#252
家の中は綺麗に掃除されており、部屋の中では暖房がつけられていた。
「…」
夜は冷えるからと案内され、若干困惑気味のスフェーンだったが、そこで彼の家の中の整えられた部屋に少し緊張が高まった。
「お前さん、着替えは?」
「あっ、服はこれしか…」
スフェーンはそこでムートンジャケットを触れると、男は軽くため息をついた。
男の名はエドワード・スミス=セントレジャー。馬の獣人であり、この家の家主である。
鹿毛に立派な流星が特徴的な彼は少々無愛想にスフェーンを家の中に入れた。
「…」
スフェーンにセントレジャーは軽く顔を顰めると、そこ彼は言う。
「風呂は廊下を曲がった先だ」
「ありがとうございます…」
スフェーンはそこでセントレジャーに案内されて階段を登る。
家のリビングの棚には写真が飾られ、その写真には家族が写っていた。
「…」
『お孫さんまでいる様子ですね』
ルシエルが即座にその写真に写っていた子達の顔から測定した年齢を見てスフェーンは短く頷く。
バイク修理のためにガレージを借りただけのつもりが、なぜか家に案内される。…何故?
「ここがお前の泊まる部屋だ」
「…」
そして通された部屋を見たスフェーンはそこでセントレジャーに頭を下げる。
「ご迷惑をおかけします」
「俺のガレージで死体を見たくないだけだ。感謝されるほどでもない」
セントレジャーはそう言うとそのまま去っていった。その時の彼の耳は少しだけ耳が横に倒れていた。
部屋は客が泊まれるように掃除がなされた簡素な部屋だった。窓は二重窓で、窓の下には暖房が一つ。ベッドは丁寧な木製の頑丈なものが一つ。床はマットで敷き詰められている。
「うぅぅ…夜は冷えるってんだから恐ろしいよ」
時刻は午後八時、外の景色は夕方の時と変わらず、外は吹雪いてきている様子もない。
『現在、付近の気象観測台では摂氏マイナス約八度を記録しています』
「ひえ〜、恐ろし」
スフェーンはそこで改めてセントレジャーの言っていたことが本当であったことを理解する。いやはや、なんとも恐ろしい気温だ。
「…」
部屋の壁は白一色、部屋のベッドに座り込むと、そこでスフェーンは煙草を取り出そうとして…やめた。
「そういえばセントレジャーさんから煙草の匂いしなかったっけ?」
『そうですね』
セントレジャーの顔に少し見覚えのあったスフェーンだったが、一旦それは置いておき、匂いがしないと言うことは煙草を吸っていない可能性が高いと言うこと。
獣人というのは、基本的に人よりも嗅覚が優れている。だから匂いのきついものは基本的に苦手だ。
『スフェーンも世間から見れば鹿の獣人ですよ?』
「うんまあそうなんだけどね…」
スフェーンはやや苦笑する。
自分の場合、その出立がまず異質そのものであるがゆえに他の一般的な人と比べてはならないというのが事実だ。
「ましてやこの角も後付けだしなあ」
スフェーンはそう言い、自分の頭上に生える一対の鹿角に触れる。
一年に一回、本物の鹿の獣人のように角が抜け、その抜けた角は列車の燃料タンクに突っ込んでおくと自然とエーテルに変わってしまう。
「しかしまあ、お世話になっちゃったなぁ…」
『明日、早急に修理を始める必要がありそうですね』
「そうね」
そこでスフェーンは風呂に入るために部屋を出る。
先ほどからそう大した時間は立っていないが、家はとても静かだった。
「…」
階段を降りて、木製の階段から軽く音を立てて一階に降りると、そこは誰もいないように静かだったが、
「?」
カタカタと何かを高速で巻いているような音が聞こえ、その音がするリビングの方が気になった。
そして明かりの落とされたリビングの入り口を覗いてみると、そこでは古い映写機が音を立てて壁に映像を投影していた。そしてその前で椅子に深く腰をかけて眠っているセントレジャーの姿があった。
