#253
先に言っておきます。
決してウ○娘じゃ無いですよ!絶対違うから!OK?
OKなら読んでください。
センタサルボー
少なくともこの名前を聞いてピンと思わない獣人はこの世界にはほぼいないだろう。
いたらそいつはきっとよっぽどの世間知らずか馬鹿か赤ん坊だ。
三五戦三五勝
生涯無敗を貫き、内レコード記録一二個を有する獣人による競馬史上最強の馬の獣人だ。
特に三四馬身差を付けてゴールしたエクリプス・ダービーと四二馬身差のキンチェム・ステークスは伝説として語り継がれていた。
しかもスプリンターからステイヤー、芝・ダートの全ての競走に出て優勝した最強の名に相応しい馬の獣人。
まだ企業の影響が強く、平気で薬物による身体強化が行われていた時代に、彼は薬物などの一切を使わない己の筋肉の力のみでその成績を残していた。
「お、おぉ…」
スフェーンはそんな御仁を前に吹き出しかけたウォッカを必死に押さえ込んで飲み込んだ後に唖然となった。
「もう引退して長いがな」
「数十年経っていますからね…」
しかし数十年経っていて尚、彼の肉体に衰えを感じさせないのがスフェーンにとっては驚異的だった。
本名を隠して走っていた彼は、引退後の動向はほぼ掴めずにいた。
「孫も持つような歳だ。まあ最近は孫たちもあまり来なくなっているがな」
「…」
セントレジャーはそのことを大したことじゃないと言った具合で酒を一杯飲む。
「いや…そんな端的に言われても…」
「なんだ。もっと仰々しく言うべきでもなかろう」
「いや、そう言うわけではなく…」
このセンタサルボーが競馬界に与えた影響を考えると、こんな簡単にさらりと言うべきではないだろう。
彼の影響で、今の獣人による競技というのは広く知れ渡られ、今の馬の獣人による獣人競馬は厳しい薬物規制や徹底した自然肉体主義を掲げるスポーツになった。
そして今までは企業主体であった獣人競馬は個人主義、脱企業を掲げるようになって興業として発展する事となった。
「その…セントレジャーさん?」
「何だ?」
一度深呼吸をして落ち着かせたスフェーンはそこでセントレジャーに聞いた。
「とりあえずサインもらっていいですか?」
スフェーンの素早い行動にセントレジャーは軽く目を点にしていた。
その後、スフェーンは持っていたメモ帳にセンタサルボーの名前でサインを貰った。
とりあえず有名人なら、と言った具合で後でまた描いてもらおうかな〜、なんて思いながらスフェーンはセントレジャーと再度ポーカーをする。
「正体を知ってもポーカーを平然とできるのか?」
「いや…さっき五連ロイヤルされた時点で想定が肉離れしているので…」
「それは…すまん、悪いことをしたな」
「いや…もうこれは運ですから」
スフェーンは大して気にしていないと言って一〇〇輪硬貨をビットする。
「それに運が強いというのも。勝負ですから競馬で走るには必要でしょうし…」
「ほぉ…面白い」
「?」
セントレジャーの返答にスフェーンは首を傾げると、彼は言う。
「いや、俺が走っていた時。ある記者から聞かれたことがあってな『あなたは不運すらも実力でねじ伏せているのではないかね?』とな」
「へえー」
「遠回しに『貴様に運はない』と言われていたのではないかと思っているんだがね…」
正直、スフェーンとしては『運は存在している』という考え方だった。出なければ、自分は戦場という場所であれだけ長く活躍できているはずがないかだら。
「ただ、運を引き寄せるためには、腕を磨くのが一番手っ取り早いとは思っていますよ?」
「なるほど…」
セントレジャーはスフェーンの話を少し興味深く聞く。
「それに家に入る時のあの無愛想なる表情。あれ、嘘なんですよね?」
そしてこの際だからと言わんばかりにスフェーンは聞いた。するとセントレジャーセントレジャーは豪快に笑った。
「ふはははっ!何だ、気づかれていたのか…」
「昔から嘘を見抜くのは得意でしたので」
スフェーンはそこでセントレジャーを見る。
少なくともすぐに警戒心を緩めた時点でアレ?とは思い、風呂を沸かしてパジャマやらを準備し、こうやって見ず知らずの人間をポーカーに誘った時点で役満である。
「ふむ、実に揶揄いがいの無い娘だ」
「…すみませんね。こんな娘で」
スフェーンはセントレジャーを見ると、彼は気にしていない様子で軽く首を横に振る。
「なに、これも何かの縁というものだろう…」
そこで五連ロイヤルをぶちかましやがった老人はそこでカードを引く。
「ほれ」
「ぶふっ」
そこで決められたストレートフラッシュ、マジで光り輝いているようにしか見えない手札に思わず吹き出すスフェーン。
「だからさー!どうしてこうもポンポンと強い役を作れるんですかーっ!!」
そして自分という存在を知ってもなお、臆する事なく接してくれる目の前の女は不思議だったが、感情豊かで面白かった。
「賭けは俺の勝ちだな…ほれ、何か作れ」
「へ?」
唐突に言われ、n回目の困惑をするスフェーン。するとセントレジャーは言う。
「賭けに負けたんだ。それくらいのことはしてくれ。食材は台所にあるもので何か作れるだろう?」
