#431
飛び出し、敵集団のど真ん中に着地をしたスフェーンの操縦するオートマトンは言う。
「α-2?」
『問題ない。いつでも』
そして着地をした直後に持っていた127mmキャニスター弾を発射し、トラックの荷台の23mm連装機関銃を穴だらけにすると、直後にオートマトンは急接近した事で測距が無駄になった事で持っていた30mm自動小銃を発射。
『何だよ!?コイツ?!』
『近すぎるぞ!距離を取れ!』
無線で混乱している様を確認でき、すると上空からカンカンと音を立てて小銃弾が降り注ぐ。
『何だ?!』
『馬鹿!』
それは上空を旋回していた軍用ドローンの6.5mm機関銃であり、曳光弾を使わずとも熱源探知と赤外線センサーで弾道計算をしたルシエルが発砲していた。
上空からの射撃に驚いた上に注意が行ったそのオートマトンは直後に上半身がごっそりと持って行かれた。
『命中』
すると丘の裾野から膝立ちで両手で37mm電磁加速砲を握って発射したサダミが言う。長銃身で貫通力のあるそれを持ち、背中のバックパックには予備の30mm狙撃銃が握られていた。
「お見事」
スフェーンは相変わらずだと感心すると、ふと視線を破壊されていない残りの車両を見つめる。
「トラックとオートマトン二台ね…」
即座に持っていた30mm自動小銃でオートマトンに向けて銃弾を叩きつける。火薬の爆発と、電磁加速のブーストを受けた銃弾は高反動で両手を使って押さえ込むことができる。
「んん〜、邪魔!」
コックピットでスフェーンは頭の帽子が妙にカンカンと色々と当たるのでいい加減邪魔に思えて仕方がなかった。
そしてオートマトンの一台に複数の貫通痕を確認してから巡航モードに切り替えて至近距離で肩に装備した120mm無反動砲を発射すると、胴体に砲弾が突き刺さって過貫通を起こして下の地面に砲弾が命中する。
『うがっ!?』
そして残った一台を処理しようとした時、再び轟音が轟いて一瞬の閃光がオートマトンの胴体を側面から貫通すると、そのままエーテルを漏らしながら前のめりに倒れた。
「おぉ〜」
『ちょいと無駄弾撃ちすぎじゃない?』
「んなわけ」
そう言って彼女は自動小銃の残弾を確認する。腕から伸びているリンクレス給弾用のベルトは腕に外付けの弾倉と繋がっていた。
確認をしてみると、大体二〇発ほど発射していた。
「まあ…あとで補給すれば良いでしょ」
『その前に補給用に弾切れしなければ良いけどね』
サダミはそう言うと荒野を逃げるトラックに照準を合わせると、操縦桿の赤いボタンを押した。
ッ!!
音速の何十倍と言う速度で発射された弾頭はほぼ直線でトラックを真後ろから貫通すると引き裂いた金属片を搭乗者達に散らばらせ、衝撃波で確実に中まで破壊した後、エンジンまで綺麗に貫通してから空間エーテルに引火して爆発した。
「あーあー、引火してるわよ」
『あれ以上被害が大きくなることもない。さ、帰ろうか』
簡単にオートマトン三台とトラック二台を破壊し、二人は何事もなかったかのように荒野を後にする。
残されているのは焦げ目の付いた一部が欠けているオートマトンやトラックだったもの。新月の夜であっても、漏れ出たエーテルはその残骸をもの寂しげに照らしていた。
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「失敗したか」
そしてその報告を受けたとある人物は分かっていた様子でため息をついた。
「流石に向こうも優秀な人材を揃えているようだ」
「用意したオートマトンと武装トラックはことごとく返り討ちに合いました」
「まあ良い。おかげで向こうに以下はどの戦力があるのかはおおよそ把握した」
報告を聞き、彼らはやり取りを重ねる。
「どう致しますか?」
「賢人の警備は厳重です。先の部隊もオートマトン二台で迎撃されました」
「オートマトンでか。…傭兵がいるか」
すぐにその人物はオートマトンを積極的な兵器として用いていることに傭兵がいると察した少なくとも軍隊でそんなオートマトンの使い方をしているパイロットは見た事がない。
「構わん。予定通りに作戦を実行しろ」
「了解しました」
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「…」
その時、スマートフォンを見ていたジョンはその内容を見て少し鋭い視線を見せた。
『御当主様』
その時、客室の外で執事が呼びかけたきたのですぐに反応をしてスマートフォンをポケットにしまった。
「間も無く飯豊様方がお戻りになられます」
「ああ、すぐに行こう」
そして部屋の扉を開ける。彼とユウナの宿泊する部屋は二階建て客車を丸々一両使った特別車で、天井に張られたガラスは天然のプラネタリウムを映し出す事ができた。
かつて『少しくらい貴族らしさを出さねばいけませんよ?』と自慢の教え子に言われて、そう言ったセンスがあるスフェーンに頼んで提案をしてもらったものだが、意外にもいいものが出来上がったと思った。少なくとも通常の移動では手持ち無沙汰になりかねない規模だったが、また一気に貴族らしくなったと言うべきだろう。
「それで、敵の方は?」
