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「…一体なんだ?」
待てと言われて待つ奴がいるか、と逃げても良かったのだがな…
相手をしてあげる事にした、見た感じ一人だし。
本当に理由の無い、ちょっとした気まぐれだ。
というかこいつ、さっき俺の横のカウンターに居た奴じゃないか?
背中に背負う、大型の盾はさっき見たし…
「いや何、ちょっとしたお節介なんだがな…
あの依頼、行っても門前払いをくらうだけだぞ?」
「…聞いてたのか?」
「その、どうしても聞こえてしまってな」
「そうか…」
まぁ、別に盗み聞きしてたからって何かある訳じゃないんだがな。
隠れて盗み聞きしてたってんなら、マナーが悪いとでも言うだろうか…
そもそも、周囲に聞かれて困る事はオープンに言わなきゃいい。
チャット時代の会話でも、声での会話が主流になった今でも同じ事だな。
で…そうそう、門前払いか?
もしかしてそれがキャンセルされている原因か?渡そうとしても渡せない的な?
って、そもそも依頼人に会いにいけないのか。
というか、何でコイツはちょっと凹んでるというか、陰鬱な顔をしているんだ?
とりあえずフォローも入れておくか。
「別に気にしちゃいないさ、忠告は受け取っておくよ」
まぁ、受け取るだけなんだがな。
結局、行かないと色々と事態が進展しないし…
「あぁ、そうすると良い!
それに!ギルドのオススメ依頼ってのは当てにならないらしいぞ!」
「へぇ~…」
「余もすっかり攻略組なる奴らに騙されてな」
「ほえぇ~…」
「ここ数日、奴らが持ってきたものも含めて無駄に受けさせられたものだ」
「そーなのかー」
「…真面目に聞いているのか?」
「勿論」
俺からしたら攻略組自体が一切信用できないのだが…
なんやかんやでギルドの依頼は、点と点が線で繋がってる感じはあるし。
受ける意味はしっかりあると思う。
…態々口に出して言う事でも無いけどさ。
「それにいつしかあいつらから金食いタンクと呼ばれ始めてな」
「まぁ、自分の事しか考えない奴らだろうし…」
俺が会った攻略組はマリーしか居ない訳だが…
まぁ、母数1で実例が1だから自分勝手は間違ってはいないな!
それに、適当に話は合わせておくのが楽そうだし…
しかし金食いタンク、ねぇ…?
装備を見た感じかなりの重装備だし…確かに壁役はやってそうだ。
くすんで輝かないが…金色の光を放つ全身鎧と片手槍、そしてなによりも背負っている大型の盾…
ぶっちゃけ背負ったまま屈めるのか?あれ…?って思う位に大型な木製の盾だな。
「なんと!?奴らの理解が合うとは…!?」
「まぁ、俺も立派な被害者だからな」
「そうだったか…」
そうしてお互いの間に流れる、妙な沈黙。
というかコイツの装備…全体的に重そうだよな。
多分STRとVITはかなり高いのでは無いだろうか?
そうなると、今時珍しい受けに回るタイプの壁役、その完成形って感じだが…
そんな奴が、金くい虫扱い…なのか?
…さっき森で見た攻略組っぽいのにも、両手斧持ちの壁役は居た。
それも受けを重点に置いて立ち回るタイプの奴だ。
だから相手の高い火力を、それより高い防御で凌ぐって方法が死んでいるって訳でもないはずだ。
相手の火力を凌ぎきれずに魔法で攻撃の手数、薬で資金を減らすってんなら金食い虫そのものだがなぁ…
だが装備からはどう見ても、そんな雰囲気は感じ取れない。
いまいち何でそう呼ばれる様になったのか…経緯が分からん…
「とにかく同志よ!余もあそこから抜けてやったのだ!」
「まぁなんだ?災難だったな」
なんて、月並みな感想くらいしか掛けてやれる言葉が無い。
リコリスから聞く限りでも、あのやりたい放題は災害の様なものだしなぁ。
たらればで共感してやるよりも良い慰めになるだろう。
「だが、やはり手っ取り早く強くなる手段が無くてな…」
「手っ取り早く?」
「あぁ、そうだ」
「なんでまた…」
そんな事を…と言おうとしたが、案外俺も人の事が言える立場では無いな。
森の再生を掲げて、今の攻略組よりも十分に強くなるために強い魔物と連日連戦しているし。
別にゲームで強くて悪いなんて、何もないしな。
…いい事もない気がするが。
「決まっているだろう!一番になり輝くためよ!」
「やっぱそれしかないよなぁ」
「やはりそう思うか!」
馬鹿な事を聞いたな~…と思ったその言葉は、奴には共感と取られたようだ。
なんというか、落ち込んでたり喜んだり見ていて忙しい奴だ。
「だからこそ、余は強いと言う話の奴らに師事したのだが…」
「それが間違いだったんだな」
「そうなのだ!やはり余は人の上に立つ存在!
