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さて、そんなこんなで長話が始まったので…
「…貴様!人の話を聞いているのか!」
「九割くらい分かった!」
「残りの一割はどこへ行った!!」
奴が話していた内容は全カットだ。
と言うのも態々言っていた事をようやくするとすごく短くなるからな。
1つ、長老衆は12人で、内一人がこいつの伯父上。
2つ、伯父上とやらから姉ベルトはめっちゃ可愛がられている。
3つ、長老を倒しても『私が倒れても第2、第3の長老が貴様を狙うぞ!』的な事はない。
4つ、世界樹の実は非常に美味しいらしい。
5つ、エルフの里でのお土産にはお茶がオススメらしい。
大体、こんな所だろう。
何処の氏族の何の生まれの誰かって話をされても俺にはさっぱり頭に入って来ない。
精々、良く出来た設定だな~って位だ。
ついでにそんな話しを長々とされたもんだから、HPもMPも全快したしな。
もう休憩時間も十分だ。
「さて、じゃあそろそろ再開と行くか」
「さて、じゃない!分かってるのか貴様!こんな真似をしてどうなるか!」
「まぁ予想はつくけど?」
先程から言ってた、伯父上とかいう面倒な奴を嗾けてくるんだろう事は想像に難くない。
まぁでも、ここで服従か反抗かって聞かれたら…なぁ?
こんなのに下手に出るなんて冗談じゃない。
「とりあえず、ほら」
とにかく、休憩も終わったのでさっさと姉ベルトを開放してやる。
拘束していた縄を解き、回収する。
元々エルフの物だったような気がするが…まぁいいや。
誰も返せとは言ってこないしな。
「なんだ今頃…それで済むとでも…」
「じゃ、言ったとおり魔物を連れて来てくれよ」
「言ったとおり…?」
何か言おうとしてたが、とにかく面倒だったので遮った。
俺はさっさと狩りがしたいんだ。
「さっき言ってたろ?解放したら魔物を連れてきてやるって」
「そんな事…は…」
どうにも長話のせいで忘れかけていたみたいだな。
指摘してやると思い出したみたいだ。
「思い出したらさっさと行くんだな」
「…ふん!」
先程はたどり着けなかった装備の元までたどり着くとさっさと装備を整えた。
途中、元の場所まで連れ戻したエルフはビクビクしながら様子を伺っていたが…
姉ベルトは一瞥するだけで、特に何か言う事は無かった。
「エルフが約束を守る種族で良かったな!」
「何を言う、俺だって約束を守る人間だ」
「ハンッ!どうだか…」
まぁ忘れない限りは、だが…
覚えている限りは誠実な人間だぞ?
…と言いそうになったが言わないでおいた。
ともかく、それだけ言うと彼女は森に消えていく。
なんかこのやり取りに呆気に取られたエルフ達も、彼女について行こうとするが…
「いらん!一人でいい!」
そう言って断ると、一人で探しに行ってしまった。
元々音を立てずに木々の合間を進める種族だからか、木の陰にその姿が見えなくなった瞬間に完全に気配が消え去る。
…帰ったか?
いや、あれだけ言っておいてそれは無いか。
「…いつぶりか、真剣な姉上は」
「そうなのか?」
単純に嫌がらせに全力なだけじゃないか?
とは思ったが、そもそもそれが真剣って事だよな。
と言うか、アルベルトがクソ真面目な顔して何を言うかと思えば…
まるでいつも…いや、適当だったな。
ついさっきも調子に乗って簀巻きされていたばかりじゃないか。
「本当に誰も付いていかなくていいのか?」
「あの状態の姉上ならば問題ないだろう。
逆に私達が足手纏いになりかねん」
「…ふーん」
あいつにそこまでの実力があるとは全く思わないが…
って、逆に…か?
あの適当な性格だから、何かやらかした際に逃げ隠れるのが上手い…的な?
