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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
付属編成 二両目

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432/437

#432

初夜にして早速襲撃を受けた事で数名の招待客は帰宅したいと要請があった。


「まあ流石に命は惜しいわ」

「どうせなら全員帰って欲しいものだね」


駅に到着し、そこで荷物をまとめて下車をする数名の招待客達。昨夜の襲撃は慣れないものからすれば顔面蒼白ものであるだろう。


「あの人達は野盗を知らないわけか…」

「都市からあんまりこういう危ない場所を走んないんじゃない?」

「なるほど」


サダミは数回頷いて理解して、降りて行く招待客達を見る。此処までまともな駅に到着をしたわけでは無いので、降りて行く乗客達はやや憔悴した顔色を見せていた。

運転室の窓を開けると、高山地帯特有の爽やかで冷たい風がエーテル機関の熱発で温まった運転室を心地よく冷やしてくれる。


「あぁ〜」

「いい風。体が冷まされる」


そう言い、尻尾をゆらゆらとさせるサダミ。黒猫の耳を持つ彼女は、スフェーンの手で艶のある美しい短髪の髪を揺らしている。

一戦をやった後とは思えないほど疲労の顔を見せておらず、二人はしばらくこの駅で停車をし、その間にジョン達は招待客を近くの彼のお気に入りのレストランに向かわせる。荷物を持っていないのはここで帰らない人達である。まあ主にこう言ったことに手慣れた貴族が多いが…。

基本的に国の行政権を代行する領地持ちの貴族はその土地に配備される郷土防衛隊の指揮官ともなるので、鉄火場経験は豊富であった。


「んで、しばらくこっちはここで停車ですか」

「完全に旅客駅ですけど?」


そこで高床式のプラットホームに停車中の現状に疑問を覚える。少なくともこのローカル駅は複線のホームで、待避線や通過線などは存在しない。

山を半分から抜いて作られた駅であり、反対を見ると二階建て煉瓦造りの駅舎と舗装された道路をたまに自動車が走っていた。


「他の列車が来る予定もないんじゃない?」


駅設置の時刻表を見てみると、一日に三本あればいい方な雰囲気のあるこの駅。


『ここは臨時駅で、今回利用するホテルが資金提供を行なった駅のようです』

「ああ、なるほど」

「じゃあ、しばらくはゆっくり出来るかな?」


元々ここは高山地帯を走る単線区間であり、優美な湖を一望できる景色がそこにはある。ここの地方ではかなり裏名物的な場所で、付近には貴族が保有する別荘があり、保養地としての機能を有していた。


「基本的に普通の列車はこの先のターミナル駅で乗り換えをするようですね」

「まあ、メインはそっちでしょうしね」


スフェーンはそう言い、煙草に火をつけて駅からでもうっすらと見える湖を見る。ここの水は山間にできた氷河が溶けて流れた水が溜まっており、テラフォーミング後からある湖であった。


「なるほど、山の上でエーテルもそれほど濃くないって事ね」

「代わりに湖上には夜でも煌めくほどエーテルが溜まっているから、除染作業が欠かせないらしい」


基本的にエーテルは水と同様に流動性を持った物質であり、言ってしまえば川の流れと同等に流れ着く。常に宇宙(そら)からエーテルが降り注ぐこのトラオムの世界では常識である。そしてエーテルは水との相性が悪く、混ざり合う事は一切ない。水と油以上に親和性はなく、幾度となく研究が行われてきたが、いまだにエーテルが有機物以外と混合をした例は確認されていない。


「まあ、今時滞留してるエーテルすら回収対象だものね」

「スポンジに吸着させるあれか」


そこでサダミも脳裏に回収作業の特集を組んでいた番組を思い出す。基本的にテレビと言っても動画配信サイトが運営している放送局の電波のため、切り替えれば昔のアニメなんかも見る事ができた。


「昔、採掘基地が島ごと吹っ飛んだ影響であんまり掘らなくなったって話だからね」

「そりゃそうだ。国連が研究以外で立ち入り禁止に指定した禁足地だぞ」


そこでサダミの脳裏には後に災禍時代の終焉とされたイデオン島にあったエーテル備蓄基地漏洩事故。島にあった山が吹っ飛んだ事で、住人は全員死亡。備蓄されていたエーテルの異常活性化反応による暴走は、再びこの世界をエーテルの殻で覆った。吹き上がったエーテルはカーマンラインを超え、宇宙空間に流れ着いた。それらは再び星の重力に引かれて落下を始めた。それが今のトラオムである。


「採掘するよりも降ってくるエーテルを回収する方が安上がりだ」

「どの国も国策で奨励している時点でね…」


市街地などに主に植えられるエーテル耐性を持った街路樹は生物濃縮の様相で葉から吸収したエーテルを木の実に集約させる。そして熟した頃に落とす実の中にはエーテルがチャプチャプと音を立てて溜まっている。そしてそれを貧困街の住人やホームレスなどは生活の足しにするために片端から拾い集めてリサイクルセンターに持って行く。それが今の社会であった。