誰かの下につくのは間違いだったのだ!」
「いや、それは知らんが…」
「やはり人を導いてこそ、上に立ってこそ余の本領よ!」
「はぁ…??」
なんだかとてつもなく面倒くさい奴に出会った。
というか今更だが一人称が『余』って、なぁ…?
貴族?王族?殿様?…それとも将軍的なロールプレイか?
「という訳で今新しく!家来一人から余の成り上がりが始まるのだ!」
「お前、一人だろ?他にも居るのか?」
「お主が居るじゃろ」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
お互いの間に流れる微妙な空気。
向こうの空気を読めというオーラが只事じゃない。
言い表すなら『なかまに させたそうなめで こちらを みている』状態だな。
勿論そんなのの答えは『いいえ』だ。
さっさと何処かに行けというオーラで対抗するとしよう。
「なぁ頼む、余の配下になってはくれぬか…?」
「いきなり、なり振り構わなくなったな」
「返答が無いと言う事は…」
「仲間にはなりません!お断りします」
「どうしてだ!」
「だって…なぁ?」
幾ら下っ端で、別れたとは言っても…攻略組に居た奴だろ?
それに、どうにも調子に乗りやすい奴みたいだし…
おだてられたらまたノコノコ戻っていくんじゃないか?
「良し分かった!部下ならどうだ!?」
「嫌だよ、同じじゃねぇか」
「と言うかここは、二人であやつ等を蹴落としてやると誓う『ふらぐ』ではないのか!」
「上下関係を強要してそんなフラグが立つかよ!」
と言うか腹の底でとんでもねぇ事考えてんな、コイツ…
もう少し謙虚なら、リコリスみたいに仲間意識でも芽生えたかもしれないが…
「なぁ頼む!とにかく目立ちたいのだ!」
「それが本音か!」
「あぁそうだ!
仲間を率いて、あらゆる障害と敵を蹴散らして、上を目指す!
目立つことこの上なかろう?」
悪びれもせずに、そんな事を言ってのけるコイツが何故かマリーが重なって見える。
こう、一度決めた事は曲げたくないって言う感じ?とにかくやりたい放題な所?
それで足元を掬われていたら意味ないだろうけど。
で…冷ややかな視線を送りつつそんな事を考えていると、ガッシと両肩を掴まれた。
「この際悪目立ちでも構わん!なぁ?」
「今でも十分に悪目立ちはしてるって、安心しろよ」
「これでは足りん!全く足りんのだ!」
「と言うか、なんで、俺に、そんな事、言うんだよ」
自分で言うのもなんだが、そんな相談に向いている人間では無いと思う。
ってか最近、このパターン多くない?
自分以外に任せた方が…いや、自分以外にやらせても良さげな事をゴリ押ししてくる、この感じ。
時々なんで俺が…なんて思う事も増えてきたしなぁ…
今の今まで、人生でそうは無かったのに。
あと、興奮気味に肩を揺すってくるのが非常に鬱陶しい。
「何でというか、まるで雰囲気が違うからな」
「そんな、抽象的な、事を、言われても、困るな」
「余くらいに見る目のある奴なら、何かしようとしておったのは分かるぞ?」
「…とりあえず、肩を、揺さぶるの、を!やめろ!」
「おっと、すまない」
そう言って奴が手を離し、揺さぶり地獄から抜ける。
「とにかく、今は隠したい…目立ちたくない事をしておるのだろ?
それも、攻略組に一泡吹かせる感じの奴ではないか?」
「…まぁな」
意外に鋭く、ピタリと言い当てるのは何なんだろうな?
