ライト軍のユウキ①
ユウキと共に軍の門をくぐったのは、彼と同年代の三十名の若者だった。軍での訓練は厳しかったが、ロータスの訓練に耐えて来たユウキにとっては、さして苦になるものでは無く、共に汗を流す仲間を気遣う余裕さえあった。
入隊して一月が経って、戦闘の練習試合が行われるようになると、ユウキの実力は群を抜いており、周りの者を驚かせた。
その才能が上官の目に止まり、ユウキは、待ち望んだ前線への赴任を命じられたのである。入隊して二カ月にも満たない新兵が前線に出る事は、異例の事だと上官は話した。
赴任地は、北部沿岸部のノースライト基地である。基地での彼らの任務は、レーダーが何かを捉えた時のスクランブルと、ネーロ帝国との境界海域の偵察、監視だった。
十人体制で、一日三回、戦闘スーツで境界海域を飛行し、異常の有無を確認するのである。
着任後、敵がいつ現れるかもしれないという緊張感で、落ち着かない日々を送っていたユウキだったが、終にその時が来た。
それは、ライト王国から北へ数百キロ離れた、海域を飛んでいる時だった。突然、「ドン!」という音と共に、ユウキの隣を飛んでいた兵士が火炎に包まれ、落下していった。
「落ち着け! 散開して相手の出方を見るんだ!」
隊長の、怒鳴るような声が響いた。ユウキは、咄嗟に急上昇し、その空域から離れて眼下を見下ろすと、ネーロ軍の黒いスーツ部隊二十人が、味方に襲い掛かろうとしていた。
ユウキは、即座に複数の敵に照準を定め、ロックすると、両手を翳してエネルギー弾を連射した。
放たれたエネルギー弾は、オレンジ色の尾を引いて一気に八人の敵に命中すると、彼らは火炎に包まれ落ちていった。
だが、次の瞬間、眼下の敵に気を取られていたユウキの背中に、幾つものエネルギー弾が炸裂したのだ。
ユウキは、一瞬、気持ちが飛んだが、直ぐに体勢を立て直し振り返ると、新たな十人の戦闘スーツ部隊が雲の中から現れていた。
ユウキは、エネルギー弾で応戦して、五人を撃破すると、ビームサーベルを抜いて、敵に斬り込んでいった。五対一の戦いだったが、ユウキには相手の動きがよく見えて、次にどう動くかも予知出来た。
予備のサーベルを取り出し二刀流を振り回して二人を倒したユウキは、残りの三人との決戦になった。
一斉に斬り込んで来た三人の内、二人はユウキの二刀のサーベルが捉えたが、三人目の敵のサーベルが無防備になった彼に振り下ろされた。
ところが、次の瞬間、その敵はスーツを切り裂かれて落ちていったのだ。シールドを剣のように変化させた、ユウキの見えない剣、エアーソードの初使用だった。
眼下の敵は味方が蹴散らしていて、初陣となる戦いは勝利で終わった。
初めての実戦にもかかわらず、落ち着いている自分があった。敵との交戦も、ユウキの動きが勝っていて、修行の成果を確認することが出来たのである。被弾した背中も無傷で、スーツの性能の良さにもユウキは感謝した。
ユウキは仲間達と、海上に落ちた味方の兵士を救助し、基地へと帰った。
こうした戦いが何回か続き、数カ月が経った頃、ユウキは隊長として指揮を取っていた。
一チームが、十人から二十人へと増員されたユウキの部隊が、偵察飛行中に百人を超すネーロ軍の大部隊と遭遇したのである。
ユウキの部隊は懸命に戦ったが、敵が多すぎて、彼自身も味方を護って負傷してしまった。
彼は、音波砲を使うしかないと判断し、味方を後退させると、敵の大軍の前に躍り出た。
「耳を塞げ!」ユウキの声が響いた瞬間、戦闘スーツの胸の部分が振動し、凄まじい音波砲が発射された。射程内に居た敵は、悉くスーツを破壊され落ちて行った。
軍の中で、ユウキの名前が日毎に有名になり、ステラの耳にも入るようになった。彼女は、ユウキの活躍を一時は喜んだが、死にはしないかと心は騒いだ。
ユウキは、背中の火傷の治療の為、一旦前線を退き入院することになった。彼は、味方を守る為に身体を盾にしたのだが、さすがのスーツも限界を超え、火傷したのである。
入院三日目の軍病院に、ステラが兵士の見舞いにやって来た。
彼女は、軍と病院の関係者数人を連れて、一人一人の話を聞きながら励ましの言葉をかけていった。傷ついた戦士たちは、ステラの温かい声と優しい言葉に癒され、再起を誓うのだった。
ステラは、一時間ほど経ってユウキの部屋に入って来た。ユウキは、サファイヤ星での彼女との最初の出会いに胸をときめかせた。軍服姿の彼女は、ユウキを見ると優しく微笑みかけた。
「どこが悪いの?」
「背中の火傷です」
「そう、無理をしちゃだめよ、スーツを過信しすぎてもダメ。貴方は真っすぐすぎるのかも知れないわね。この戦争を終わらせるまでは死ぬ事は許さない、いいわね!」
ステラが厳しい顔で言った。
「肝に銘じます」
「何か欲しいものはある?」
ユウキは、何かないかと思案していたが、悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「ステラ様を、私の妻に欲しいです」
と真顔で答えた。
「貴方が、この世界最強の戦士になったら結婚してあげるわ」
ステラは、動揺する事も無く微笑んで言葉を返した。
「約束ですよ」
周りの者たちは、最早あきれ返っていた。ステラは、ユウキの手を取って「お大事に」と笑顔を残して去っていった。
ユウキは、ステラに求婚した身の程を知らぬ兵士としても、名前を轟かせた。
それから、数か月が過ぎた頃には、ユウキは少佐に抜擢されていた。異例中の異例の人事だったが、ロータス肝いりのユウキの事は皆知っていて、特に大きな反響は無かった。ロータスの軍への影響力は、未だに大きいものがあるとユウキは思った。
少佐になると、ユウキは基地の外に住む事を許され、基地の近くに部屋を借りた。彼の部屋は、小さなマンションの二階にあって、部屋に入るとベッドと備え付けの衣装ケースがあるだけだった。
引っ越したその日、ステラが、突然、顔を見せた。
「少佐昇進おめでとう。貴方がこの世界で認められつつある事が嬉しいわ」
「ありがとう。全て、君やロータス様のお陰だ」
「貴方の頑張りがあったからよ。それにしても、何も無いのね。食事なんかはどうするの?」
「家に帰る事も少ないから何にも要らないさ。食事は、近くのレストランで外食するつもりだ」
ユウキはステラをベッドに腰掛けさせて、自分もその横に腰を下ろした。
「こうして二人だけで話せるのも、この世界に来て初めてだね。地球で、二人で暮らした日々が懐かしいよ」
「ほんとね」
ステラも、その頃を懐かしむように、目を細めた。
「そうだ、ステラに聞きたい事があったんだ」
ユウキが、何かを思い出したように彼女を見た。