『スフェーン、侍従に休息が出ました。ローテーションが配布されました』

「了解」


するとルシエルが届いたメールを読み上げてくれた。添付されたデータを見ると、スフェーン達は暫くここで


「どうする?」

「もちろんやる事は一つよ」


サダミの質問に彼女はエーテル機関を停止させて運転室の扉を開けた。




停車した駅の近くにはそうした観光地にありそうな土産物や名物料理を振る舞う店は存在しない。なぜならここは貴族が使用することの多い駅であり、また駅を使ったホテルというのも会員制のホテルである。


「ありがとうございました」


駅の改札を出ると、運輸ギルドの会員証を前に駅員が横で気付いて言った。ここは駅員が常駐したている様だった。まあ駅舎の規模的にも駅員がいて分かる大きさではあった。

私服に着替え、街に繰り出したスフェーン達。肋骨服にシャコー帽という堅苦しい制服からの解放は一種の麻薬の様な開放感を覚える。


「んん〜、空気がいささか爽やかね」

「山の上だから?」

「さあ?」


二人は駅前のロータリーに立つと、予めタクシーの配車を希望していたので無人タクシーが待機していた。そしてタクシーの初乗り価格を見てサダミは顔が引き攣る。


「観光地価格で値段が跳ね上がりそうだ」

「まあこの際、ケチったらメシなしよ」

「それは勘弁」


そう話しながらタクシーに乗り込む。駅に停車中の間、交代で従者達は列車の護衛を行う。停車中に昨晩の襲撃者の仲間が爆弾の設置などをさせない様にするためであった。

ただ駅は山の斜面をくり抜かれて作られており、島式ホームのため列車はコンクリートの壁とホームに挟まれて爆弾を設置できるための空間はかなり限られている。


「爆弾を付けるなら機関車か…」

「あるいはジョン達の客車じゃない?少なくとも昨日の襲撃で人員輸送をしていたトラックは無かった」


無人タクシーの中、二人は話す。それは昨晩の襲撃の時の小部隊の編成であった。


「オートマトン三台とトラック二台。トラックは武装トラックで中に人がいなかった」

「人質を取るにしては中に入る人間がおらず、殺害にしては人数が少ない」

「まず間違いなく囮ね」

「なら見ていたのは列車の戦力か」


長年の経験が二人に共通の考えを齎す。昨晩の襲撃というのは余りにも襲撃にしてはお粗末が過ぎていた。電波妨害も電磁パルス攻撃もしない列車襲撃、しかも相手は添乗員全員が武装している様な列車である。

ドローンもコチラから通知をして迎撃が始まっており、相手は素人であると理解できた。


「少なくとも電磁パルスで落とさないという事は、その可能際が高いわけか…」

「何度か襲いにくるでしょうで」

「じゃあなんでそれを承知でこの旅程を続行するのか…」


あの一千年を生きた賢人であるならば、あの襲撃の意味を誤解する事はないだろうが…。それでも彼の性格からは少し予想外な行動であった。


「ねぇ、ちょっと嫌な予感がしたな」

「奇遇だな。私もだ」


その時、二人の脳裏にはジョンの思惑が浮かんだ気がした。少なくともまともな人間ではないと自他共に認めている彼は、教え子が用意した研究所のお飾りの所長となってから久しい。少なくとも常人では脳が焼き切れてしまいそうなほどの長い間を生きてきた彼は、人一倍血の匂いと言うものに敏感になっていた。


「…どうする?」

「どうも無いでしょう。依頼の通りに迎撃をするまで」


スフェーンの懸念にサダミは即答すると、タクシーは保養地の中にある市場に到着をする。


「流石に高級車ばかりね」

「ブランド品の店もある」


一見するとアウトレットの様な雰囲気すらある街並みだが、売られている商品を見ると、思わず『桁間違えてんじゃ無いの?』と言いたくなる様な品物ばかりが揃えられている。


「少なくとも響達には買ってあげられんな…」

「やめとき。今財布きついんだから」


子供達に土産をと思ったが、これでは到底勿体無いと感じて二人はそんな雰囲気のある木造造りの商店街を歩く。煉瓦が敷き詰められ、植物や装飾のされた街灯が街を絵本の中の世界のような雰囲気にさせる。


「しかしいい景色な事で」

「少なくとも飯は楽しくなるに違いない」


サダミもスフェーンと同様に美味いビールと料理がありそうな雰囲気に心が少し躍る。

長い事スフェーンと居るが、彼女はそう言う教育を受けてきたので舌がとても肥えている。しかも彼女は『不味い』と思わせるハズレの店を引くことは無い。少なくとも彼女が選んだ店で外れたことは無い。


逆に私が選ぶと大抵ハズレを引く。やれ注文したら料理が一向に出なかったり、間違った料理が来たり、思ってたより美味しいと思えなかったり…。少し自信を無くすくらいそう言う運は無かった。まあ、だからそこ確実だから自分で料理を始めたのだが…。


「どの店がいいと思う?」

「うーん、そうね〜」


聞かれて、軽く通りを見回してから彼女はある店を適当に選んだ。


「じゃあ此処にしましょう」

「チーズ屋か…」


看板を見てサダミはチーズ製造業者直営のレストランの看板を見上げる。


「…財布、大丈夫かな」

「安心しなさい。一応カード持ってきたから」


そして少しここら辺の物価を考えて不安になったサダミの背中を押す様にスフェーンは店の中に入ったので、彼女もそれに続いた。

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