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記憶

誰かが板張りの床を走る音で目が覚める。


目を覚ますと、私は布団の中で眠っていた。


でもここは何処だろう。

いつもいたリビングより3倍近くある畳の部屋。

寝ているのは私だけで、菊の絵が描かれている襖の向こうから忙しそうにしている人の声が聞こえる。


今何時だろうと、癖で体のどこかにあるポケットを探すがどこにもなかった。

私はバスローブのような寝間着に着替えさせられていた。


「どこ…?」


私は立ち上がろうと体を起こそうとすると、お腹に痛みが走る。


そして、あの女の子の事をフラッシュバックする。


あの子は無事なのかな。

確かめないと。


私はお腹の痛みに耐えながら体を起こし襖を開けると、お団子2つ頭に乗せた背の低い女の子が目の前にいて、バチッと目が合う。


「わ…わぁ!良かった!」


女の子が持っていた白い布を床に落として、私に優しく抱きつく。


絢愛「あの…、私と一緒にいた女の子は無事ですか?」


「あ!あの子ならあと1週間で病院を退院出来るそうです。」


絢愛「はぁ…、良かったぁ…。」


私は力なく床に座り込む。


女の子は慌てて、他の人を呼びに行き私を布団に戻した。


しばらくすると、女の子が白い布を顔につけた女性の手を引いて私がいる部屋にやってきた。

その女性と女の子は私の布団の隣に座り、頭を下げた。


「華宮家当主、華宮はなのみや 未世麗みせりと申します。あなたの大切な人達を助けられなくて、ごめんなさい。」


と、優しい声の持ち主の女性がなぜか謝ってきた。


絢愛「え、えっと…。」


私は記憶を辿るが、女の子を助ける前の記憶が霞んでいて何があったか思い出せない。


未世麗「1週間ほど前、飛行機事故が起こってしまったんです。幸田こうだ 絢愛あやめさん、あなたはその生き残りです。」


絢愛「飛行機…」


あ…、そうだ。

誰かを探しに行こうと思ってたんだ。

あの女の子を助けてから、戻るって約束したんだった。


私はそのまま立ち上がろうとするが、体が思うように動いてくれない。


未世麗「今、絢愛さんは目覚めてばかりです。安静に…」


絢愛「約束があるんです…!」


未世麗「どなたとの…?」


絢愛「それが分からないんです…。思い出したいのに、その人の過ごした記憶はあるのに顔と名前が思い出せない!」


私は布団の上にうずくまり、涙を見せないようにする。


未世麗「…絢愛さん。一度落ち着いて下さい。」


未世麗さんという女性は、私の体が良くなった頃飛行機事故があった場所に連れてってくれると約束してくれた。


その隣にいた女の子は白露しらつゆ 愛芽李あめりと言って、大人っぽい雰囲気だったけれど、年齢を聞いたら13歳になったばかりと言っていた。


愛芽李は私の体が早く回復するためにご飯をいっぱい食べさせてくれた。

この屋敷の大浴場にも連れてってくれたり、この屋敷で飼っているのかたくさんの動物達と触れあわせてくれた。


数日後、未世麗さんが約束した通り私を事故があった場所に連れてってくれると言って手を繋がれ、目を閉じてとお願いされる。


お願いされるまま目を閉じ、待っていると優しい春風のようなものが吹いたと思ったら、未世麗さんが目を開けていいよと言ってくれ、目を開けるとそこはあの山奥だった。


絢愛「え…?」


未世麗「行きましょう。」


愛芽李が未世麗さんの手を持ったままどんどん進んでいくので、私は混乱しながらも2人についていった。


しばらく歩くと、ガソリンのような匂いがきつくなってくると同時に、周りの木が燃えたのか真っ黒になってきた。


未世麗「ここ。」


未世麗さんは指を指して、その場所を指す。


私は記憶と現実の場所が、目と頭の中で瞬きする度交互に再生される。


まだ明けきる前の朝日が、飛行機の残骸を静かに照らしている。

私は、記憶が蘇ってくる恐怖に1人耐えていると、未世麗さんの手が私の頬に触れた。


未世麗「怖かったわよね。…ごめんなさい、こんな辛い思いをさせてしまって。本当にごめんなさい。」


未世麗さんは悪くないのにずっと謝りながら、私のおでこと自分のおでこを引き寄せ、当てる。


あれ…。この温もり、感じた事があるはず。


それを見て、愛芽李も頭をくっつけてくる。


私は目をつぶり、記憶を辿る。

誰だっけ、同じようにこの温もりを感じさせてくれた人は…。


絢愛「大好き…。」


って言ったのは、覚えてる。

誰に大好きって言ったんだっけ。


「「私たちも、『『大好き』』。」」


記憶の声と2人の声が重なる。


2人が私を引き寄せ頭から顔を包み込む。


絢愛「…!」


パパとママ…?

パパ、ママ…!…行かなきゃ!


私はするっと2人から抜け出し、座っていた座席の元に走る。

前にもこうやって走った気がする。

あの時はすごく息がしづらかった気がする。


私の目指していた場所に行くと、そこにはもう何もなかった。


愛芽李「…絢愛ちゃん!足速い!」


軽く息切れする愛芽李と全く動じない未世麗さんがついてきていた。


絢愛「陸上部入ってたから、ちょっと速いの!」


私は辺りをキョロキョロ見ながら答える。


未世麗「ここにいた人たちはみんな運ばれたわ。」


絢愛「病院…?」


未世麗「みんな…、亡くなったわ。」


ドクっと心臓の動きが一瞬変になる。


みんなって…、私と一緒に乗ってたパパとママも…?


絢愛「パパとママがいたはずなんです。」


未世麗「幸田、何さん?」


絢愛「えっと…。」


パパは…幸田 __。

ママは…幸田__。


絢愛「待って…、えっと…んっと…。」


未世麗「焦らなくていいわ。一度屋敷に…」


絢愛「もう少し、ここで考えたいです。」


未世麗「人が来る前には行かないと行けないわ。」


絢愛「…わかりました。」


私は長い時間その場に立って考えたが、2人の名前が出ることはなかった。


朝日が強く射してきて、人が来てしまうから帰らないといけなくなってしまった。

渋々私は2人と屋敷に帰り、また1人考えるが全く名前が出てこなかった。


その様子を何度も2人は見に来ては、何か話したそうにしていたが私はパパとママの名前を思い出してからにしてほしいと数日断っていたが、こんなに思い出せないのは何か変だと思い2人に聞いてみることにした。

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