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ゲームサイト  作者: M MAN
4/15

隠しページ探し

 時計の針は九時を回っていた。

 窓の外では、たまに車が通り過ぎる音だけが聞こえる。

 浩一は机に肘をつき、液晶画面をぼんやり眺めていた。

 今日の学校も最悪だった。

 みのりとの会話。

 女子たちの視線。


 「また中村?」


 という誰かの声。



 思い出すだけで腹が立つ。

「……クソ。」


 小さく吐き捨てる。

 気持ちは消えない。

 だからパソコンを開いた。

 開けば、学校のことを少しだけ忘れられる。

 検索欄に、昼間見つけたURLを打ち込む。

 


-----------------------------------------------------------------------------------------------

このページを見つけた人へ。

ようこそ。

------------------------------------------------------------------------------------------------

 白い背景。

 黒い文字。

 それだけ。


「何これ。」

 広告でもない。

 ブログでもない。

 なのに閉じる気にならなかった。


 "見つけた人へ"


 その一文だけで、誰かが画面の向こうから笑っている気がした。

 浩一はカーソルを動かす。

 ようこそ。

 クリック。




LEVEL 1


さてと、最初だからおまけしてやるか。


えっ? なめてるって?





「……。」


 浩一は思わず口元を緩めた。

「ちょっとムカつくな。」


 でも、嫌じゃない。

 初対面なのに、妙に距離が近い文章。

 画面の向こうに、本当に人がいるみたいだった。

「じゃあ。」


 "なめてるって?"



 クリック。

 ページが切り替わる。


「……はは。」

 笑ってしまった。


「ほんとにそこかよ。」

 こんなの問題でも何でもない。

 でも、だからこそ面白い。

 このサイトは、

 "答えを当てるゲーム"じゃない。

 "作った人の考えを読むゲーム"なんだ。





LEVEL 2


ここからはレベル1ほど甘くないぜ!


わかるかな?






「来た。」

 浩一は自然と姿勢を正した。

 さっきまでのお遊びは終わりらしい。

 画面には二行だけ。


 クリック。

 違う。


 スクロール。

 何もない。


 右クリック。

 違う。


「んー……。」

 机を指で叩く。

 トントントン。

 何かある。

 絶対にある。

 こんなところで終わるサイトじゃない。

 視線を動かしていると、左手がキーボードに触れた。


 ホームポジション。

 学校で嫌というほど練習した指の位置。

 そのまま何気なく。


 Ctrl。


 そして、


 A。


 画面が一瞬、青く染まる。

「……!」


 白い背景から、隠れていた文字が浮かび上がった。



"レベル3への道はここだ!"




「うわっ!」

 浩一は思わず椅子から腰を浮かせた。


「そういうことか!」

 鳥肌が立つ。

 問題を解いたからじゃない。


 "こんな隠し方がある"という発想に、驚いたのだ。


「すげぇ……。」

 画面を見つめたまま、小さく呟く。


「これ、どうやって作ってるんだ……?」

 ゲームを進めたい気持ちより、その方が気になった。


 どうして文字が隠せるんだ。

 どうして出てきた。

 何を使えばこんなことができる。

 知りたい。

 知りたい。

 知りたい!


 そんな気持ちが、胸の奥から湧き上がる。

 浩一は深呼吸を一つして、隠された文字をクリックした。





LEVEL 3


えっと、レベル3だ。


基本的にレベル2の応用かな?


あ゛、言っちゃった!


まあいいや….






「応用?」

 反射的にCtrl+A。

 何も起きない。



「あれ?」

 もう一度。

 やっぱり違う。


「じゃあ……。」

 文章を読む。



 "応用"


 "言っちゃった"


 "まあいいや…."




 最後の点が、四つ。

 浩一は画面へ顔を近づける。


「……いや。」



 まさか。

 そんな訳ない。

 でも、このサイトなら。

 カーソルを、一番最後の「.」へ。

 カチッ。


 画面が切り替わる。

「……っ!」


 また当たった。

 浩一は思わず笑う。

 こんなに笑ったのは、いつ以来だろう。

 学校じゃない。

 友達でもない。

 ゲームでもない。


 たった一人、名前も知らない管理人と。

 パソコンを通して会話している。


 そんな夜はあっという間に過ぎていった。


 朝。

 浩一はいつもより少し早く学校へ着いた。

 理由は単純だった。

 誰もいない教室で、パソコンの授業の課題を見るため。

 昨日の隠しサイト。

 あれからずっと頭から離れない。

 サイトの構造。

 リンクの置き方。

 文章の見せ方。


 全部が計算されていた。

(作った奴、絶対性格悪い。)


 そう思う。

 でも。


(……俺と似てる。)