エルフとの友好関係と、西の森の再生、俺が強くなる事と、攻略組の邪魔をする事。
確かに今やりたい事全てを達成するには、どうしても今何をしてるかバレる訳にはいかないからな。
特に、エルフの存在をまだ公にするってのは…
攻略組は、理由は知らんがとにかく西の森に住むエルフを探しているからな。
理由は良く分からん、下っ端は下衆な事を考えていたみたいだが…
「だったら一枚噛ませろ!余が代わりに目立ってやろう!
と言うか目立たせろ!な?
お主はその間にコソコソと事を成せば良いのだ!」
「あぁもう、分かったよ!」
なんとなくコイツの事が分かった気がする。
本気で面倒くさい奴だ。
一緒に居ると何を仕出かすか分からないが、見てない所だともっと何を仕出かすか分からない。
結論として、付かず離れずの距離にいた方が良い…
そう思わせて、実は関わった時点で負けなパターンとかそんな感じ。
災害みたいな奴らの被害者が、災害みたいな奴とか…なぁ…
「別にこの件に関して深くは聞かん!
ただ、目立つ奴が欲しいなら余を目立たせてくれれば良いのだ!」
「…言ったな?」
でも確かに、コイツを囮として使うっていうならパッと思いつく物が幾つもある。
それで目立ってくれればやりやすくは…なるな、うん。
とにかく面倒な奴ではあるが、目立てれば文句は無いみたいだし。
「途中で見捨てる事になっても知らんぞ?」
「何を言う、途中までは協力してくれるのだろう?
参謀にお膳立てされれば、後は上手くやってみせるわ!」
「そうかよ」
まぁ、上手く利用させて貰う事にするか。
そう思いながら手を差し出して握手を求めつつ、コイツの頭の上に浮かぶプレイヤー名を確認する。
「じゃあよろしく、ゴルドフ」
「あぁよろしく頼む、…ファルマ?」
そうして握手を交わしたのはいいんだが…
なんでお互いに、今更名前なんて確認してるんだろうな?
しかも向こうに至っては疑問形だし。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない!」
別に名前には何もないんだがな。
スキルで偽造出来るとか聞いたことはあるが習得出来ないし。
そもそもそのスキルの習得条件ってなんだろう、って状態だからな!
「じゃあ、行くか」
まぁ、それはさておき。
いつまでもギルドの入口近くで立ち話をしているのも時間の無駄だ。
何をしてもらうかは歩きながらでもいいだろ。
「で、どこに行くのだ?」
「ん?まずは町長の所だな」
「…何故だ?」
横に並ぶ形でついてくるゴルドフの顔がくっしゃりと疑問形を表す様に歪む。
まぁ、話すきっかけになったアドバイスをガン無視しての行動だからな。
「門前払いをくらうと言っただろう?」
「安心しろって」
ベルトから鞘ごと、装飾懐剣を抜いて見せる。
木製ながら豪華な装飾の鞘を、ゴルドフの目に見せつけてやる為だ。
「入る方法に、アテはある!」
魅せつけ、そう言って、装飾懐剣をベルトに戻す。
…上手く外せたのは良かったが、付け直すのに時間がかかるな。
鞘は極力外さない様にしよう、うん。
「あれ?どうした?」
ちょっと懐剣を付け直すのに手間取っていたら、いつの間にかゴルドフが置いて行っていたようだ。
と言うか立ち止まって…どうしたんだ?
もしかして、装飾が綺麗で感動でもしてるとか?
…いや、それは無いか。
でも流石にこの綺麗な紋様には何かしら言ってもいい様な気がするが…
「待てファルマ!早まるな!
流石に強行突破は不味いぞ!」
な~んて考えていたら、これだ。
一瞬自分の耳を疑ったが…どうにもコイツは俺が町長の屋敷を襲撃すると言う発想に至ったらしい。
いや、この場合は忍び込む…か?
とにかく何故、短剣一本を見せつけてそんな発想に至るのか…
「バカ!今ならまだ間に合う!考え直せ!
余が将として命じる!」
「バカはてめぇだ!んな訳あるか!」
俺はこんなのと上手くやっていけるのだろうか?
ちょっと噛み合わなさすぎるゴルドフとのスタートに、不安がよぎるのだった。




