エイリアンの遺物
五百年前、南の大陸には二つの強国があり、争いが絶えなかった。彼らは、愚かにも、核戦争を引き起こして共に滅んでしまったのだ。
その反省から、核は廃棄されて平和な星となっていたが、ムミョウの出現で、再び戦争が始まったのである。
大陸の調査に来たユウキは、高高度から南の大陸全体を見渡した。山脈以外は緑に覆われているが、そこかしこに巨大なクレーターがあり、それが爆心地だと分かった。
ユウキは、数十発の水爆が、一瞬の内に一つの大陸を破壊し、数億の罪無き人々の命と人生を消し去った事を思うと、恐怖を覚えずにはいられなかった。そして、人間の愚かさを思った。
街という街は破壊されて瓦礫の山となり、今はジャングルと化していた。放射能の影響で五百年の間、誰も来る者は無かったようだ。
ユウキが、一つのクレーターの中へと降りると、すり鉢状のクレーターの底は、平地より数百メートル低い位置にあった。
彼が、そこで放射能の測定をしてみると、何故か正常値だった。場所を変え、大気、植物、土壌、水なども測定したが、問題無かった。
更に調査していくと、多くの鳥や動物などが生息して、彼らの楽園となっており、これなら人間も住めると、ユウキは確信した。
彼は、博士が話していた動く物とは、これらの動物ではなかったかと考えたが、念のため、撮影された付近まで行ってみる事にした。
そこは、大陸北部の海岸沿いに在り、近辺を捜索すると、苔や草に覆われた巨大なタワーのような物体が、崩れた山の中から顔を出していた。
(何なんだ、これは?)
それは、どう見ても普通の建造物には見えなかった。彼は、スーツの透視機能を使って、この不思議なタワーを探ってみたが、何故か透視できなかった。
ユウキは、どうしたものかと考えていたが、まず、近辺を捜索してからと、その場を後にした。
暫くその付近を捜索したユウキは、美しい景観に惹かれて、海を見下ろす岬の先端にやって来た。
彼はマスクを格納して、大きく深呼吸すると、大きな岩の上に仰向けに寝転んだ。そして、白い雲が静かに流れゆくのを眺めながら、ステラとめぐり会った故郷の池の事を、それからの一年余りの間に起きた激動の日々を、思い起こしていた。
ユウキは、ストレンジ博士が言ったように、この戦争を早く終わらせる為には、ネーロ軍を圧倒する強い武器が必要だとは思ったが、そんなものが簡単に手に入るはずもなかった。
(SF映画のように、何処かにエイリアンの武器があればなあ)
そんなことを思っていた彼が、弾かれたように起き上がり、再び、謎のタワーの前にやって来ると、突然、エネルギー弾を数発、その壁に撃ち込んだ。
すると、山の土砂が吹き飛んで、金属のようなタワーの壁が露になった。彼は、エネルギー弾を、その壁に打ち込んでみたが、傷一つ付けられなかった。
彼は、この不思議なタワーがエイリアンの宇宙船ではないかと、考えたのだ。ならば、その中に強力な武器があるかもしれないと。
何としても中に入りたいと、ユウキが最強兵器の音波砲を壁に向かって放とうとした時、不意に、扉が勝手に開いた。
ユウキが、恐る恐る、真っ暗なタワーの中にスーツの照明で入っていくと、フッと天井の照明が一つ点いた。そして、彼を誘うように、次々と照明が点灯していったのだ。彼は、その照明を追って奥へと進み、エレベーターに乗った。
エレベーターは高速で降下して、やがて止まり、ドアが開いた。真っすぐ続いた廊下を進んでいくと、ある部屋の前で照明の点灯は止まった。
部屋のドアが開いて入ると、そこには、ユウキと同じ、孔雀の羽の模様が入ったコバルトブルーの戦闘スーツが中央に置かれてあったのだ。
「何故、こんな所に僕と同じスーツがあるんだ!?」
ユウキはキツネにつままれたような気持ちになって、そのスーツを見つめた。
