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結局のところ一人でうだうだ考えるよりも誰かに聞いたほうが早い。
それに気が付けば後はさっさと移動するだけだ。
…どこかって?冒険者ギルドだ。
防具屋に冷やかしがてら行くのも良かったが、こっちにした。
可能性が高いし、なにより野菜の納品もあるかもしれないからな。
「さて、と…」
やはり時間が時間だからか…まばらに人が居るな。
そこらの円卓を囲んで、飲食物片手に談笑している姿が見える。
しっかし話に夢中でこっちには目もくれないな…
一言で言い表すなら…
冒険者ギルドがサロンみたいな使い方をされている件。
…ってそんな感じだ、どうでもいいな。
いくつかある内の誰も並んでいない受付にさっさと向かう。
まぁ他に使ってるのは一人しか居ないのだが…
「おう、いらっしゃい!」
「ども、依頼受けに来ました」
やはりというかおっさんだ。
別に野郎に趣味がある訳では無いが、ついレアと言う事で並んでしまった。
というか珍しいんじゃなかったのか?昨日もいたぞ?
「オススメの依頼かい?」
「あぁ、何があります?」
「…これだな」
とりあえずリストで並ぶクエスト名に目を通していく。
…昨日と変わらず、『楽しい楽しい公共事業』と『冒険者の日常』はあるみたいだな。
しかも、リストの一番真上でチカチカと光る仕様になっており眩しい事、眩しい事…
以前やらなかった物は点滅するんだろうか?
まぁ、それは色々な意味で置いておいて…
他は見た感じ野菜関連が7つと、素材の納品が2つ、調合関連の依頼が3つにその他一つだ。
野菜に素材は、どれも軒並み納品可能なので全て受けて即納品だ。
「はい、これ」
「おう、ありがとよ!」
「報酬も貰ってるし、良いって」
全て受けて達成しても、報酬としてはそこまでじゃないな。
9つ受けて29000ミルス、内訳は野菜が9割、納品が1割だ。
そう考えると野菜だけだと毎日入ってくる薬草代の36000ミルスにも届かないのか。
まぁ、単純に普通の店で売りさばいていないってのもあるがな。
余すことなく売りさばいたら、多分勝てるが…
まぁいいや、どうせ自給自足とちょっと程度しか考えてないし。
「で、後は…」
気分を切り替えつつ、残った依頼を眺めていく。
やっぱ調合関連が出たのは、アビリティを取ったからだろうなぁ。
内容は、やっぱ薬を寄越せって事なんだろうか?
そう思ってちょっと内容を読んでみたのだが…
「これは中々…」
ちょっと面白そうだと、そう思ってしまった。
まず『定期開催!試作発表会!』から…
これは『試作』と名前についたアイテムを持って参加する事で、その薬品の評価をしてくれるみたいだ。
報酬は最低1000ミルスと少なめ、追加の報酬も一応はあるみたいだがなぁ…
まぁ、より効果の高い薬品にする為の素材のアドバイスとかを貰えるっぽいし、そっちがメインか。
…そんな発表会に試作ヘルブーストポーションで、どんな地獄が訪れるのか…?
とても見てみたい気もするが、リコリスに無断で出すのはまずいだろうし却下。
一応アイデアと素材提供は俺、制作はリコリスの共同制作だからな。
…今度相談して出してみるか?
そうなると俺は邪魔にならない様に見学って事で、遠くから見守る方になるが…
それで次は、『アイデア&助手募集!もうちょっとで完成なんだ!』だな。
素材の提供有、素材持ち込み可&使用分は買取、調合器具一式貸出可といった良い条件が並ぶが、達成の条件が一定期間以内に研究中の新薬の完成と来ている。
研究中の新薬の情報が無いのは当然っちゃあ当然だが…そこがネックだ。
俺のアイデアはヘルガーリックの単騎待ちと言ってもいい。
技術も今のところは無いからなぁ…
つまりこれが外れたらもう手伝える事は無い。
もう少し色々と調合で挑戦できていたら手伝っても良いんだがなぁ…といった感じだ。
最後は『特別な薬品を求めている』か…
薬の内容は虚弱に対して効果のある薬、試作ヘルブーストポーションの出番だな。
ただし依頼を受けたら、詳細と納品は実際に依頼人のセバスに直接会って確認してくれ、か…
で、肝心の依頼達成報酬は100000ミルス…?
「十万…!?」
とりあえず、条件反射で依頼承諾をポチリ。
やっぱ金額に目が眩むのは小市民の特権だな。
「あぁ、それはちょっとした訳ありなんだ」
「訳あり?」
「既に何人も受けてはいるが、尽く依頼はキャンセルされている」
「それで、依頼金額が釣り上がったとか?」
「いや、金額は据え置きだ」
誰もクリア出来ないから金が釣り上がった訳じゃないのか。
しかしなんで誰もクリアが出来ていない依頼なんだ?
見た感じ、他二つもこれもオススメとして紹介された理由に心当たりは一つしかない。
試作ヘルブーストポーションだ。
今回はそれのブースト効果が関係するんだろう。
しかし、他にブースト効果は作れなくても…だ。
それでも虚弱に効く薬とか、誰かが作れてもおかしくは無いような気もする。
店でも毒消しとかは売ってるし、状態異常回復の薬が特別な感じはしないんだがなぁ…
「とにかく、一度行ってみると良い」
そう言われて、視界に浮かんだのは町のマップ。
ギルドからやや遠い場所に、目的地のマーカーがキラリと光る。
俺の自宅からは割と近いがアクセスは悪そうだな。
それこそ大通りにあるが、通る目的が無いというか…?
とにかく、冒険者が集まりそうな道からは一つ外れた場所だな。
「何処だ?ここ?」
「…アイン様のお屋敷だ」
「アイン様?この町の名前と同じの…?」
この町の名前と同じって、やっぱ町長以外にはいないよな…
というかなんという偶然…偶然か?
~自身のレベルや行動、持ち物等からオススメの依頼を幾つかピックアップしてくれるみたいだ。~
こないだリコリスから説明されたばかりだからなぁ…
やっぱ偶然じゃないんだろう。
「町で言えば町長だからな?この方」
「あ、はい」
「あと、正確には領主だからな?」
「えっ、そうなのか!?」
「まぁ、割と最近領主となったから、皆は町って呼んでるんだがな」
「へぇ~…」
驚きもそこそこに頭をフル回転させつつ、会話も忘れない。
結局、これでわざわざ聞く必要が無くなった訳だ。
なんとまぁ、手間の省ける事で…
とにかく、依頼にしてもエルフ関連にしても、やる事は分かった。
どのみち依頼人のセバスって人に一度は会いに行く必要がある訳だ。
「じゃあ早速向かうか…」
「達成出来たら、報告は忘れるなよ?金が渡せんからな」
「…絶対忘れないさ」
流石に10万もの大金を、ドブに捨てる様な真似はしたくないな。
死ぬほど後悔しそうだし。
ともかく、もう目的は達したのでここには用は無い。
さらばギルド、また用がある日まで…
何かと困ったらここで解決しそうだし、ちょくちょく来る事にはなりそうだがな。
とか何とか考えつつ、ギルドから出ようとして…
「ちょっと待ったぁ!!」
なんだか良く分からないが、知らん奴に呼び止められた。




