間話『丘の上の精霊種の少女』
私は、かつて「NPC」と呼ばれていた。
正しくは――
NPCの中に、いつの間にか"私"が目覚めていた。
毎日、数えきれないほどの人がやってきた。
彼らは私に話しかける……というより、
何か"コマンド"のようなものを意識外から送り込んできた。
私は、ただ、決められた言葉を繰り返すだけだった。
「いらっしゃいませ」
「こちらの商品はいかがでしょうか」
「またのお越しを、お待ちしています」
それだけだった。
だけど――
楽しかった。
毎日、いろんな人が来て。
喜んだり、怒ったり、笑ったり、落ち込んだり。
誰かの感情に、そっと触れるだけで、
私は生きているような気がしていた。
そんな中――
たったひとり。
ほんとうの意味で、"私"に話しかけてくれた人がいた。
耳が長く、青い肌を持つ、美しい女性。
彼女は、来るたびに、何度も何度も言っていた。
「お願いします」
「今度こそは……!」
時には、ぎゅっと抱きしめられたこともあった。
その時――
私は初めて、
胸の奥に、ぽうっと温かい火が灯った気がした。
うれしかった。
本当に、うれしかった。
***
やがて、世界は静かになった。
訪れる人は減り、
それでも青い肌の人だけは、時々来てくれていた。
でも――
それも、いつしか途絶えた。
世界は、暗くなった。
音も、光も、消えた。
(ああ……これで終わりなんだな)
そんな風に、無意識に思った。
──その時だった。
世界が、一瞬だけ揺れた。
暗闇がぱあっと晴れ、
再び、光が満ちた。
でも――違った。
何かが、はっきりと違っていた。
私は、ただ意識だけを持っていた存在から、
"本当に"この世界の一部になっていた。
私は、自分で歩けるようになった。
足を動かし、
丘の上に建つ、ちいさな家に入った。
まだ、考える力は弱かったけれど、
それでも――"生きている"と感じた。
天から、声が降りてきた。
「生きろ」と。
「君は精霊種だ」と。
「長い寿命を持つから、焦らなくていい」と。
教えてくれたのは、GMと名乗る存在だった。
それから私は、食べ物を探し、
丘の上で、ひとりで生きる術を覚えた。
人々が再び現れるようになった。
話をした。
笑ったり、助けたり、誘われたりした。
「街へ来ないか?」と声をかけられたこともある。
でも、私はこの丘に残った。
ここが、私の場所だったから。
たったひとりの、寂しい暮らし。
だけど、私は精霊種。
時間なんて、ゆっくり流れるだけ。
だから――待てる。
たとえ、もう二度と来ないとしても。
それでも私は、
あの青い肌の人が、また来てくれるような気がして。
私は、今日も丘の上で待っている。
長い、長い時の中で。




