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シノレの豹変

 それから色々なことがあって、月も半ばを過ぎ、終わりが近づいてきた。あれ以来、シノレの元には貴族たちが競うように日参してきた。


「ここ数日、勇者殿が鳥類を集めていると聞きました。レイグ殿のたっての頼みもあり、こちらを持参したのです。……如何でしょうか?職人が丹精込めて作り上げた、金の鳥籠でございます。お気に入りの鳥を入れれば映えるかと……わずかでもお心の彩りになれば幸いです」

「……お前、異教徒どもと繋がっているのだろう?」

 ある日の相手に、シノレは無表情で言い放った。必要に迫られたお陰で、宮廷語は短期間で大分上達していた。お愛想とおべんちゃらを並べていた貴族は、それにぎょっとしたようだった。お構いなしにシノレは立ち上がり、余裕ある足取りでゆったりと歩み寄る。


「……ここまで観察したところ、私に会いに来る貴族は二種類いる。昼に動く者と、夜に動く者だ」

 セネロスの昼夜逆転は、大公が臥せり、オルシーラが代理を務める今も続いている。オルシーラ自身は昼に活動する人間だが、それとセネロスの体制はまた別だ。先代の大公が君臨した時代からのものだから、急な移行には対応できないのだという。


 ちなみにシノレは夜に眠るから、夜型の者たちは就寝直前か起床直後を狙うことが多い。昼の場合はまちまちだが。

「更に観察して分かったことは、昼夜にはそれぞれ特色がある。派閥と言い換えても良いだろう。昼はオルシーラひ……オルシーラと近しい者が多い。それこそシエナの類縁など。傾向としては、昼側はオルシーラを讃える。夜側は私を讃える。

 ……つまり、オルシーラを盛り立てようとする者と、私に諂おうとする者がいる」


 そのシエナ本人は最近めっきり顔を見せないのだが。どこで何をしているのやら。

 シノレは、相手のすぐ前で足を止めた。

「昼夜問わず、貴族はどこも生き残りに必死だ。教団に靡いた者、大公家を見限った者。楽団と繋がる者もいたな。目覚めぬ大公について……特に夜側の者たちは、ロスフィークの異教徒たちと結んだ者が多いそうだな」

 ここ最近、シノレとレイグは接触を断たれている。マルセロ初め貴族たちも、決してそこに言及することはない。ただ、彼の挙動や会話から、レイグの動向も凡そ見当がつく。


「……当然だろうが、レイグは夜とは距離を置いている。レイグと近しい昼の者はここを訪れる時、必ずある決まり文句を言う」

 でもお前はそうしなかった。そんな者が、レイグから何かを頼まれているはずがない。囁くような声でシノレは断定した。内心では「いや決まり文句なんてあったか……?」と思っている。


「決まり文句もない、オルシーラにも言及しない。その二点から、おそらくお前は夜側だ。それが何故か、昼日中にやってきた。曰く付きの金製手土産を引っ提げて。これでは怪しみもする」

 シノレは鳥籠を無造作に取り上げ、矯めつ眇めつ観察した。蝶番のところに何気なく入れられた紋章。それを確かめてから、ずいと突き付けた。


「…………これは異教徒の頭領、クラーデス家の紋のひとつだな。私に受け取らせたという事実を使って、何かをするつもりだったのか?」

 その手から鳥籠が落ちて、がしゃんと金属質な音を立てる。窓辺で足を止め、半身だけ振り返ったシノレはせせら笑った。


「驚いたか?軟禁され、飼われているも同然の身でも、この程度の推察はできる」

「……御見それしました。英雄の後継たる御方を欺かんとした不遜、どうかお許し頂けないでしょうか」

「結構。情報は多いほどいい。私は誰の訪問も拒むつもりはない。ただし、私に隠し事をするな。煩わしいから。仮にしてもすぐに知れるものと思え」

 そしてシノレは、初めて相手の顔を直視した。不審げな顔が、濁った目にはっきりと映し出される。


「アロイスと言ったか」

 シノレは威圧的な口調で呼びかける。更に続けようとして、シノレの眉が僅かに歪んだ。一瞬唇を引き攣らせてから、声を押し出した。意識したわけでもないのに、そこには勝手に魔力が乗っている。


「……貴方は僕に」

 途端親指に激痛が走る。正しく言い直した。

「……お前は私に指一本を捧げた」

 だが、貴族はぽかんとした様子だった。

「……は……?」


 その反応がお気に召さなかったらしい。頭の中で、また舌打ちが響いた。すぐシノレは「もう良い。下がれ」と口にした。相手は訝し気にしながら去っていった。シノレは疲れ果てて椅子に崩れ、暫しの休憩に入った。

「…………」


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