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4/7

少しずつ終わる恋

恋の終わりには、きっと音があると思っていた。


大きな喧嘩。


涙。


「もう別れよう。」


そんな決定的な一言。


ドラマでは、いつもそうだった。


でも、本当の終わりは驚くほど静かだった。


気づいたら、始まっていた。



最初に変わったのは、返信の速さだった。


「おはよう。」


そう送っても、返事が来るのは夜だった。


前は数分で返ってきていたのに。


仕事かな。


忙しいのかな。


そう自分に言い聞かせる。


「ごめん、寝てた。」


「仕事だった。」


その一言で納得しようとした。


信じたい気持ちの方が、不安よりずっと大きかったから。



会う回数も減っていった。


「今週は忙しい。」


「来週ならいけるかも。」


「また連絡する。」


その”また”は、なかなか来なかった。


スマートフォンを何度も開いては閉じる。


通知が鳴るたびに期待して、違うアプリだったと分かって肩を落とす。


そんな日が増えていった。



大学の講義中も、気づけば画面を見ていた。


返信はまだ来ていない。


バイトの休憩中も。


家へ帰ってからも。


眠る前も。


朝起きた時も。


スマートフォンは、いつしか時計よりも先に見るものになっていた。


たった一通の返信で安心して。


既読がつくだけで嬉しくなって。


返信が遅いだけで泣きそうになる。


そんな自分が嫌だった。



「重いって思われたくない。」


だから、追いLINEはしなかった。


「会いたい。」


その一言も、飲み込んだ。


我慢すれば嫌われない。


待っていれば落ち着く。


そう思っていた。


でも、本当は違った。


私は我慢していたんじゃない。


怖かったんだ。


「もう会えない。」


そう言われることが。



久しぶりに会えた日。


嬉しいはずだった。


でも、どこかぎこちなかった。


隣にいるのに、少し遠い。


前みたいに笑えない。


前みたいに目が合わない。


沈黙の意味が変わってしまったことを、私は敏感に感じ取っていた。


「どうしたの?」


聞こうと思って、やめた。


聞いてしまえば、本当に終わる気がした。



帰り道。


駅まで歩く時間。


前なら手を繋いでいた距離を、今日は少し離れて歩いていた。


会話も少ない。


「じゃあね。」


その一言で終わる。


振り返ると、彼はもう歩き出していた。


私はしばらくその背中を見つめていた。


追いかけることはできなかった。



それからしばらくして、私は気づいてしまう。


恋は、突然終わるものじゃない。


終わる前に、小さな別れが何度もある。


返信が遅くなった日。


電話が減った日。


会えなくなった日。


笑顔が少なくなった日。


全部が、小さな終わりだった。


私は、そのたびに見て見ぬふりをしていただけだった。



ある夜。


スマートフォンを握りしめたまま眠れなかった。


「ねえ、私たち大丈夫?」


その文章を打っては消す。


「会いたい。」


打っては消す。


「好きだよ。」


それも消す。


結局、何も送れなかった。


画面だけが暗くなって、自分の顔が映る。


疲れた顔だった。


恋をしている顔じゃなかった。


恋を失うことを恐れている顔だった。



終わりの日は、驚くほど普通だった。


空は晴れていた。


電車は時間通りに来た。


コンビニには新商品のスイーツが並んでいた。


世界は何一つ変わらない。


変わったのは、私たちだけだった。


最後に交わした言葉も、特別ではなかった。


怒鳴り合うこともない。


泣き叫ぶこともない。


ただ、お互いが違う方向を向いてしまったことを認めるしかなかった。


「今までありがとう。」


その言葉は、想像していたよりずっと静かだった。



家へ帰っても、涙は出なかった。


現実味がなかった。


「また連絡が来るかもしれない。」


そんな期待が、まだどこかに残っていた。


でも、一週間。


二週間。


一か月。


時間だけが過ぎていく。


部屋の中には、一緒に買ったお菓子の空き缶や、何気なく撮った写真が残っていた。


消そうとしても、指は動かなかった。


思い出を消せば楽になるわけじゃない。


そんなことは分かっていた。



友達には言われた。


「次があるよ。」


「もっといい人いるって。」


きっと、その通りなんだと思う。


でも、私が失ったのは「彼」という存在だけじゃなかった。


彼と過ごした何気ない日常。


安心して眠れた時間。


何も考えずに笑えた自分。


全部、一緒になくなってしまった気がした。



恋は終わった。


それは紛れもない事実だった。


でも、不思議なことに。


嫌いにはなれなかった。


憎むこともできなかった。


「最低な人だった。」


そう思えたら、きっと楽だった。


だけど私の中に残っていたのは、笑っている彼の姿ばかりだった。


だから苦しかった。


幸せだった記憶だけが、何度も心を締めつける。


私はまだ知らない。


この恋の終わりが、本当の意味で私の人生を変えていくことを。


そして、失った恋よりも、「失った自分」を探す長い旅が始まることを。

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