「え?」
「できれば簡単に手で食べられる物で頼む。あぁ、無駄遣いなしないでくれ?」
「えぇ…」
とんでもねぇ注文をふっかけ、スフェーンの中でセントレジャーは『気性難◎』の判定を受ける。
「…因みに苦手な食べ物は?」
「無い。好きに作ってくれ」
「はぁ…分かりましたよ」
少なくとも料理を作る中で一番困る返答をもらいながらメニューを一考すると、そこで思いついた様子で表情をコロコロ変える。
そこでスフェーンは立ち上がると、一瞬悪い笑みを浮かべており、セントレジャーは変なものを出した時の対処法を考えた。
そしてリビング話を出た時にルシエルが聞いた。
『どうしてこのメニューを?』
「あの爺さんに胃もたれさせてやるからだけど?」
当たり前のように言い放ったスフェーンにルシエルは呆れた様子でため息を吐いた。
『単なる嫌がらせじゃ無いですか…』
「逆にそれ以外にやる意味ありますかいな」
そう言い家を回って台所を見つけると、そこでその豪華さに舌を巻いた。
「わぁ、すっご」
台所にはあらゆる調理器具が取り揃えられていた。
「うわ、薪のオーブンがあるぞ」
『随分珍しいですね』
特に木材をこれでもかと判断に使う薪のオーブンには目を惹かれた。
この星では木材は高価な材料だ。だから木造の家というのはすぐに朽ちて建て直す必要があり、材料費込み込みでとても金が掛かる。だから金持ちは大抵が木造住宅に住んでいた。
「良いなぁ…家」
『いずれ買えばよろしいのでは?』
「まだまだ旅はしたいから良いかなぁ…」
ルシエルとそんな話をしながらこれまたでっかい冷蔵庫をバンと開ける。
「おお〜」
中には、セントレジャーの日常が出ており、普段から節制の生活をしているのだと推測できた。
『調味料は一式揃っていますね』
「香辛料は少ないなぁ塩胡椒くらいしか無いじゃん」
台所を色々と見ながらスフェーンはテキパキと作業を始める。
「まずは米をあっためて…」
冷蔵庫に置かれていた冷凍ご飯をレンジの中に放り込んで熱する。
好ましいのは冷凍ご飯。チンしてあったまると程よく水分が抜けているので今回の料理を作る上ではかなりおすすめ。
その間に野菜室からレタスを取り出し、手で千切った後に冷水に浸す。
そして薄切りの牛肉を熱したフライパンの上に乗せる。
ジューと音を立てながら肉が焼けていくと、同時にいい肉なので油がフライパンに溢れてくる。そして両面をしっかりと焼いた後、それを一旦フライパンからおろす。
この頃に冷凍ご飯が出来上がるので、それを取り出して水分を落としながら少し厚めに、円形に形作った後に上から力を加えて押し固める。これを四つ作る。
そして固めたそれを油の残るフライパンの上に乗せてしっかりと焦げ目がつくまで焼き上げる。
本来、これは七輪やバーベキューコンロなどで焼くほうが焦げ目が均等に出来上がるのでおすすめだが、フライパンでもできなくは無い。
フライパンの時のおすすめは中火で片面約五分を表面の水分が全体的に抜けるまで繰り返し行う。この時、余計な油は取ってしまって構わない。
両面を焦げ目がつくまで焼き上げた後、醤油・みりん・水・砂糖をかき混ぜたすき焼きの液を軽く回し掛け、軽く焼き上げる。ここでタレは少ないほうが形が崩れないので、最悪この工程はなくてもいい。
そしてしっかりと表面を焼き上げた後は、それをフライパンからおろし、同時に先ほど焼き上げた牛肉を元に戻してその上からタレをかけてすき焼きを作る。
「…」
そしてしっかりとタレと絡めたすき焼きを完成させると、それを菜箸でつかんでフライパンから出す。
そして米バンズ、牛肉、レタス、米バンズと挟み込みを行い、最後に上から軽く胡椒を好みでかける。
本当は嫌がらせ目的で唐揚げやオニオンリングなんかも挟みたかったが、そいつらは準備が色々と面倒なのでこれで完成とした。
「できた。胃もたれ必至の米バーガー!」
『…とんだ悪意の産物ですね』
ルシエルはスフェーンの力作に若干引き攣った表情で見ると、スフェーンはいい笑顔を浮かべる。
「あの爺さんにはポーカー出してやられたんだ。これくらいやらないと顔が立たないってもんだよ」
『それ以前に人間としてその類の嫌がらせはどうなのかと…』
ルシエルはスフェーンの嫌がらせに首を傾げる。
時刻は午前様になり掛けの頃合い、こんな時間にこんな料理を、あの年齢の人に食わせるという暴挙にルシエルは呆れた。
『全く、大人げないですよ』
「そんなもんとっくの昔に助走つけてぶん投げてらぁ」
スフェーンはそう言うと米バーガーを乗せた皿を持ってリビングに戻ると、
「ん、美味そうな匂いだ」
セントレジャーは先ほど使っていたのとは違う映写機を持ち出しており、どこから持ってきたのかアルミ缶の蓋を開けていた。
「スフェーン、これに水を入れてくれ」
「?」
そう言って渡されたガラス製のフラスコを見てスフェーンは理解した。
なるほど、さっきの古い映画鑑賞の為の準備時間を稼ぐのと、映画を見ながら食うものが欲しかったのかと。
「わっかりました〜」
スフェーンはフラスコを持って台所に戻って行った。




