#273
タラコマの郊外の車両工場に一人で作業をするみくりは、スフェーンの持ち込んだ貨物列車の機関部に触れて目を閉じる。
「…」
そして何かを感じ取ったかのように触れていた手を離すと、そこでクレーンをつなげて武装区画の武器を引き抜いていると、
「大丈夫?」
先ほど外に出て行っていたスフェーンが戻ってきた。
彼女はみくりの行っているオーバーホールの手伝いをしようかと提案してきた。
「うん、大丈夫だよ」
みくりは頷いて返すと、スフェーンは呆れた様子で列車の上に立つ彼女に言う。
「そうじゃなくて人手、絶対足りてないでしょう?」
スフェーンは言うと、彼女はそこで梯子を登ってみくりと同じ列車の屋根に立つ。
「…手伝うの?」
「阿呆みたいに時間かけられても困るからね。それに十二両もあるんだから、一人で全部ってわけにもいかないでしょう?」
そこで彼女は繋がっている列車のシステムを操作すると、武装区画のハッチが全て開放される。そしてそのうちの一つからオートマトン用の30mm自動小銃が引き出される。
「お姉さん…すごい」
「異能者だからね。まあできると言っても、君みたいにオーバーホールできるわけじゃないから」
彼女はそう言うと、展開した四丁の30mm自動小銃をそっと地面に下ろす。
その時、サングラスの奥の目の色は空色に変色している事にみくりは気づかなかった。
「じゃあ、武器を外すとか、手伝って」
「ん、分かった」
そこでスフェーンは車両工場の余ったクレーンを引き寄せると、武装区画からCIWSを引き抜いていく。
「うーん、見た事ない武器」
そしてその中の一つ、戦術E兵器に首を傾げた。
「あなり見ない方がいいよ。君にはまだ早い武器だから」
スフェーンはそう言って首を傾げるみくりに言うと、そこで武器を取り出して横に置く。
「機関の方は?」
「大丈夫」
そこで工場にいくつもあるクレーンを操作して機関部からエーテル機関を取り出す。
「四つあるけど、大丈夫?」
「問題ない。並行して進める」
初めて見るエーテル機関を前に半ば興奮気味に腕まくりの仕草をする。
「なら良いんだけど…」
列車のオーバーホールを前にスフェーンは少し不安を覚えながら、列車のキャビン部分を取り外す作業を始める。
「外すよ〜」
「はーい」
軽い確認を行うと、コンテナのロックを行ってクレーンがゆっくりと動いてキャビンを取り外す。
「わっ、だいぶ汚れてるなぁ…」
そこでスフェーンはキャビンの下、列車の車体部分の汚れ度合いに、予想していたとはいえ若干顔を引き攣らせた。
「洗うなら、これを使って」
みくりはそう言い、近くの蛇口とデッキブラシを指差した。
「ははは…分かったわよ」
全部人力かいなと、スフェーンは苦笑した。
四つのエーテル機関を取り出した後、列車のジャンパ線を全て引き抜く。
そして列車のオーバーホールのために車体を一つずつクレーンで持ち上げる。
「よし、すぐに終わらせるよ」
みくりはそう言うと、手を前に出した直後、近くにあったありとあらゆる工具が宙に舞って取り出したエーテル機関の分解を始める。
それを見てスフェーンは驚くと共に納得した。
「っ!君もなのか…」
「そうだよ。お姉さんみたいに、あんまり重いものは動かせられないけど…」
みくりは目深く被ったフードの奥でそう言い、あっという間に分解を進めていく。
「私はエーテルのおかげで耳とものを動かす力を貰った」
みくりは変わらない口調で淡々と分解をしていく。なるほど、時間がかかるかと思っていたが、案外問題なかったかもしれない。
「だけど、これは疲れるから、一日に一回しかできない」
彼女はそう言い、早速分解したパーツを一つずつ手に取って確認していく。
数十の小さな工具を操作して作業を行う姿は熟練工のようだった。
「だから、早くても四日はかかっちゃう」
みくりはそう言い、少々申し訳なさそうにするが、そんなことはなかった。
「いや、こっちが悪かったわ。まさかそんな技が使えるとは思わなかったから」
「…お姉さん、良い人だね」
「そう?」
みくりはそんなスフェーンに少し安堵したような雰囲気で話す。
「うん…これを見ると、みんなびっくりするから」
「あぁ…」
異能者というのはここ数年、特に南北戦争以降に発現が確認された人外未知の力である。
みくりは何かしらの経緯でエーテル病に罹患したのだろう。そしてその際にこの能力を手に入れたのだろう。
「あまり無理はしないでね?」
「うん、分かってる」
そこでパパッと一つ目のエーテル機関のオーバーホールを行うみくり。
あれほど大量の工具を扱うことができるのは予想外だったが、あれでは体力を激しく消耗することだろう。
そう思いながら自分は取り出した武器の確認を行う。
『異能者だから一人で運営できるのでしょうか?』
「(なんか事情は複雑そうだけどね…)」
そう言いながら30mm自動小銃のカバーを外して下に取り付けてある120mmキャニスター弾を確認する。
「よっと…」
そしてキャニスター弾を発射器ごと取り外して地面に置く。