「間も無く、国連軍が戦闘地域に到着をいたします。既にこちらより、事情説明は済ませました」
「ん、では二人の帰りを待つだけで良いな」
執事とそう話して彼は頷く。長年ジョンに付き従う初老の男であるが、年齢で言えばそれよりも若く見えるジョンの方が二〇〇年ほど年上であり、知らない人が見れば脳が理解できなくなる容姿をしている。
「列車の方は?」
「運行に支障はございません。予定通りの運行が可能です」
列車は現在、閉塞内で低速運転を行なっていた。
新しい閉塞区間で二人を回収予定であったので、既に一号車の格納庫ではクレーンが突き出されていた。
すると防砂林や緑化を目的に植えられていた人工林と線路の間を二台のオートマトンが巡航モードで通り過ぎて、列車側とシステムリンクを行って自動的にオートマオンの回収が行われる。
伸びたクレーンの先でピッタリと横付けされたオートマトンはそのまま接続を行うと、吊り上げられて格納庫内に収められる。目立った傷は見当たらず、二人の腕前から無傷で対応できたのだろう。
一台ずつ収容されると、格納庫の防護シャッターが降りて列車はすぐに速度を上げて単線区間を走っていく。
「おかえり」
「ええ、ただいま」
嫌味たっぷりな声色でコックピットから降りてきたスフェーンにジョンは首を傾げた。はて、何か悪いことをしたのかと今までの行動を振り返る。しかし思い当たる節がなかったので疑問に感じて質問をする。
「随分と機嫌が悪いような気がするんだが、何故だい?」
するとスフェーンは即答した。
「制服まじ動きづらい」
「ああ…」
すぐに彼は理解できた。彼女達にナッパ服で招待客と出くわすのは不味いのではないかと言う個人的な感覚から渡した制服。昔の騎兵が纏っていたと言う軍服に参考に依頼してみたのだが、思いの外不評な様子であった。
「おかしいな。騎兵用の服だから動きやすいと聞いていたのだが…」
「どう考えたって騎兵と機関車の運転士じゃあ違うでしょ」
彼女の脳裏にはバイクや電動一輪車などに跨った今の騎兵が過ったが、文脈と肋骨服の歴史的に馬に跨った昔ながらの騎兵の方であると理解して突っ込んだ。
「そうか。だが今回は我慢してくれ。招待客からはお褒めの言葉もあったぞ」
「嬉しくないお言葉だよ」
地団駄を踏んで彼女は格納庫で叫ぶと、直後にハッとなって乗っていたオートマンを見る。
「補給かね?」
「ええ、生憎ここには自動補給装置なんて無いですからね」
彼女はそう言うと今し方使った30mm弾薬の装填作業を手で行い始める。
「そっち持って」
「はいはい」
格納庫には弾薬箱が用意され、サダミが反応をして弾薬箱と弾倉を連結すると、ハンドルを回して弾薬の装填を始めた。
「怪我だけはよしてくれよ?」
「大丈夫よ。おやすみ」
ジョンに軽く返事をしてスフェーンは戦闘で使った砲弾の補給なども始めた。スフェーンの機関を確認した彼はそのまま来た道を戻って格納庫、侍従達用の二階建て客室二両、侍従用食堂車を抜け、専用特別車、招待客用の食堂車、来客用コンパートメント客車二両、応接用コンパートメント客車、展望車と一〇両編成の列車を全て軽く見通してから事実に戻る。
「終わった?」
「ああ、スフェノス達が片付けてくれた」
ユウナが聞いてきたのでそう返すと、飲み掛けだったウイスキーの入ったグラスを傾ける。
「他にやることもない。まあ、強いて言うなら明日に国連軍の方から事情聴取がされるかもしれんというところだろう」
「わあ、なんて面倒ごとの予感」
ユウナは今までの経験から苦笑気味に表情を引き攣らせる。
「まあ安心すると良い。国連軍の中にも友人はいるし、元は古巣だぞ?」
「そう言うと、台詞だけなら悪役にしか聞こえないわ」
長い間付き合い親しんだ彼女はそう言い、空になったグラスを片付ける。彼女は自分と同じく人の道を外れる片棒を担いだ。
「心外だな。私は科学者だ。科学者の本命は技術を発展させることで、生活をより便利にする事。発明家と違って己が良いと思った行動を取るまでだ」
「『銃が悪いのではなく、使う人間が悪いのだ』って事ね」
「ミハイル・カラシニコフか…」
人類史上最も人を殺してきたとされる武器の開発者。例えにしてはタチが悪いなと一言言った上で、全ての人間にとって善意となる行動というのは存在しないということは歴史を見れば一目瞭然であるとふと逡巡する。
「まあ、あながち間違いではないだろうな」
「エーテル・ボンバも、加圧型エーテル機関も、不老者も、どれも社会の発展には寄与したんじゃない?」
「ああ、これは私なりの言い訳でもあるさ」
彼は自分の過去の行いを皮肉るように漏らす。
「少なくとも、私はやりたいように今を生きているつもりだ」
「研究は飽きたの?」
「飽きたわけではない。ただ、これ以上進む事はないだろう」
そこで彼の脳裏には、初めてエーテル・ボンバが炸裂した時のあの光が過ぎる。あれはなんと評すれば良いか…子供の頃に親に叱られるようなことをした時のような感覚というべきだろうか。悪いとわかっていても好奇心が勝り、行動に出てしまった。
「私は、まだまだ子供であり続けたいものだな」
「子どもの定義にもよる気がするわね。それは」
ベッドで横になって二人はそんな事を話していた。