「いったいこれは、どういう事なんだ……」
同じような言葉を繰り返していたユウキだったが、思い切って、そのスーツの左手の薬指にあるボタンを押してみると、自分のスーツと同じように指輪へと変わった。
彼は、それを持って、ストレンジ博士の研究所へと急いだのである。
「おう、ユウキか。南の大陸には行って来てくれたのか?」
「今行って来たところです。南の大陸の放射能は消えて、植物が繁茂して動物の天国になっています。あれなら、人間も住めると思います」
「そうか、やはりな。女王陛下に報告しておこう。その内、利用価値も生まれるじゃろう」
「博士、これを見て下さい」
ユウキは、持って来た指輪を起動させて、戦闘スーツに変形させた。
「ん? これはお前のスーツじゃないか。何かあったのか?」
訝しがる博士に、ユウキは自分のスーツを起動し装着した。同じ戦闘スーツが二体並ぶと博士は目を丸くした。
「これはどうしたことだ!? このスーツは一つしか作っていないはずだぞ」
「博士、これは、南の大陸で見つけたのです。映像を見せます」
ユウキが、南の大陸での映像を空間に投影すると、博士は、食い入るような目でその映像を見ていた。
「うーん、このタワーは、恐らくエイリアンの宇宙船かも知れん。何万年前か分からんが、彼らがこの星にやって来て、何らかの理由で宇宙船を地中に隠したに違いない。五百年前の核の爆発で、その山が崩れて姿を現したんじゃろう」
「エイリアン? では、このスーツはエイリアンが作ったものなんですか!?」
「うむ、そうかも知れん。たまたま、お前が戦闘服姿で現れた事で、形態をまねられたのかも知れん。
ユウキ手伝ってくれ、このスーツを調べてみよう。もしかしたら大発見かも知れんぞ!」
博士の目が宝物でも見るように輝いて、ユウキを急き立てた。
彼らは、まず、エックス線や透視装置を使って調べてみたが、何も映らなかった。やむなく、彼らは、エイリアンのスーツの材質を調べてみた。
「ユウキ、これは、間違いなくこの星には無い物質で出来ている。恐らく形態を自在に変化させることが出来るんだろう。今は、お前のスーツに似せているが、本来の姿は違うはずだ。
こいつは生きているから、下手に手を出さん方がいいかもしれん。残念だが、今の科学では、これ以上の解明は難しい」
博士が、お手上げのジェスチャーをすると、ユウキが何気なく言った。
「なら、実際に着用してみましょうか?」
「いや、まだ、何も分かっちゃいないんだ。それは危険すぎる」
博士が、そう言って目を離した隙に、ユウキは、エイリアンのスーツを指輪に変化させて、勝手に装着してしまった。
「ユウキ!止めんか!!」
博士が叫ぶと、ユウキの身体に痛みが走った。「ううっ!」彼が苦しみだしたので、博士は咄嗟に、スーツのスイッチを押して指輪へと戻した。
ユウキはその場に倒れ込んで苦しそうに顔を歪めていた。
「大丈夫か!? ユウキ!」
博士が揺り起こそうとすると、ユウキの身体は真っ赤に火傷したようになっていた。
病院へ運ばれたユウキは、火傷の手当てを受け、ミイラの様に包帯だらけになってベッドに寝かされた。
「ユウキ、あれは、恐らくサイボーグスーツだ。危うく、死ぬところだったぞ」
付き添ってくれた博士が、ほっとしたような顔を見せた。
「あれは、儂が預かっておく。あれを使う時は命を捨てる覚悟が必要だ。この事は、他言無用にしよう」
ストレンジ博士は、ユウキの手を取って、優しく叩き帰っていった。
ユウキは一週間入院して退院したが、火傷のように赤かった手や顔の皮膚は黒くなっていて、軍の人々を驚かせた。
ユウキは、前線に復帰すると、ネーロ軍との戦いを難なく熟していたが、彼は戦いながら、集中力や運動能力が高くなっている自分の身体の変化に、気付いたのである。




