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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
付属編成 二両目

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430/435

#430

ジョンから提示された金額のうち、半額はすでに前金として振り込まれていた。残りは仕事完了の後に支払われる。少なくとも相場以上の金額を提示され、ほぼ二つ返事に近い形で答えてしまったわけだが…。


「…全然襲いに来ないわね」


やや肩透かしを食らったような気分でスフェーンが言うと、隣でサダミが言う。


「やめて?それ君が言うと大体フラグになるから」

「悪いって…」


マジな口調で言った彼女にスフェーンも今までの経験からすぐに謝罪をする。言霊とかいう、言葉全てには魂が乗っているとか何とか言う伝承すら彷彿とさせてしまう彼女のフラグ建築能力は、もはや一級建築士の免許でも取れそうな勢いであった。


「ドローンは?」

『現在、異常はありません』

『周辺の空間エーテル濃度三三%。異能発動可能範囲です』

「んじゃ、異能発動を探知したら防護よろしく」


ルシエルとシエロの報告にスフェーンが答えると、依頼主から提供された制服を着る二人は途端に煙草を欲しがる。


「禁煙何時間目?」

「…多分一〇時間くらい」


するとシエロがご親切に答えてくれた。


『最後にお二人が喫煙をおこなってから一〇時間五分二〇秒が経過いたしました』

「へいへい。どうせ期待したって失敗するわよ」


回線を開きっぱなしにしている四人はそんな会話が脳裏に響くように続けられる。


『もう諦めましたよ』

『はい。今までの結果から、お二人の禁煙成功の最長期間は二日程度でしたからね』


呆れたように二人はジト目でスフェーン達に嫌味混じりで話す。

現在は時刻も時刻で、車内の招待客達も必要な着替えやシャワーも終えてね始める時間帯である。一部の猛者はこの時間に仕事をしているとか言う話もあり、実際に部屋に用意された監視カメラの映像は運転士であるスフェーン達にも届けられていた。


「この時間も寝ないで仕事なんて猛者ね」

「私達、ほぼ寝れない仕事では?」


サダミはそう聞きながらスフェーンをみると、彼女は計器を見ながらやや適当な様子で答える。


「そもそも睡眠を必要としない体なんですけど?」


臨界エーテルを核にエーテルで形作られている今の体は、本来人間に必要な行為を必要としていなかった。


「それはまぁ…」

『スフェーン、それは言ったらお終いかと』

「あら、でもセロトニンを自発的に分泌させれば擬似的な睡眠は可能よ?」

「それはそれでどうなの…?」


今までの歴史で経験したスフェーンの独特な睡眠方法に苦笑するサダミ。少なくとも健康的な寝方かと問われたら首を横に振る。


「しかし…」


スフェーンは睡眠に関する話をすると色々なところから突っ込まれかけないので、窓の外を見て話題を切り替えた。


「なんか妙に明るくね?」


外の防砂林を見てふと違和感を覚えた。今日は新月であるにもかかわらず、薄ぼんやりと防砂林の木々が垣間見えた。するとそんな景色を見ながらサダミが一言。


「それだけ空間エーテル濃度が高い証拠でしょ」

「こっわ」


エーテルは活性化エーテルとなれば、それ単体に光を伴い始める。臨界エーテルのような目を瞑りたくなるような光り方はしないが、イメージをするならブラックライトを当てた蛍石くらいの明るさだろうか。そのくらいの灯火を伴っている。


「え?ここ活性化エーテルしか無いん?」

『付近のエーテル濃度の上昇を確認。まもなく重火器使用限界値に達します』

「嘘…」


そして活性化エーテルの危険なところは銃火器などの発砲によって爆発反応を行う事だ。大災害や漏洩事故の時のような爆発的な反応にならないことは後々の調査で判明しているが、少なくともここで引火したらみんなまとめてあの世行きである。


「これ以上濃くなったら銃も使えなくなりそうね」

「そんな場所で育っている植物ですかい…」

「まず間違いなく、エーテル植物でしょうね」


樹木を見てそんな事を話していると、列車は分岐点を通過して単線区間に向かう接続線の前で停車する。


「思ったより早く北部管区路線に入れそうね」

「しかし、このままだとしばらく信号待ちになるわよ」


時刻を見て、スジよりも早く分岐点に到着した事に安堵と些かの不安を覚える。列車の襲撃のタイミングとして最も危険なのは走り出しと停車をする時。鉄道車両は長ければ長いほど重く、重いとそれだけ速度が乗るまでに時間がかかってしまう。停車をするときもそうであるが、襲撃を受けた際はそのまま加速して逃げると言う選択肢がまだあった。


「完全停車は襲われるわよ」

「大丈夫よ。まだドローンは撃ち落とされていないし…」


スフェーンがそう言った時、ルシエルから連絡が入る。


『エーテル機関の始動を探知。方位二四〇、距離約三〇〇〇』

「…」

『発砲確認』


その直後、列車に装備されたアクティブ防護システムが発射され、オートマトンが発射した105mm無反動砲弾を迎撃する。


「言わんこっちゃない」

「これ私の責任になるの?!」


呆れるサダミに反論をすると、すぐに二人は動く。


「数は?」

『オートマトンやトラックが五台。警告文を発しましたが、対空射撃を確認』

「最初に砲撃で勢いを潰そう」


サダミはそう言うと列車の警報を鳴らして先頭の装甲車の操作をすると、車内に居たロボットをシエロが操作して砲弾を装填する。昔から行われてきた擬似的な無人化であった。周りは空間エーテル濃度が高く発砲は少々危険ではあったが、先に向こうが撃ってきたのでこちらも返さねば無作法というもの。


