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ゲームサイト  作者: M MAN
5/11

創作の初夜

 浩一は、朝から機嫌が良かった。

 珍しいことだった。


 母親がそれに気づいたくらいには。

「今日、早いね。」


 キッチンから声が飛ぶ。

 浩一は靴紐を結びながら答えた。


「そう?」

「うん。昨日なんかあった?」

「別に。」


 そう言いながら、浩一は笑っていた。

 母親は少し驚いた顔をする。

 浩一が学校の話をしないのはいつものことだった。


 だから理由は聞かなかった。

「忘れ物しないでね。」

「分かってる。」


 浩一は玄関を出る。

 いつもの通学路。

 いつもの景色。

 なのに今日は少し違って見えた。

 頭の中に、昨日からずっと同じ画面が浮かんでいる。

 黒い背景。

 中央のタイトル。

 クリックすると次のページ。

 簡単。


 でも少し意地悪。

 遊んだ人間が、


「え、どこ?」


と言いながら探す。

 その顔を想像すると、自然と口元が緩んだ。


 教室。

 浩一が席に座る。


 誰かが近づいてきた。

「中村。」

「何。」

「昨日のパソコンの課題、どうやった?」


 浩一は相手を見る。

「どこ?」


「ここ。」

 画面を見る。


「そこ押して、文字変えるだけ。」

「いや、分からん。」

「説明読んだ?」

「読んだけど。」

「じゃあ読めばいいじゃん。」


 相手が苦笑する。

「そういうとこだよな。」

「何が。」

「いや。」


 男子は笑って戻っていく。

 浩一は首を傾げた。


 何が悪いのか分からない。

 でも。

 今日は気にしなかった。

 いつもなら、その言葉を何時間も考えていたかもしれない。

 今は違う。

 昨日思いついたものが、それより大きかった。



 休み時間。

 大翔がやってくる。


「珍しいな。」

「何が。」

「朝から機嫌いい。」

「そう?」

「うん。」


 大翔は笑った。

「なんか良いことあった?」


 浩一は少し迷う。

 言ってもいい気はした。

 でも。


「まだ。」

「まだ?」

「完成してから。」


 大翔は少し笑う。

「何か作ってんの?」

「サイト。」

「サイト?」

「ゲームみたいなやつ。」

「へぇ。」


 大翔は少し興味を示した。

「どんな?」


 浩一は少し考える。


 説明しようとすると、逆に難しい。

「……面白いやつ。」

「雑。」

「いいんだよ。」


 浩一は笑った。

「見れば分かる。」




 小刻みにリズムを刻みながら歩いて行く。

 いつも長い帰り道も短く思える。

 周りの目はおかしな人物を見る目だったが浩一は気にしない。

 早歩きで鼻歌を歌っている変な人くらいにしか思われていない。



「ただいま」

 玄関のドアを強く開けた。

 遠くから返事が聞こえたが、浩一は真っ先に部屋へ向かった。


「ちょっと手洗いくらいしなさい!」

 浩一はそのまま部屋のドアを閉めた。

 


「よしよしよし......」

 時刻は4時ピッタリ。

 浩一はパソコンを開いた。


「いよし!」

 満面の笑みでエンターを押してホームへ行く。

 パソコンとにらめっこをして、手を動かし始めた。




 時計の針が十時を過ぎていた。

 浩一の部屋だけが明るい。

 机の上には学校のプリント。

 その横に、開いたノート。

 ノートには意味の分からないくらい細かい文字が並んでいる。


『LEVEL1』

『LEVEL2』

『隠し文字』

『クリック』

『ヒントなし』


 昨日見つけた隠しサイトを思い出しながら書いたものだった。

 浩一は椅子に座り、パソコンを起動する。


 数秒後。

 検索画面。


「ゲームサイト 作成」


 検索。

 出てきたページを見る。


「……。」


 閉じる。

 次。

 閉じる。

 次。

 浩一の眉間に少し皺が寄った。


「違う。」


 別に難しいわけではない。

 説明は理解できる。


 HTML。


 CSS。


 JavaScript。


 それぞれ何をするものかも知っている。

 でも。

 今、自分が作りたいものとは違った。


「ゲームじゃない。」

 小さく呟く。


「ただのページだ。」


 画面に並ぶのは、綺麗なサイトの作り方。

 おしゃれなデザイン。

 見やすい配置。

 そんなものばかり。

 浩一が欲しいものは違う。

 綺麗なだけじゃない。

 開いた瞬間、


「何これ?」

 と思わせるもの。

 少しだけ不親切で。

 少しだけ腹が立って。

 でも、気づいた時に嬉しい。

 そういうもの。

 浩一は新しいタブを開いた。


「HTML ゲーム 作り方」


 検索する。

 コードが並ぶページ。

 読んでいく。

 数分後。

 閉じる。


「……。」


 椅子にもたれる。

 思ったより面倒だった。

 もちろん、諦める気はない。

 ただ。

 自分の頭の中にあるものを、そのまま画面に出すには時間がかかる。

 そこが少し気に入らなかった。


「なんで。」


 独り言。


「こんなの作れるようになってないんだよ。」


 誰かへの文句ではない。

 ただの不満だった。

 自分がもっと早く作れればいい。

 そう思った。

 しばらくして。


 浩一は別のページを開いた。


「無料ホームページ作成」


 いくつか見る。

 そして。

 一つの名前で指が止まった。


「Googleサイト……。」

 クリックする。

 説明を見る。

 ページを作れる。

 画像を置ける。

 文字を入力できる。

 公開できる。

 コードを書く必要はない。


「……。」


 浩一は少し考えた。

 本来なら。

 全部自分でコードを書きたかった。

 その方がかっこいい。

 その方が「作った」と言える気がした。

 でも。

 今必要なのはそこじゃない。

 見せること。

 遊ばせること。

 驚かせること。


 なら。


「使えるものは使うか。」

 そう呟いた。

 少し悔しそうな顔をした。

 でも次の瞬間には、もうクリックしていた。


 新規作成。

 真っ白なページ。

 何もない。


 浩一は画面を見る。

 普通なら。

 ここで何を書けばいいか迷う。

 でも浩一は違った。

 頭の中には、もう形があった。


「最初は……。」

 マウスを動かす。


 タイトル。

 位置。

 大きさ。

 背景。

 一つずつ試していく。


「いや。」

 文字を戻す。


「これじゃ普通すぎる。」

 また変える。


「こっち。」

 少し離れて画面を見る。


 数秒。


「……悪くない。」


 誰も見ていない。

 褒める人もいない。

 でも浩一は楽しそうだった。

 学校では見せない顔。

 集中している時だけ出る顔。

 画面の中には、まだ何もない。

 ただの白いページ。

 それでも。

 浩一にとっては、初めて自分の世界を置く場所だった。

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