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これからも

あの後、優璃さんに朝の匂いを教えてもらったけど冷たい匂いしかわからなかった。


部屋に戻ってコートを置きに部屋に戻ると、眩さんが帰ってきていた。


眩「朝の匂い分かったか?」


絢愛「冷たい匂いしか分からないです!」


眩「ま、そのうちだな。」


眩さんはそのままパンツ一丁でご飯を食べに行ってしまった。

私は朝の匂いが分かるまでご飯抜き。

明日にはわかるようになるって優璃さんが言ってくれたので水を飲んで、未世麗さんからもらったノートに今ある記憶を書いていく。


この慰撫団に入ってから出会った人たちの名前を書き、後で写真を取って貼るスペースを空けておく。


『パパ、ママ』


と書き、覚えている出来事を書いていく。

でもやっぱり名前が思い出せなかった。

存在は分かっているのに、どうして名前が出てきてくれないんだろう。


私は家での出来事、お出かけした出来事を書いていく。


…そういえば、地元の岩盤浴によく行ってたなぁ。

名前は…、そうそうLANILABAってとこ。


私はスマホを取り出して、その岩盤浴のお店を調べる。

あれ…?この岩盤浴のお店って3軒しかない。

しかも私が住んでる東京には1件しかない。


私は岩盤浴の住所を調べて、フォトマップを開く。


知ってる知ってる!

ここ、学校からの帰り道!


ここのお団子やさんも知ってる!


私はご飯を食べに行った眩さんに東京に戻りたいと説明する。


眩「荷物は?」


絢愛「置いてきます!また戻るので!」


眩「…元の生活に戻らないのか?」


絢愛「私は大好きな人たちのためにやると決めたらやるんです!」


眩「親もいないんだろ…?行ってどうする?」


絢愛「どうしても思い出したい人がいるんです!私その子とずっと友達だったんです!」


眩「…そうか。じゃあ行くか。」


と言って、眩さんは団員の人からスウェットを借りて服を着る。

私も嵐さんのロングワンピースを借りてあの岩盤浴のお店に行くことにした。


眩さんは一目がつかない路地裏に飛び、私は人通りの多い方へ走る。


眩「待て!」


眩さんが私の腕を掴む。


絢愛「早く行かないと!」


眩「落ち着け。その子とはどこ行ったんだ?」


絢愛「団子屋さん、岩盤浴、お肉屋さん、カラオケ…」


眩「ここから近いのは?」


絢愛「団子屋さんです!」


眩さんは私の腕を掴んだまま、2人で団子屋さんの店に入る。


「いらっしゃ…あら!絢愛ちゃ…ん。」


絢愛「おばさん!おはよう!」


「あら…、今日は来ないかと思ってたわ…。」


絢愛「どうしてですか?」


「え…?絢愛ちゃん、知らないの…?そんな事無いわよね。」


団子屋のおばさんが困惑し始める。

どうしたんだろう。


絢愛「…何かあったんですか?」


「絢愛ちゃん…、あのね。結美ちゃんのお通夜今日なのよ。…辛いのは分かるけど、現実に目を背けちゃいけないわ。」


結美…。


眩「あの…、結美さんの家はどちらか分かりますか?」


「あら…?貴方は?」


眩「絢愛の友人です。この間、絢愛は事故で一時的に記憶が欠如してしまって、ここの付近も分からなくなってしまったんです。」


「そうなのね…。分かったわ。」


と言って、おばさんはお通夜の会場と結美という人の住所を教えてくれる。


眩「…ありがとうございます。」


絢愛「ありがとう。」


「また来てね。」


おばさんが少し寂しそうに手を振って送り出してくれる。


眩「大丈夫か…?」


眩さんが私の手を握りながら話す。


絢愛「分かんない。」


眩さんはそのまま結美という子の家に向かった。


その道は何度も見たことがある景色で、その道を一歩進むたびに涙が出てくる。

結美と歩いた帰り道が、私の頭の中でたくさん再生される。


結美の家を越して、10分行くと私の家があることを思い出す。

後で向かう事を忘れないように頭に焼き付ける。


眩「ここら辺だ。」


と、眩さんが足を止めた家は誰もいない静かな住宅街。

もう結美たちは会場に移動してしまったのかもしれない。

でも…、何で結美が死んでしまったの…?


「…え!…なの…?」


少し向こうで、朝から井戸端会議をしてるおばさんがこっちの方に歩いてくる。


「ここの大きい一軒家の娘さん、亡くなったらしいのよ。」


「…あら、最近元気なかったからもしかして…」


「違うわ!自殺じゃない、殺されたのよ。」


「えっ?どういう事?」


「ここの娘さんとても可愛らしいでしょ。それで娘さんをネットで知ったストーカーが自分の物にするために襲ったって話よ。」


「怖いわぁ…。娘さん、ネットで顔なんか出してたの?」


「娘さんはあまりネットをやるような子じゃなかったの。でもクラスメイトの自撮りした写真の脇に映ってたのを見てストーカーがここまで突き止めて、帰り道に襲って理性が欠けて殺してしまったらしいのよ。」


