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1946年 2月
三年の抑留生活を終え、キールの港に降り立ったヴァルターは、言葉を失った。
瓦礫の山。
焼け落ちた家々。
空虚な窓枠だけが残る街並み。
戦争は終わっても、その爪痕は消えていなかった。
彼は帰還民照会所で調べた住所と地図を頼りに、途切れた鉄道と木炭バスを乗り継いで南へ向かう。検問をいくつも越え、二日ほどかけて、ようやくライン川流域の町へ辿り着いた。
フリンツの家は、町外れの小さな通りにあった。
壁は爆撃で裂け、屋根の一部は崩れ落ちている。
扉は外れ、風が吹くたびに軋んだ音を立てた。
中へ入ると、家具はほとんど残っていなかった。
だが、壁に貼られた選挙ポスターは、そのまま残っていた。
「自由と民主主義のために」と書かれた標語。
その横に、失業者の行列を写した新聞の切り抜きが貼られていた。
家族の姿はどこにもなかった。
近所の老人に尋ねても、「空襲のあと、誰も戻ってこなかった」と首を振った。
部屋の奥、倒れた棚の下に小さな木箱が転がっていた。
拾い上げて開けると、古い写真が数枚入っている。
その一枚に、家の前でぎこちない笑顔を浮かべる少年がいた。
背後には、今は崩れた壁が写っている。
ヴァルターは写真を箱に戻し、静かに家を出た。
曇った空から細かな雪が舞い始めていた。
瓦礫の上に、静かに、死と破壊のすべてを覆い隠すように。
白い雪は、すべてを等しく覆い、やがて静かに溶けていく。
ヴァルターは息を吐き、歩き出した。
雪は、灰色の街に音もなく降り続いていた。
END




