かの手によるものと断定した」
「ログエン王国としてはどう動いたんだ?」
「残留魔力から犯人を割り出せれば良かったのだけれど、そこまでは無理だった。よって少ない手がかりを用いて調べ回っている最中。その過程で、情報が町に流れたのでしょうね」
「現在の進捗は?」
「あまり芳しくない。犯人を見つけることもそうだけど、動機についても一切わからない。とにかく手がかりが少なすぎる……けれどログエン王国としては王族が狙われた以上、絶対に放置するわけにはいかない。必然的に様々なリソースは事件解決に注がれる」
「王国としてはやりたくもない仕事をしていると」
ユークの言葉にシアラは「そうね」と応じつつ、
「費用ばっかりかさんで成果が上がらないから、どうすべきか紛糾しているようね……そして私の見解だけれど、これは組織と関連がある事件だと考えている」
「何か根拠はあるのか?」
「……私は当初、騒動について関心はあったけれど詳細を調べようとは思わなかった。でも、大森林であなた達と顔を合わせて魔物を倒し、組織の存在を知った時……私がここへ戻り最初にやったことは、王族を襲撃した魔物の詳細を調べることだった」
ユークは彼女がなぜそうしたのか、という意味合いを理解しつつ、尋ねる。
「それで、結果は?」
「……魔物の姿は、紅と表現するような色合い。なおかつ、人型を持っていたらしいわ」
「人型、か……俺達が遭遇した魔物と形は似ているな。なおかつ、自然発生する魔物とも考えにくい……シアラはもし人型であったなら――という考えで、調べたわけだな?」
「ええ。結果として私の推測は合っていた……もちろん、人型の魔物だからといって組織と繋がりがある事件だと断定はできない。でも、いくつもの人型を持つ……しかもそれは全て組織由来。となったら、さすがに偶然姿形が似た、なんてのはいくらなんでも楽観的すぎるだろうと私は考えた――」