「クラスメイトの子も責任感じちゃうわねー。」


「学校はそのことを内密にしてるから、そのクラスメイトには届いて無いらしいわよ。」


「え!?そうなの?」


「そう、未成年の心体を守るためだそうよ。」


そう、ベラベラと話しながら私たちの横をゆっくり通りすがったおばさんたち。


絢愛「私が…、私が…」


私が一緒に帰ってたら、結美を守れたかもしれない。

私が自分の事に一生懸命になりすぎて、結美の事を後回しにしてしまった。

私が結美の事守るって決めたのに、ちゃんと守りきれなかった。


絢愛「ごめん…!ごめんね…!結美!」


私はそのまま地面に突っ伏して泣き崩れた。


私が一緒にいたのに、パパとママを死なせてしまった。

私が自分の事に精一杯になりすぎて、結美の事を守りきれなかった。

私はみんなために体を使うしか能がないのに、何で大事な時に大好きな人たちを守れないの。


眩「絢愛、ちゃんとお別れしに行こう。」


眩は私を抱きあげて、抱っこしたままお通夜の会場に向かった。


お通夜の会場にはまだ人は疎らで、設営準備中だった。


眩「夜まで待とうか。」


絢愛「…。」


どうして、私はこんなに大切な存在を忘れてしまったんだろう。

こんなに心臓痛くて、呼吸も荒くなってしまう存在だったのに…、何で結美を忘れたんだろう。

もっとどうでもいい記憶はいっぱいあるのに、大切な人たちの記憶がどんどん消されていってしまう。


絢愛「私ん家に帰る。」


私は眩の制止を無理矢理引っ張り歩き出す。

眩は私の行きたいように行かせようとしてくれてるのか、引っ張るのを辞めて手を繋いだまま私についてくる。


私の記憶にある自分の家に着く。

その家にはもう車も庭の物干し台も無かった。


玄関の扉には『売却済み』と言う文字。

もうここは私の家じゃないらしい。


だから、私は庭を掘り返した。

ここには二分の一成人式の時にパパとママと結美たち親子で成人式に掘り返す予定だったタイムカプセルがある。

そこには私が大好きな人たちの写真をいっぱい入れた事は覚えてる。

だからこれだけは他人の物にされたくなかった。


眩も一緒に庭を掘り返してくれた。


2人して泥だらけで、不法侵入。

でも…、これだけは手放したくない記憶だから諦められなかった。


だいぶ長い時間掘り返して出てきたのは、夢の国のお菓子のカンカン。

そのデザインが今とは違って古く懐かしさが溢れている。


眩「見つかって良かったな。」


絢愛「うん、ありがとう。」


私はビニールで包まれたタイムカプセルを開ける。


少しカビ臭いそのタイムカプセルの中にはみんなの写真と、20歳になった私と結美のために書かれた手紙が入っていた。

私は写真と自分に向けられた手紙を取り、コートのポケットに入れる。


すると、小さいポーチが入ってる事に気づく。


私はそこに写真と手紙を入れて、折れないよう持って帰ろうとポーチを開いた。


すると、そこには私のお気に入りのグロスと何かが絵が彫られているビー玉が入っている。

私はビー玉に絵が描いてある珍しさに手に取ってみる。


そこには鳥の絵と私の名前、夢の国のクマさんのキャラクターと絢愛と結美と言う文字が掘られている。


…こんなに近くにあったのに、私は今まで気づいてあげられなかった。


それにまた涙が流れる。

どうして近くにいて私はすぐに気づいてあげられなかったんだろう。


結美、私はいつもそうだったね。

結美がいじめられてるのにも、綺麗な夜空が見えるあの場所でも、あのお祭りの時も、私が結美の記憶を無くしてしまった時も結美は近くにいるのに私が気付けてあげられなかった。


本当にごめんね。


もっとたくさん一緒に遊ぶはずだったよね。

もっとたくさん思い出を作るはずだったよね。

もっとたくさん結美の笑顔を見れるはずだったのに、私が呑気にしていたせいで結美が居なくなってしまった。


ごめんね、私は大好きな人を守れない。

何も能のない人なんだ。


私は周りの空が赤みがかってるのも気づかず、ずっと涙を流しながら大好きな人たちに謝り続けた。

それでも大好きな人たちは帰ってこない。

なんで、自分の欲のために人を殺める事が出来るのか私には理解出来ない。

今その人は結美が生きれなかったこの時を生きている事が本当に理解出来ない。

でもその人の事を大切だと思ってる人は少なからず居て、私がその人を殺してしまったらその人を大切に思ってる人たちが悲しむことになる。


だから私は殺しはしない。

自分の欲のために命を奪う事なんかダメなんだ。

私はその悲しみの連鎖を止めるためにさっきまで眩さんと稽古しに来てたんだ。


私の悲しみは、私の心だけで留めておく。

周りの人にこの悲しみを知られなければ心の悲しみの連鎖は無くなる。


大丈夫、私は出来る。


絢愛「眩さん、連れてきてくれてありがとうございます!」


眩「…大丈夫か?無理に…」


絢愛「もう大丈夫です!私が笑ってないと結美も大好きなみんなも笑顔になってくれないのを思い出したので!」


大丈夫。

大好きな人たちは私の中で生きてる。

ただ…、肉体がこの世から無くなるだけ。

結美と私はソウルメイトって話してたよね。

だからきっと今もそばにいてくれてるよね。


眩「じゃあ、葬儀に…」


絢愛「…この手紙を渡すだけなので、みんなが居なくなってからにします!」


眩「分かった。近くで隠れて待ってよう。」


絢愛「はい!」


私は腫れた目で無理矢理笑顔を作って返事をした。


そして、お通夜が終わり会場が薄暗くなった頃、わたし達は中に人がいないか確認しながら結美の元に行った。


沢山の花が飾られている中心に結美がいると思われる棺桶がある。

その窓は閉じられていて、顔をみる事は出来ない。


私はその棺桶に手紙を置き、手を合わせる。


結美の体が無くなっても、

結美と遊べなくても、

結美とお話出来なくても、

私の心には結美が側にいてくれてるって分かってるから、もう泣かないよ。


結美、今までたくさんの思い出を一緒に作ってくれてありがとうね。

昔も今もこれからも、ずっと大好きだよ。

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