58
やっぱ、あれだわ。
人間、調子に乗ると後悔するって本当だな。
ん?俺の事じゃないぞ?
って、あれじゃん…
「は、離せお前ら!何をしているか分かっているのか!?」
「姉さんこそ!何をしたのか分かっていないだろ!」
こいつら、人間じゃなくてエルフだったな。
まぁ、何にせよ馬鹿みたいな事すりゃ後悔するって事だ。
武装を軒並み剥がされて縛り転がされている姉ベルトを見て、つくづくそう思う。
既に、クロウベア達は全滅させた。
長期戦に持ち込めれば確実ではあるのだが…少し焦りすぎたな。
インファイトを少し繰り返しすぎたせいで、HPも6割位まで削れているし、MPに関しては1割しか残っていない。
まぁ、回復もせずにこれだから…前よりは戦いやすくなってはいるんだが…
ちなみにインファイトせざるを得なかった原因は、あそこに転がっているエルフだ。
「私はただ援護してやろうと、だな!」
「ファルマ目掛けて矢を打ち込む事の何処が援護なんだ!?」
「あ、足止めだったんだ!手が滑った!」
「だからって何発も外す訳ないだろ!」
味方の足を止めてどうするんだ?って話だよな。
ちなみに俺めがけて飛んできた矢は、初撃以外は全てアルベルト達が撃ち落としている。
まぁ、万が一にも当たらない様に魔物を盾代わりにしていたけど。
そんな事を矢で矢を打ち落とす曲芸の下でやってるもんだから、消耗しちまった訳だ。
「そもそも援護は要らないと言ったはずだが?」
「なんだその態度は!?仕方なく助けてやったのに!」
…良く、分からんなぁ。
何故、こいつの中ではあれで俺を助けた事になっているのだろう?
善意の皮を被せた悪意が分からないとでも思っているのだろうか?
そもそも最初はこいつの尻拭いをしてやるって話だったのだが…
「あれは援護がいるだろ!!分かったらさっさとこれを解け!」
「解けるわけないだろ!」
「…解いた所で、今度は何をするんだ?」
「私が直々に魔物を連れてきてやる!」
「じゃあ消耗してるから暫く待機で良いな」
このまま連戦ではMPが足りない。
加えて、熊は体術と相性が悪いから使えず…更に魔法抜きだと短剣とダーツだけでやり合う事になる。
流石に、そんなのはしんどい。
と言うかその状況でまた邪魔されたらたまったもんじゃない。
ま、周りで見ていてハラハラする様な動きではあるとは自分でも思うけど。
「あぁ、こっちも少し休憩が欲しかった所だ」
「じゃあ各自、休憩だ!」
「「「了解!」」」
とまぁ何故か俺が指示すると、確かな声で返事が…
冗談のつもりだったんだがなぁ。
どのみちアルベルトが出すから変わらないと思っていただけで…
まぁ、そうして各々地面に座したり、武器の手入れをし始めた訳だ。
勿論そこで転がっている奴はそんな事は出来ないが…
「ふざけるな!だったら解け貴様ら!」
まぁ、芋虫の真似事が面白そうだから放っておこう。
びったんびったんと動く姿は、どちらかと言うと打ち上げられた魚とか尺取虫みたいだがな。
そんな様子を見ながら、くつろいで休憩でもする事にする。
これなら5分もあれば、MPも3~4割は回復するだろう。
やはりと言うかなんと言うか、アイテムに頼らない自然回復についてはそこそこの時間が掛かるのだ。
そうは言っても状態異常なんかでなければ、常に回復し続けてはいるみたいだがな。
戦闘中なんかは、スタミナ以外は意識も出来ない程度の遅さだが…
やはり戦闘でない時の方が回復する速度はあるし、くつろげる状況ならばもっと良いんだろう。
ちなみにログアウト中もちゃっかり自然回復はある。
加えて横になっている体勢が回復速度が速いのもあるのか、小休止後でもログインする頃には、大抵全快してスタートが出来るのだ。
「ぐぬ、ぐぬぬ…!」
「頑張れ、がんばれ」
なんて事を考えながら、必死に姉ベルトがもがく姿をやや遠くから煽る。
回復速度を上げるため、横向きに寝る体勢から手を頭の支えにするポーズで、だ。
ついでにもう片手でぺしぺしと地面を叩いてリズムを取る。
「ほれほれほれ、ファイト、ファイト」
「くそっ!お前…!」
しかし、くつろぐとは言ったが…森の中で地面に寝るのは微妙だな。
煽るのには最適なんだかなぁ…この体勢は。
と…それはさえおいても、やはり森林浴によるリラクゼーション効果とか無駄にしている気がする…
ここはやはりハンモック的な、というかハンモックが欲しい。
帰ったら作るか?紐編んだら作れそうだし。
それを持ってきて使うのも悪くないな。
「く、もう少し!」
気が付いたら姉ベルトがいつの間にか没収した装備の傍まで這っていた。
…腕は身体ごと縛られているのに、一体何をする気なんだ?
それに、言わなきゃバレないものを何でわざわざ…
まぁ、いいか。
しかし、さっきの一声で周りも気が付いたっぽいが、何故こっちを見てるんだ?
もしかして、俺の判断待ちか…?
試しに視線を姉ベルトに向け、装備から遠ざかる方向へ視線を移してみる。
さぁ、やれ!
「よし…って誰だ!やめろぉ!」
「あぁ~、残念だったな~」
もう少しで触れる、と言った所で遠ざかる姉ベルト。
具体的にはエルフの一人が足を持って遠ざけたんだがな。
指示が通じたって事だ。
…流石に顔を地面を擦るのはどうかと思うけど。
やってる奴が楽しそうだし…別にいいか。
「お前ら…!いい加減にしないと伯父上に言いつけるぞ…!」
顔を上げたら見事に土まみれで、おまけに子供みたいな事を言い始めたのだが…
なんだか、その一言で空気が凍った。
それを聞いたエルフ達、とりわけ先程の主犯である女エルフは顔を青くしているのだ。
俺には全く状況が分からないのだが…
「なぁ、アルベルト?」
「…伯父上の事ですか?」
「何かあるのか、その伯父上って?」
「えぇ、まぁ…そうですね…」
どこか迷った様な様子で、歯切れが悪い。
何かを言いたくない様なその素振りは、こちらとしても気になる所だ。
樹魔法の事も気になるが…それと釣り合う程度には…
存在をちらつかせるだけでこうして萎縮する程度の相手だし…
「ふん!何も知らない貴様に教えてやろうじゃないか!」
「姉さん!里の秘密だぞ!」
「うるさいぞアルベルト!この男には心底頭にきてるんだ!」
だからって、誰だか分からん野郎の説明をされても困るんだがな…
あれか?これ以上こんな真似をするなら奴を嗾けるぞ!的な…?
奴は二つ名が特攻野郎、死神とかそんな感じの異名を持っているぞ…的な?
…そんな奴が姉ベルトに従うとは思えんがなぁ。
「いいか!伯父上はな…里の長老衆の一人だ!」
つか、そんなに一緒に居るのが嫌なら来なきゃいいのにな…
そんな事を考える俺の思考は伝わるはずもなく、姉ベルトはベラベラと自慢気にその伯父上について話し始めた。




