剣の指示
この数日、シノレはずっとこんな調子だった。司祭服を取り上げられ、セネロスが用意した豪華な服を着せられ、この仰々しい部屋で過ごしている。
元々シノレの造作は悪くない。着飾って姿勢を正し、優美な長椅子に腰かける姿は高慢ながらも気品に溢れ、まるで生まれながらの貴族のようだった。……瞳が猛毒に汚染された底なし沼のように濁り果ててさえいなければ。
「……シノレ?」
そこにやってきたオルシーラは、戸惑いも露わに立ち尽くしていた。シノレもシノレで、左手を気にしながらそちらに嫌々目を向ける。
「どうした。用がないなら帰れ」
「……どうしたも何も……」
また神剣に憑依されているのかと一瞬思ったが、すぐに違和感が湧き上がる。
シノレの目は濁ったままだ。以前に見た時とは明らかに違っている。あの、極めて特徴的な、鏡のような銀の瞳孔が現れていない。
オルシーラはふんぞり返ったシノレと暫し見つめ合った。徐々にシノレの視線が弱くなっていく。
「お前、シノレ…………よね?」
「……………………はい、シノレです」
物凄く気まずくなりながら、シノレは何とか頷いた。肩を縮め、そそくさと座り直す。幸い指は痛まなかった。
「…………」
「…………」
暫くどちらも口を開かず、部屋に沈黙が落ちた。
(…………何だ、この気持ち……)
シノレは、生まれて初めての感情に襲われていた。できることなら奇声をあげて、地の果てまでも逃げたかった。
ほぼ初対面の相手ならまだいいのだ。だが本来の自分を知っている相手に、この芝居を見られるのは耐え難い。悶絶するほど恥ずかしい。壁に頭を打ち付けたいくらい恥ずかしい。そんなことをしたらすぐに罰が落ちるからできないが。
オルシーラの不気味なものを見るような目が痛い。辛すぎる。
「……い、一体何なの?お前そういう性格じゃなかった、はずよね……?」
「…………これにはちょっと事情がありまして」
シノレは別に何かに乗っ取られているわけではなく、完全に素面である。だが、操られてはいる。羞恥心と葛藤に耐え、こんな馬鹿げた振る舞いをしている理由は一つだ。肘の辺りでもぞりと何かが動いた。
『剣が話す、腕を上げよ』
「……そうですか。ではどうぞ」
ゆったりした袖の中から、ひょっこりと蜥蜴が出てくる。途端にオルシーラの佇まいに緊張が走った。
「……ご機嫌よう。シノレの不思議な挙動は、もしや貴方様が?」
『そう、剣が指示している』
「……そうなんです」




