少しずつ終わる恋
恋の終わりには、きっと音があると思っていた。
大きな喧嘩。
涙。
「もう別れよう。」
そんな決定的な一言。
ドラマでは、いつもそうだった。
でも、本当の終わりは驚くほど静かだった。
気づいたら、始まっていた。
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最初に変わったのは、返信の速さだった。
「おはよう。」
そう送っても、返事が来るのは夜だった。
前は数分で返ってきていたのに。
仕事かな。
忙しいのかな。
そう自分に言い聞かせる。
「ごめん、寝てた。」
「仕事だった。」
その一言で納得しようとした。
信じたい気持ちの方が、不安よりずっと大きかったから。
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会う回数も減っていった。
「今週は忙しい。」
「来週ならいけるかも。」
「また連絡する。」
その”また”は、なかなか来なかった。
スマートフォンを何度も開いては閉じる。
通知が鳴るたびに期待して、違うアプリだったと分かって肩を落とす。
そんな日が増えていった。
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大学の講義中も、気づけば画面を見ていた。
返信はまだ来ていない。
バイトの休憩中も。
家へ帰ってからも。
眠る前も。
朝起きた時も。
スマートフォンは、いつしか時計よりも先に見るものになっていた。
たった一通の返信で安心して。
既読がつくだけで嬉しくなって。
返信が遅いだけで泣きそうになる。
そんな自分が嫌だった。
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「重いって思われたくない。」
だから、追いLINEはしなかった。
「会いたい。」
その一言も、飲み込んだ。
我慢すれば嫌われない。
待っていれば落ち着く。
そう思っていた。
でも、本当は違った。
私は我慢していたんじゃない。
怖かったんだ。
「もう会えない。」
そう言われることが。
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久しぶりに会えた日。
嬉しいはずだった。
でも、どこかぎこちなかった。
隣にいるのに、少し遠い。
前みたいに笑えない。
前みたいに目が合わない。
沈黙の意味が変わってしまったことを、私は敏感に感じ取っていた。
「どうしたの?」
聞こうと思って、やめた。
聞いてしまえば、本当に終わる気がした。
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帰り道。
駅まで歩く時間。
前なら手を繋いでいた距離を、今日は少し離れて歩いていた。
会話も少ない。
「じゃあね。」
その一言で終わる。
振り返ると、彼はもう歩き出していた。
私はしばらくその背中を見つめていた。
追いかけることはできなかった。
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それからしばらくして、私は気づいてしまう。
恋は、突然終わるものじゃない。
終わる前に、小さな別れが何度もある。
返信が遅くなった日。
電話が減った日。
会えなくなった日。
笑顔が少なくなった日。
全部が、小さな終わりだった。
私は、そのたびに見て見ぬふりをしていただけだった。
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ある夜。
スマートフォンを握りしめたまま眠れなかった。
「ねえ、私たち大丈夫?」
その文章を打っては消す。
「会いたい。」
打っては消す。
「好きだよ。」
それも消す。
結局、何も送れなかった。
画面だけが暗くなって、自分の顔が映る。
疲れた顔だった。
恋をしている顔じゃなかった。
恋を失うことを恐れている顔だった。
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終わりの日は、驚くほど普通だった。
空は晴れていた。
電車は時間通りに来た。
コンビニには新商品のスイーツが並んでいた。
世界は何一つ変わらない。
変わったのは、私たちだけだった。
最後に交わした言葉も、特別ではなかった。
怒鳴り合うこともない。
泣き叫ぶこともない。
ただ、お互いが違う方向を向いてしまったことを認めるしかなかった。
「今までありがとう。」
その言葉は、想像していたよりずっと静かだった。
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家へ帰っても、涙は出なかった。
現実味がなかった。
「また連絡が来るかもしれない。」
そんな期待が、まだどこかに残っていた。
でも、一週間。
二週間。
一か月。
時間だけが過ぎていく。
部屋の中には、一緒に買ったお菓子の空き缶や、何気なく撮った写真が残っていた。
消そうとしても、指は動かなかった。
思い出を消せば楽になるわけじゃない。
そんなことは分かっていた。
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友達には言われた。
「次があるよ。」
「もっといい人いるって。」
きっと、その通りなんだと思う。
でも、私が失ったのは「彼」という存在だけじゃなかった。
彼と過ごした何気ない日常。
安心して眠れた時間。
何も考えずに笑えた自分。
全部、一緒になくなってしまった気がした。
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恋は終わった。
それは紛れもない事実だった。
でも、不思議なことに。
嫌いにはなれなかった。
憎むこともできなかった。
「最低な人だった。」
そう思えたら、きっと楽だった。
だけど私の中に残っていたのは、笑っている彼の姿ばかりだった。
だから苦しかった。
幸せだった記憶だけが、何度も心を締めつける。
私はまだ知らない。
この恋の終わりが、本当の意味で私の人生を変えていくことを。
そして、失った恋よりも、「失った自分」を探す長い旅が始まることを。




