ライト軍のユウキ②
「ステラにはデネブ大佐と言う婚約者がいるそうだけど、彼とはどうなっているの?」
「あら、やきもち?」
ステラの顔がパッと明るくなった。
「いや、そうじゃなくて、君のことは、何でも知っておきたいんだ。警護対象としてね」
「警護対象?」
「そう、何かあった時にすぐに駆け付けられるようにしたいからさ。何と言っても、君は、大恩人だからね」
「……ユウキは私が嫌いになったの?」
ステラが、悲しそうに言った。
「好きな事は好きだが、君の事は諦めた。例え君が他の男に抱かれても、今なら我慢出来る」
ユウキがきっぱり言うと、彼女の目から涙が溢れた。
「ステラ、何を泣くんだ?」
ユウキは、彼女の涙の訳が分からなかった。
「……こんな事、今更言えた義理じゃないんだけど。実はね、地球から帰った時、貴方の事を愛している自分に気がついたの」
「えっ、僕を愛してるって? ステラが?」
ユウキは驚いて、ステラの濡れた緑の瞳を見つめた。
「そうよ。私が愛しているのは貴方だけ、私の夫になる人は貴方しかいないと決めているの。本当にごめんなさい、貴方に、なんて詫びたらいいのか……」
そう言って涙を流す彼女の手を、ユウキがそっと握った。
「本当なんだね? 信じていいんだね?」
ユウキの真剣な眼差しに、ステラが頷いた。
命までも捨てようと思った愛する人。彼の中で、一度は消えた恋の炎が再び激しく燃え上がった。胸の鼓動が高まり、どうしようもない想いが溢れると、ユウキは彼女を強く抱きしめた。彼女の鼓動を身体に感じるだけで、ユウキの胸は痺れた。
見つめ合っていた二人は、どちらからともなく唇を合わせ、互いの想いを確かめるように、長く激しいキスをした。ユウキが、彼女をベッドに押し倒そうとした時、彼女がそれを止めた。
「これ以上は、お互い自制しましょう」
ステラは、起き上がって、服や髪を直してユウキに言った。
「僕こそすまない。出会った時からの想いが一気に溢れてしまって……」
「いいの。何があろうと、あなたへの愛は変わらないわ。私達がこの世界で認められる日を待ちましょう。
話は変わるけど、ストレンジ博士に戦闘スーツのお礼に行かない?」
「行こう、僕もお会いしたいと思っていたんだ」
二人は、ストレンジ博士の研究所へと飛んだ。
研究室のドアを開けると、博士は、難しい顔をして何かの本を開いていたが、ステラとユウキを見ると笑顔に変わった。
「君がユウキか、よく来たね」
博士はユウキと笑顔で握手をして、二人をソファーに座らせると、白髪をかきあげ、度のきつい眼鏡を直して二人の前に座った。
「二人共、いい顔をしておる、愛し合っている顔だ。早く戦争を終わらせて、お前達の赤ん坊を抱かせてくれ」
二人は、はにかみながら「はい!」と返事をした。
「博士、素晴らしいスーツをありがとうございます。お陰様で、こちらで頑張れる目途が立ちました」
「そうか、不死身のスーツなど、そう簡単に出来るものじゃない。今はそれで我慢してくれ。その内もっと良い物を作るからな」
「ありがとうございます」
「研究所を案内しよう。何かの参考になるだろう」
博士に案内されて、二人は研究室や工場を見学した。
「戦闘用の武器としては、戦闘スーツの他にロボットやアンドロイド、サイボーグ等があるが、わが国では戦闘スーツが主流だ。戦闘スーツは人間が入る為、その動きには制限がある。
一方、ネーロ帝国のアンドロイドは動きも早く、力も強い。今は、こちらのスーツが優れている為、何とか戦えているが、進化したアンドロイドが出てくれば、負けは見えている。今は、スーツの武器の強力化や人間のサイボーグ化の研究をしている所だ」
「サイボーグ? 脳を残して身体中を機械化するという事ですか?」
ユウキが興味を示した。
「そうじゃ、全身機械になればスーツのどんな動きにも対応できるし、高性能のアンドロイドが出て来ても負ける事は無い。だが、愛する人と愛し合う事も出来なくなる等、人間にとっては、死にも匹敵する代償を支払わなくてはならない。完全なサイボーグ化は倫理的にも問題があるんじゃよ」
博士は、何かに思いを巡らしながら、大きな溜息をついた。
彼は話を変えてユウキの戦闘スーツの説明を始めた。
「ユウキのスーツのように、防御能力を最大限追求したものは珍しい。シールドを変化させ武器としても使えるようにしてあるので、他のスーツに引けは取らないし、音波砲と次元移動装置の搭載で、最強のスーツの一つと言えるじゃろう」
「ありがとうございます。音波砲の威力は凄いです」
博士は、うんうんと頷き、テスト中のスーツの前で足を止めた。それは、サファイヤブルーのスーツで孔雀の羽の模様が入っていた。
「これは、ステラ用の新型だ。ユウキのスーツからヒントを得て、シールドを変化させることで、防御と攻撃を同時に出来る優れものだ」
博士がスーツを起動すると、スーツの周りをピンク色の帯が纏わりつくように動き出した。
「あの帯に触れるものは一瞬で破壊される。しかし、自分のスーツに危害は及ばない。身体を防護する役目と、剣、弾丸、へと自在に変化し攻撃する事が出来るんじゃ。高性能だけに、スーツを操る者の技量が問われる。このスーツはステラ以外には使えないだろう」
「博士、有難うございます。大事に使います」
「うん。国民は、戦争が長引いて、もう、うんざりしているんだ。決着を付ける時期が来ていると思う。しかし、その決定打になる武器がないのが現実だ」
「ネーロ帝国への侵攻計画は無いんでしょうか。決着を付けるためには、それしかないと思うのですが」
「その通りだユウキ。だが、わが軍は一枚岩では無い、女王派と議長派に分かれている事は知っているだろう。今まで侵攻のチャンスはあったが悉く議長アルデバランに邪魔されて来た。犠牲者が増える事を怖がっていては決着はつかん!」
博士は、吐き捨てるように言って、二人に視線を注いだ。
「お前達に期待している。ユウキ、ステラを頼んだぞ。これを幸せに出来るのは君しかいない。この通りだ」
ストレンジがユウキに向かって深々と頭を下げると、彼が慌ててその手を取った。
「博士、私は、この国とステラの為に命を捨てると決めています。必ず博士にステラの子を抱かせます」
「ありがとうよ、ユウキ」
博士の眼に涙が光り、ステラが彼に寄り添った。
三人が博士の部屋に戻ると、彼は、ある話を切り出した。
「実はな、南の大陸の話なんじゃが、核戦争から五百年がたっていて、未だに放射能で動物は住めない不毛の地とされているんだが、最近、その一角に、動く物体が撮影されたんだ。時間がある時に、一度、南の大陸を調べてもらいたいんだが、頼めるか?」
「わかりました、勤務を調整して、来週にでも調べに行きます」
「すまんな、宜しく頼む」
二人は、博士に送られて、それぞれの家に帰っていった。
次の週、ユウキは単身、南の大陸に向かった。広大な大陸は、意外にも、様々な樹木が繁茂する緑の大地だった。