 そこが気になった。


 教室に入る。

 数人の男子がいた。


「おはよ。」


 浩一は言う。

 返事はない。

 別に気にしない。

 ……と言いたいところだった。

 でも、一瞬だけ胸に引っかかる。

 浩一は席に座る。

 そして前の席の男子の机を見る。

 ノート。


 ぐちゃぐちゃな字。

 計算ミス。

 浩一は思わず言った。


「それ、間違ってる。」

「え?」


 男子が振り返る。

「ここ。」


 浩一は指を差す。

「式の途中で数字変わってる。」

「……あ、本当だ。」

「普通に考えたら分かるだろ。」


 一瞬。


 空気が止まった。


「……。」

 男子の表情が変わる。


「あー……うん。」

 浩一は気づく。

 言い方が悪かった。

 いつものこと。

 でも、もう遅い。


「別に。」

 浩一は目を逸らす。


「教えただけ。」


 休み時間。

 女子数人が話している。


「中村ってさ。」

 名前が聞こえた。


 浩一は聞いていないふりをする。

「頭いいのにもったいないよね。」

「分かる。」

「普通に喋ればいいのに。」

「でも無理じゃない?」


 笑い声。


 浩一は机の中を整理する。

 聞こえていない。

 そういう顔をする。

 でも。


 手は止まっていた。

 その時。


「浩一。」


 隣から声。

 大翔だった。

 いつもの明るい顔。


「何。」

「いや。」

 大翔は笑う。


「朝から嫌われムーブしてんなって思って。」

「は?」


「いや、褒めてる。」

「褒めてないだろ。」


 浩一は少し睨む。

 大翔は笑った。


「だよな。」

 その笑顔は明るい。


 でも、どこか作っている。

「お前さ。」


 大翔は少し声を落とす。

「言ってること自体は間違ってない時あるんだよ。」

「……。」

「でもさ。」


 少し間。


「相手がどう受け取るかって考えたことある?」

 浩一は答えない。

 分かっている。

 そんなこと。

 何百回も考えた。


 でも。

「じゃあ逆に聞くけど。」


 浩一は言う。

「相手の気持ちを考えて、嘘つく方が正しいのか?」

「……。」

「みんな思ってること隠して、適当に笑ってるじゃん。」


 浩一は教室を見る。

 笑っている人間。


 話を合わせる人間。

「俺は、ただ本当のこと言ってるだけ。」


 大翔は黙る。

 しばらくして。


「……そういうところなんだよな。」

「何が。」

「いや。」


 大翔は笑う。

「何でもない。」


 放課後。

 浩一は一人で帰る。

 夕方の道。

 いつもの長い道。

 歩きながら考える。


 大翔の言葉。

 女子の言葉。

 全部。

 でも、一番頭に残っていたのは。


『頭いいのにもったいない』

 だった。


「……。」


 もったいない。

 その言葉が妙に引っかかった。

 自分に何かある。

 でも、それを使う場所がない。


 学校では嫌われる。

 家では話さない。


 なら。

 どこなら。


 浩一はポケットから鍵を取り出す。

 家まであと少し。

 パソコンが待っている。

 昨日のサイト。

 そして。

 まだ名前もない、自分だけの何か。

 浩一はうれしい気持ちと複雑な気持ちで、道を歩いて行った。





 玄関のドアが開く。


「ただいま。」

 浩一は小さく言う。

 返事はない。

 リビングを見る。

 母親の姿はなかった。

 仕事中だ。

 テーブルの上にはラップのかかった夕飯。


 その横にメモ。


『温めて食べてね』

 短い文字。

 浩一はしばらく眺めた。


「……。」


 ありがとう。

 そう言えばいい。

 たったそれだけ。

 でも言えない。

 別に母親が嫌いなわけではない。

 むしろ逆だった。

 自分が迷惑をかけていることは分かっていた。

 父親と離婚してから。

 家の空気が変わったことも。

 母親が昔より疲れていることも。

 全部、気づいている。

 でも。

 浩一には、それを口にするのが苦手だった。


「大丈夫?」

 と言われても。


「大丈夫。」


 としか答えられない。

 本当は大丈夫じゃなくても。

 夕飯を温める。

 テレビをつける。

 ニュースが流れる。

 その中で、聞き覚えのある単語が耳に入った。

「インターネットを利用した犯罪……」


 浩一の手が止まる。

 画面を見る。

 不正アクセス。

 違法行為。

 パソコンを悪用した事件。

 浩一はリモコンを取ろうとして、やめた。

 頭に浮かんだ人間がいた。

 年上のいとこ。


 昔。

「パソコンは便利なんだぞ」


 そう言って浩一に教えてくれた人。

 コードを書く姿が格好良く見えた。

 自分もこうなりたいと思った。

 でも。


 その人間は間違った方向に進んだ。

 今では家族がその話をすると、空気が重くなる。


 浩一は思う。

(同じ道具なのに。)


 パソコンは悪くない。

 使う人間が決める。

 なら。


(俺は違う使い方をする。)


 そう思った。

 夜。

 母親が帰ってくる。


「浩一、帰ってたんだ。」

「うん。」

「ご飯食べた?」

「食べた。」

「学校は?」

「普通。」


 会話が終わる。


 母親は少しだけ浩一を見る。

「最近、パソコンばっかりじゃない?」


「別に。」

「目悪くなるよ。」

「分かってる。」


 少し強い声になった。

 母親の表情が変わる。

 その瞬間。


 浩一の胸が痛くなる。

(まただ。)


 また余計な言い方をした。

 謝ればいい。

 簡単だ。

 でも。


「ごめん。」

 その言葉は出てこない。


「部屋行く。」

 逃げるようにドアを閉めた。



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