対戦車榴弾(HEAT弾)、装填完了』

「発射」


直後、引き金を引かれて発射された砲弾は低い放物線を描きながら荒野に着弾する。


『撃ってきた!』


発射された榴弾の爆発は走行中のオートマトンの外装を凹ませ、破裂した破片が容赦なく関節に突き刺さる。


『散会しろ。すでに気づいている!』


全周波数帯による無線探知を行い、一瞬でアルゴリズムを解読して傍受を始めるルシエル。その情報はすぐに三人にも共有される。


「何だ!?」

「敵襲です。お部屋の鍵は必ずお閉めになり、ドアロックをお忘れ無く。五回ノックされない場合以外は開けないようにしてください」


最初の装甲車の砲撃は衝撃波となって車体を揺らした。車内の寝台で睡眠をとっていた数名の招待客が驚いてドアを開けたが、すぐにベルボーイによって先手と注意喚起を受けていた。


「襲撃者は?」

「トラック二台とオートマトンが三台。いずれも接近中」

「統制射撃用意」


そこで武器庫から13.2mm機関銃を取り出して、客車のデッキに設置をすると、連装30mmガトリング銃の轟音が響き、客車を振動させる。


「おーおー、流石に気が早い」

「初手で大砲撃っての目覚ましだ。やり方が豪快よ」


従者達はそう言い密閉されていた客車の窓を開けると、襲撃に来た部隊に攻撃を始める。


『周辺はエーテル濃度が濃くなっている。誘爆に留意せよ』

「分かってますよ」


骨伝導のイヤホンで注意事項を聞くと、銃身を突き出して機関銃の引き金を引く。


「あーあ、異能が使えたら良いのに」

「馬鹿、この場で撃ったら活性化エーテルに引火して自爆するだけだ」


メイドのぼやきにベルボーイはそう返してからバースト射撃をする。

既に襲撃の一報が届いているはずで、向こうはお粗末にも電波妨害や電磁パルス攻撃すらして来ていない。なのですぐに国連軍のジャイロダインが飛んでくるだろう。


「こりゃカモ撃ちだな」

「だったら当てなさいよ」


ベルボーイにメイドが呆れた様子でため息を漏らすと、新しい弾薬箱を隣に用意する。ベルとリンクされたケースレス弾は発射されると銃身に巻き付いたコイルによって更に加速され、凄まじいは火力を伴ってトラック前面に溶接された装甲板を貫通する。


「チッ、流石に装甲化しているわな」


最低限の視界確保用の細い穴以外に空いていない事に軽く舌打ちをしてカバーを開けて新しい弾薬箱を装填する。


「野盗かテロリストか…」

「あとで捕まえればいい。そしたら嫌でも分かるぞ」


そう返すと、コッキングレバーを引いて薬室に装填をしてから再度発砲をする。すると無線が新たに入る。


『今からオートマトン出すから、誤射しないでね』

「了解」


すぐにその意味を理解して無線を切ると、聞いていたメイドが苦笑する。

少なくとも何度もその実戦を見てきた彼らは元従軍兵士としての根幹的な恐怖が蘇った。


「怖いわね」

「今回の運転士は指折りのオートマトン乗りだ。相手もご愁傷様よ」


二人はそう言っていると先頭の一号車の防護シャッターが開けられる。


「システム、オールグリーン」

『火器管制、レーダー、センサー異常なし』

「視界良好。接続問題なし」


オートマトンのコックピットでスフェーンは手慣れた操作でシートベルトをしながらスイッチやボタンを押していく。


「コールサインどうする?」

『必要ないでしょ。…まあ、簡単にα-1、α-2で良いんじゃない?』

「了解」


オートマトンに乗り込んで二人は射撃を行っている列車の状況を見る。


『ハンガー回転。固定ロック解除』


シャッターが開けられると同時に二台のオートマトンは回転をすると、直後に安全の為の拘束具が外される。


「よーし、久々に行きますか」

『了解』


軍艦色で塗られ、機体番号のみがプリントされた二台のオートマトンが荒野に降りると、信号が切り替わって自動的に列車は加速を始める。


『列車を安全な場所まで退避させます』

「ん、次の閉塞で待ち合わせね」

『了解しました』


列車の運行システムをルシエルに付与し、戦場となった荒野を抜けるために走り出す。無論、走り出した列車に気が付いて襲撃者達は追撃を始めようとする。


「足止めにする?殲滅する?」


そして残る二台のオートマトンの片割れが質問をすると、肩に短砲身の120mm無反動砲を装備した支援型のオートマトンのパイロットがは答える。


『無駄弾は撃ちたくないから殲滅で』

「りょうか〜い」


返事を聞き、ニヤッと好戦的に口角が上がったもう片方はリミッターを解除して一気にスラスターを全開にして飛び出す。


「よっと」


巡航モードにスラスター全開で砂丘を飛び出すと、軽く飛翔して敵のど真ん中に着地した。

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