大事なおまじない
餌付けタイムが一段落したところで、先輩たちに一つ尋ねてみる。
「そう言えばお二人はどの競技出られるんですか?」
「ん?私はクルセオよ」
当たり前でしょ?と言わんばかりに言うアル先輩。あれだけ強いんだしまぁなんというか納得。
「私はね~マギアンドに出るよん」
「えっ?」
レイと同じ競技だ。でも選考会で見かけなかったはず……。
「レイちゃんと一緒に頑張るよ~」
いつの間にかレイの腕に絡みついてほっぺをすりすりとくっつけている。
「が、頑張ります……」
「お手柔らかにね~」
メア先輩のスキンシップの前では皆抵抗できなくなるみたい。レイもどうしたらいいのか困ってるっぽい。
「メア先輩、レイが困ってるからその辺で……」
「んぁ、ごめんごめん」
解放されたレイがキュッと私の隣に戻って腕を絡めてくる。
「そう言えば三人で合宿みたいなのってするの?」
「合宿ですか……?」
ふいにアル先輩が尋ねてくる。
「そ、合宿。今日は個人の力を伸ばすことはしたけど三人の息を合わせる練習はできなかったでしょ?まぁ……今の三人を見てたら今から信頼関係を深めるって言うのは必要なさそうだけど」
私たちの今の姿勢を見てちょっと微笑む先輩s。
「合宿……って訳じゃないですけどお泊り会はしようかなと思ってます」
「お泊り会?いいわね。どこでやるの?」
「近くの温泉に行こうかなと」
「エイリーンがいろいろと準備してくれてるんです」
ほんとに、彼女には頭が上がらない。
「温泉!いいわね。ロベリアちゃんたちも行くの?」
「ええ。もちろん」
「大事な友達ですから!」
今回の温泉で一番の目標は何か悩んでる様子の彼女を癒してあげることだ。直前説明会と壮行パーティーの直前にやるしかなくなったのはちょっともったいないけど。彼女が試合で全力を出せるようにしなきゃ。
「姉様、リーダーらしくなってきましたね」
「そ、そう……?」
「立派に皆の事を考えられてると思うわよ」
二人とも褒めてくれる。皆にリーダーをやってくれと言われてから少しだけ意識してたけど良く見えてるっぽい。
「ミアちゃんがリーダーかぁ。頑張ってね~」
ちょっとうれしそうに私の頭をぽんぽんと撫でてくるメア先輩。
「が、頑張りますっ……!」
話に花を咲かせてしばらく時間が経った後。すっかりお茶もお茶菓子も無くなった。
「そろそろ、お開きかしらね」
「もうこんな時間じゃーん」
話に夢中であんまり意識してなかったけど既に日が傾いていた。そんなに話し込んでいたっけか……。
「じゃあ妾はお会計済ませてくるからメアは皆の事先に外に連れて行って」
「えっ。奢ってくれるの?」
ぱあっと顔が明るくなる先輩。確かにちょっとグレードのいいものを頼んでいた気がするな……。
「立て替えるだけ。後で払いなさい」
「ケチーっ!」
あっさりはしごを外されて、ぷくーっと頬を膨らませる先輩。
「先輩かわいいなぁ……」
「表情豊かですよね。見てて癒されます」
「むむっ!かわいい子にそんなこと言われたら私もいっぱいかわいいって言ってあげなきゃじゃん!」
くるっと振り向いたメア先輩は私たちのことを後ろから抱きしめてわしゃわしゃと撫でてくれた。
「ちょ……先輩!?」
エイリーンもまとめて撫でられている。困ったようにしてる彼女もあんまり見なくてほんとに新鮮。
「ほらほら歩いた歩いた~」
ゆっくりとした歩みでカフェを出る。抱きしめられているせいで二人三脚みたいになっていてちょっと歩きにくい。
「いでっ」
「何してるのメア」
先輩の手が体から離れたと思ったら変な声が聞こえた。
「後輩を困らせないの!しかもこんなお店の前で」
「いーじゃーんかわいい後輩なんだよ~?」
「そんなかわいい後輩なら変な絡み方しないの。困ってるじゃない三人とも」
「そ、そんなことないよねぇ」
メア先輩がちょっとうるんだ目でこっちを見てくるけどちょっと返事に困ってしまう。
「ほら」
「そんなぁ~」
「バカやってないでこの子達を送るわよ」
「うぅ……はーい」
しょんぼりしたかわいい先輩を先頭にカフェを出て寮の方向へ送ってもらう。結構甘いもの食べちゃったし晩ご飯の時間ずらしてもらわなきゃ。
「エイリーンちゃんは寮じゃなかったわよね。お家まで送るわ」
「あ、お気になさらず。寮の前に馬車を待たせておりますから」
そう言った彼女は続けて私の耳もとでこっそりと囁いてきた。
「ちょっとだけミアのお部屋で休んでもいいかしら」
「え?ええ。多分大丈夫だと思うわ」
レイの方をちらっと見るとニコッと微笑み返してくれた。多分大丈夫ってことだろう。ネイ達もダメとは言わないだろう。
「話してたらあっという間ねぇ」
彼女の言う通りもうすぐ寮の目の前までつきそう。
「先輩方、今日はありがとうございました」
「いいんだよ~かわいい後輩のお願いだもん!」
「私にとっても学びがあったし」
そう言ってもらえるとちょっと嬉しい。
「あ、そうだ!本番で頑張れるようにおまじないかけてあげようか」
「へ……?おまじない?」
「そう!次会うときは会場だろうしね~。私のおまじない、効くんだよ~?」
そう言ってちょっとにや~っとするメア先輩。ちょっと不安になってアル先輩の方を見ると、不思議なことにいつものツッコミが発動していなかった。
「これが本当に効くのがたち悪いのよねぇ……」
「って言うことで、一人ずつ。いかが~?」
となりにいる二人と顔を見合わせてそう言うことならと首肯する。
「それじゃ目をつぶってね?」
こくりとうなずいて、言われたとおりに目をつぶる。すると鎖骨あたりをツンっと触った後頬に温かくて柔らかい何かが触れてきた。
「ぇ……⁉」
びっくりして目を開けると先輩がキスをしてきていた。いつものいたずらっぽい顔ではなく聖母のような優しい微笑みで。
「頑張ろうね、ミアちゃん」
三人とも順番に先輩のおまじないを受けてしばらく驚いてフリーズしてしまった。効く、といいなぁ。それからお礼を言って先輩と別れたことだけは覚えていた。
あまりにもぼーっとしていたせいか、翌朝ネイにだいぶ心配されていた。本当にごめん。