ブルパップ式の自動小銃はオートマトンの兵装としては割と一般的で、人間工学をあまり考える必要のないオートマトン用の兵装としては、短い全長で高初速弾が撃てる最適解とも言えるような装備だった。
「…よし」
五〇発入りのドラムマガジンを取り外し、ボルトを引いて薬室内の30mm弾薬の有無確認を行う。
そして銃身を覆っているコイルジャケットを取り外して銃身の摩耗を確認する。
今まで数回使ってはいるものの、これをやるくらいなら敵の武器を乗っ取った方が早く、おまけに安上がりである事に気がついて最近は使っていなかった。おかげで銃身の摩耗はそれほど考える必要がなかった。
「弾も問題なし…と」
そこで30mmケースレス弾の確認を終えると、そこで背後でオーバーホールを行っているみくりを一瞥する。
エーテル機関を一人で分解してオーバーホールを行う彼女、そこで設計図を渡していなかったと思い出し、彼女に近づいて話しかけた。
「ごめん。そういえば設計図を渡してなかったわね」
「…あっ、そうだね」
そこで話しかけられたみくりもハッと気づいてスフェーンを見ると、そこで設計図のデータを送った。
「…うん、オッケー。確認した」
そこでデータの受け取りを確認したみくりは小さく頷くと、そこで作業を再開した。
「…」
その時、みくりの鼻に嗅ぎ慣れない香りが漂った。
「…?」
その違和感に気がつき、意識が上ってきた彼女はそのまま体を起こすと、そこで周りを見まわした。
するとそこでは、スフェーンが工場のテーブルを全部片付け終えて、出来立ての料理を持ってきていた。
「…」
ああそうだ。確か『魔法』を使って見慣れないエーテル機関を修理して、その後泊まる場所がないスフェーンさん(今日の仕事を終えた後に名前を教えてもらった)のために工場の私の家を貸したんだった。
「ん?起きた」
「スフェーンさん…」
そこで綺麗になっている部屋を前に少し驚いていると、彼女は出来立ての料理を前にみくりに話しかけた。
「ほら、料理できたから。食べなさい」
「あっ、はい…」
スフェーンが促すと、みくりは出来立ての料理を前に腹の虫が鳴いた。少し恥ずかしかった。
「い、いただきます…」
そこでみくりはおろしハンバーグをナイフとフォークを取って切り始める。
そんな彼女を見てスフェーンは呆れた様子でみくりに言う。
「全く、こんなカップ麺と弁当だらけの生活でよく体調を崩さなかったわね…」
そう言い、彼女はゴミで溢れかえっていた彼女の部屋を掃除し終えて言う。
まだ掃除自体は完了しておらず、一仕事終えてソファに倒れて寝ていたみくりを他所に掃除をしていた。
キャビンを持っていたスフェーンは電源を列車と無理やり繋いでから冷蔵庫の中身を処分する目的で野菜をたっぷりと使ったサラダと共にみくりに食べさせる。
「っ!美味しい…!!」
「なら良かった」
おろしハンバーグを食べたみくりは軽く目を輝かせる。
「野菜も食べなさいよ」
「う、うん…」
そこで目敏くサラダに一口も口をつけていない事に気がついて言うと、みくりは気まずそうに頷く。
スフェーンはみくりとは反対のテーブルに腰を掛けて作った
「スフェーンさんって、とても料理が得意なんですね」
「まあ好きが興じてこうなっただけよ」
スフェーンはそう返すと、そこでみくりと同じメニューを食べる。
ナイフで切り分けると、中から溢れる肉汁。
そして一口大に切り分け、ポン酢と合わせた鬼おろしを一口で一気に口の中に入れる。
中に刻んだ大根と合わせているおかげでシャキッとした大根の食感を感じながら、ハンバーグの肉汁の脂っこさが大根の辛味とポン酢の酸味でよく中和されている。
「ふーっ」
何せフライパンで焼き上げた直後なのでとても熱々。なのでみくりも口の中で火傷しないように水で冷やしながら食べていた。
「っ、はぁ…」
彼女は今もローブをかぶっており、顔の下半分しか見ることができていない。
ただ何というか…よくこれで体調を崩さなかったな。というような食生活で彼女を見ていた。
「火傷しないのよ?」
「はい…」
スフェーンの忠告にみくりは頷くと、彼女はスフェーンを見る。
「ん?どうかした?」
そこで視線に気づいたスフェーンが聞くと、みくりはサングラスを見る。
「スフェーンさんは夜でもサングラスなんですね」
「…ええ、片目が変な色をしていてね」
そこで彼女はつけている色の濃いサングラスを外すと、そこで虹色の右目と灰色の左目の特異的なオッドアイを見せる。
「それは…」
「片目は義眼よ。昔、事故ってね」
「そ、そうなんですか…」
サイボーグ化したという話を聞き、みくりは少し反応しづらそうにした。
「そんなに気にしていないし、まあ視線がウザいからかけているだけよ」
スフェーンはサングラスを元に戻しながら言うと、みくりもそんなスフェーンに数回頷いていた。
「慣れているんですね…」
「まぁ、昔から変態の相手とかもしなきゃならなかったから、もう気にしてたらやってられないわね」
スフェーンはその時の事を話すと、みくりは驚いた様子を見せた。
「すごいですね…」
それには尊敬の念も混ざっていた。