我ながら性悪な発想だ…
でもまぁ、あくまで理由を考えただけだし。
「何はともあれ…ありがとうファルマ」
「ん?」
「我々では、もう姉上にあんな顔をさせる事など出来そうも無かったからな」
「お、おう…」
あんな事をやって、お礼を言われるのはとても良心に来るな。
俺としては、伯父上とかどうでも良いから適当に誤魔化しただけなんだが…
それがなんやかんや、いい方向に噛み合っただけだ。
「出来れば、これからも我々は良い関係で居たいものだな」
「それは俺たち以外の、これから次第だろうけどなぁ」
「…そうだな」
これからも関係が悪化し続けるならば、敵対するしかなくなるだろう。
状況は少数対大多数、一人対それ以外の…いずれにしても劣勢だし。
「そういえば…近くの町を拠点にしていると言ったな?」
「あぁ、そうだが…」
「…あの町の町長は何をしているんだ?」
「…さぁ?」
そういえばゲーム開始から今の今まで、権力者という権力者に会ってきてないな。
唯一、死に戻りで神様…役に会ったくらいか?
冒険者ギルドのギルドマスターとか、実は過去の英雄だった老人とか、遠い王都から来た凄腕の魔道士や騎士団長とか、とにかく頼み事をされて『流石、神に選ばれし云々…』なんて言うテンプレは一切無かった。
と言うかなんで今、町長の話題が出るんだ…?
「あの町とは昔、互いに害さない約束を交わしているはずなのだが…」
「なんだそれ!?」
「やはり知らなかったか…」
「アルベルトは知っていたのか?」
「いや私も知ったのは昨日だ、長老の一人に報告する機会があってな」
「へぇ…」
これは、一気に事態が進展しそうな情報じゃないか?
権力者からの協力が得られるならば、もっと簡単に解決の方法も分かるはずだろうし。
いつまでも一人で採取ポイントの再生を…ってのも厳しいからな。
とにかく、町に戻ってやる事は決まった。
「とにかく戻ったら、町長を訪ねるか」
「それなら、これを持っていくといい」
そう言って手渡されたのは…鞘に収まった一本の短剣。
豪華な装飾からして、戦闘向けではなさそうだが…?
ちょっと、鑑定をしてみる。
・エルフの装飾懐剣 レア度5
カテゴリ:短剣
威力:32(斬性能:80 突性能:100 打性能:0)
耐久:440/440
特殊能力:特定の環境で使用時、静音効果Ⅰ・視認阻害Ⅰ
一部コマンドの効果上昇
エルフの通行証Ⅲ
森に住まう種族、エルフが所持する石や鉄を使わない護身用の剣。
木製とは思えない程に頑丈で、身を守る方に重点をおいて作られている。
一見して豪華な意匠は、エルフの中でも権力のある一族に許された装飾でもある。
持ち主の身分を示すだけで無く、通行証の代わりにもなりそうだ。
うーむ…石のククリナイフよりも強い。
まぁ、あれは間に合わせで作った物だし、比べてもあれか。
しかし、刀身まで木製で石より頑丈ってのは奇妙な感じだ…
「これを見せれば、相手にされないなんて事は無いだろう」
「成る程、助かる」
とにかく、装備しておこう。
鞘に収まっている限りは、刀身も隠れるから唯の短剣に見えるだろ。
それにいざとなったら使う事も出来るし。
なんて、装備した短剣の収まり具合を確かめていると…
「戻ってきた…か?」
アルベルトの耳が魔物の気配を捉えた様だ。
それに合わせて他のエルフ達と合わせて俺も警戒態勢を取ったのだが…
何か、エルフ達の様子がおかしい。
「ファルマ、気をつけろよ」
丁度、俺の索敵出来る範囲に魔物が入ってきた訳だが…
なんかとんでもなく…数が多くないか?
と言うか、迫ってくる魔物の動きで空気が震えてない…?
「早速使う事になるかな…?」
装備したばかりのエルフの懐剣の柄に指で軽く触れる。
最悪、これも投げるしかないよな。
「…壊すなよ?」
「分かってるって!」
と、答えるのと同時に、茂みから姉ベルトが飛び出してきた。
で…そのまま飛び出してきた方向とは逆に駆け抜けていき…
「連れてきてやったぞ!覚悟は良いだろう?」
そう言うなり、再び隠れやがった…!
ついでに返答を待たずに…魔物たちが押し寄せてくる。
…やっぱ最初は蜂がメインか?
そうして救いのスペードを引き抜き、構える。
「勿論だ!やってやるよ!」
ちょっとばかり逃げたい気持ちを抑えつつ、叫ぶ様に言い放つ。
さて、魔物はどれだけいるんだ…?




