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魔晶紅

 彼女が出ていってから、再び部屋は静まり返る。できれば無視してやり過ごしたいという気持ちもあるものの、シノレは考えずにいられなかった。聖者がどこで何のために何をしているのか。


「……聖者様が、ただの石を魔晶石にしてセネロスに送り付けたって……何でそんなことを。そもそもそんなこと、できるんでしょうか」

『端女の思惑は知らんが。その程度ならば、今の汝にも可能だろうよ。それを取れ』


 示された袋は貢物の一つで、中には金銀宝石が入っていた。

(……わあすごい、なんか光ってるなあ……)

 それは現実感が全然なくて、シノレの目には蜃気楼みたいに思える。


『適当な一つを取ってみろ。魔力を流せ。纏わせろ。漏らさずに仕舞う時と要領は同じだ。ほらほらやってみろ』

「はあ……」


 言われるがままシノレは紅玉の粒を握り、魔力を操作した。だがこれが、思った以上に難しい。魔晶石を強化するのとは全然違う。

 魔晶石は表面に細かい荒れや凹凸がある感じで、そこに引っかける感じでやれば上手くいく。だがこちらはつるつるとして滑ってしまう感じだ。最初は手間取ったが、段々やり方が分かってきた。


 暫くした後、魔晶紅がひとつ、手の中に生まれていた。

 これを売りさばけば、短期間で大儲けだろう。すぐに取っ捕まって飼い殺しにされる未来しか見えないが。


 シノレは虚ろな目で、出来上がった魔晶紅を見る。鈍い、でも底のぎらつくような、赤みを帯びた輝き。それにふと、故郷で起きたことを思い出した。

(…………やめたやめた。人間には分相応ってものがあるんだ。こんな手品ができたところで……)


 シノレは眉間にしわを寄せ、魔晶紅を元の袋に投げ込んだ。こういうものにはいい思い出がない。だが剣はそんな主人を気にも留めず、一方的に続ける。


『当代では魔晶石と呼ばれ、高値で取引されているとか。それを量産し、機嫌伺いで来る者どもに握らせ、裏から盤面を操るという手もある。やり過ぎれば石の価値自体が暴落して、己の首を絞めるだろうが』

「…………」

 黙り込んだシノレに、蜥蜴はつまらなさそうに鼻を鳴らした。


『その判断ができぬようなら、所詮汝には過ぎたものということだ。……まあいい。今日も始めるぞ』

「はい」


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