外れない指輪
それから大変だった。聖者たちが使うような豪華な部屋に通され、今日からここを使えと言われ、部屋には使用人たちが当然のように待機して、一挙一動に即応できるよう待ち構えているのだ。しかも室内には貴族たちからの贈り物が大量に積まれていた。
豪華だの贅沢だのと喜べる状況ではない。服や右手で左手を隠し、何とか一人になったシノレは、暫くの間指輪と格闘した。
「く……っ、この……いつの間にこんなもの……!」
最低限の灯りを頼りに、謎の指輪を外そうと悪戦苦闘した。こんなものをつけていたら不自然だ。不自然は目立つ。先程までの本能を若干引きずり、必死に外そうとしていたシノレだが、これがどうやっても外れない。押しても引いてもびくともしない。まるで肌と癒着しているようで、ぞっとするものがあった。
指輪は模様のない簡素な意匠で、だからこそ素材の上質さが際立っている。儚い灯りにもきらめいて、滑らかな金色の光沢を放っていた。とてもではないが、自分などの指にあって良い代物とは思えない。外れろ外れろと呪詛のように念じて引っ張っていたシノレは、突然の激痛にひっくり返りそうになった。
「…………っ!?」
指輪のぎりぎりと縮んで、親指の根元が痛む。千切れそうに痛む。シノレは悶絶した。
『……しつこい。諦めよ』
「…………え」
そして頭に響いた声に、シノレは咄嗟に反応できず固まった。唖然とするシノレの手の上で、妙な生き物が出現している。見覚えがある。これは先程、祭神殿で目にした謎の白蜥蜴だ。だが、あの時よりずっと小さい。手のひらに収まるほどに縮んでいた。
羽つき蜥蜴のような何かは、シノレの手の上でぱたぱたと羽を動かし、こちらを睥睨してきた。不自然なほどに輝く銀の瞳孔がシノレを映し出す。
「……は?」
『何だその間抜け面に腐り果てた目つきは。全く以て嘆かわしい、こんなものが当代の主とは』
「…………いや、あの、何なんですか……?」
シノレは訳も分からず、そう突っ込むしかなかった。




