門と剣
少ししてから、天井付近まで浮き上がった蜥蜴に再び話しかけられた。
『ところで汝の名前は?』
「……シノレです」
蜥蜴を持ったまま話そうとしたところ、頭が高いと叱られた。なのでシノレは、床に直に座り、宙に浮いた謎の白蜥蜴を見上げている。何なんだろうかこの状況。いや考えても分からないことを考えてはいけない。体力と気力と時間の無駄遣いだ。
重要なのは、この謎生物を前にどうすれば無事にやり過ごせるか。そして情報を得られるかだ。
「それで、その……貴方はあの剣のお化けみたいなものでしょうか……?」
そう言った瞬間、また指輪がきつく締まった。肩を強張らせたシノレに、蜥蜴は傲然と答える。
『不敬を申すな。剣は剣だ。余計な言葉を加えるな』
「すみません……ええと、とにかく、先程大公様を昏倒させたのは貴方ということで良いんですか?」
『認める』
「どうしてまたそんなことを……」
『資格のない者が触れれば呪う。剣はそういうものゆえ。ずっと半覚醒状態だったんだ、いきなり起こされた状態でそこまで他人に気を遣えるか』
「……そうですか。そもそも貴方は何者なんですか」
『かつての皇帝の宝器であり、その一人の意識の欠片だ。畏れ敬うがいい』
あっさりと教えられたが、シノレは悪い冗談としか思えず、ため息を漏らした。何だこれは。自分の頭がおかしくなったのかと思ったが、それにしては先程の指の痛みはやたら生々しかった。
「何を馬鹿げたことを……結構です。それでは問いを変えますが、貴方は何をしていたんでしょうか。あの剣は、今までどういう状態だったんですか?」
舌打ちのような音が脳に響く。何だか俗っぽいなと感じながら、答えを待っていると、とても不本意そうな返答をされる。
『既に情報は得ているだろう。セネロスの宝物庫にいたのをあの下種に盗み出され、櫃に封じられ、下劣な術をかけられ海に沈められた。二百年前のことだ。その時にあいつも呪ってやったゆえ、それ以降は記憶を失って難渋したようだがな。…………そのまま野垂れ死ねば良かったのに』
「使徒ザーリアーはどうしてそんなことを?」
『門を開くためだ。剣は鍵ゆえな。封印を弱めるには、剣を弱らせる必要があった』
「門?」
次々と耳慣れない言葉が出てきて、シノレの頭は混乱しそうだった。相手の方は全くお構いなく、どんどん話を進めていく。
『千年前の身の程知らずが、剣の力で魔獣を駆逐した。そして門を閉ざした。だから魔獣は減った。盗人はその封印を解こうとしていた。要約するとそういうことだ』