「…」
軽くいびきを立てて寝る彼の前、映画は無音で進んでいた。
「(あれは何?)」
『古い映画のようですね…』
少なくとも初めて見る機材を前に首を傾げたスフェーン。すると椅子に座っていたセントレジャーはスフェーンの足音で気づいたのか、目を開けた。
「…お前さんか」
「あっ、すみません。起こしちゃいましたね」
振り返った先にいたスフェーンはいうと、セントレジャーはそのまま体をゆっくりと起こした。
「いや、元々の体質だ。気にしなくていい」
彼はそう言うと部屋に置いてあったカクテルを飲む。
「ふぅ…」
そして一杯煽るように飲むと、そこでスフェーンを見た。
「何の用だ?」
「あっ、いえ…静かでしたので、どうしたのかと」
「…そうか」
その後のセントレジャーの沈黙にスフェーンは叱られる覚悟をした。
「若いの、映画は見たことあるか?」
「え?」
予想外の質問にスフェーンは一瞬呆気に取られたが、脳が理解すると答えた。
「まあ…人並みには」
そこで彼女は部屋にあった映写機を興味深そうに見ると、そこでセントレジャーは再び短く沈黙した後にスフェーンに言った。
「風呂から上がったらこの部屋に来い」
「あっ、はい!」
と、並の人間だったら恐ろしくてチビりそうな威圧感を感じ取りながらスフェーンはリビングを後にする。
「どゆこと?」
『私に聞かれても…』
浴室でシャワーを浴びるスフェーン達は若干困惑していた。とは言えセントレジャーのあの雰囲気を前に『お断り』なんてできるはずもないので、スフェーンはシャワーを浴びた後に用意してあったタオルとパジャマに着替えさせてもらう。
「下着は…まあ我慢すっか」
『ですね。明日には帰る予定ですし』
一日くらいどうにかなるべさといった具合で、スフェーンとルシエルは潔癖症が白目をむいて気絶するような発言をかましながらパジャマを着る。
「わぁ〜ピッタリ」
スフェーンは用意されたパジャマに軽く驚くと、その後に髪をドライヤーでしっかりと乾かしてから廊下を歩く。
事前に湯を沸かしてもらったりと、色々としてもらった手前、どう返すべきかなどと思いながらスフェーンは言われた通りにリビングに入った。
「お風呂お借りしました。ありがとうございます」
そう言いながらスフェーンはリビングを見ると、そこでセントレジャーは椅子を用意して待っていた。
そしてその椅子の間にはトランプが用意されていた。
「若いの」
「はい?」
そこでセントレジャーは椅子に座りながら聞いた。
「ポーカーはできるか?」
「もちろん。できますよ?」
スフェーンはそこで頷くと、彼はそのまま手招きをしてスフェーンを反対の椅子に座らせた。
「でもポーカーって、四人くらいでやるのが最適じゃないですか?」
「二人でもできる。さあやるぞ」
セントレジャーはそこでスフェーンと共にポーカーを始める。チップは一〇〇輪硬貨を用意していた。
「賭けるんですか?」
「当たり前だろう?その方が面白い」
軽く笑い混じりに彼は言うと、スフェーンも財布から一枚の一〇〇輪硬貨を卓上に置いた。
二人がそれぞれ山のカードをシャッフルし合い、親役のセントレジャーが五枚ずつ配ってからカードを交換して強い役を作っていく。
「それに、」
「?」
セントレジャーは軽く笑った。
「俺の家に一泊するんだ。宿泊代だと思って一晩付き合え」
「えぇ…私、バイクの修理しないといけないんですけど」
スフェーンは軽く苦笑して新しいカードを引く。
「だいぶ細かいところまで分解しておったな」
セントレジャーも一枚捨てて新しいカードを引く。
「ええ、なにせ故障箇所がまだ分からなくて…」
「そうか…」
セントレジャーはそこで軽く相槌を打ちながらカードを交換する。
「下手をすると、もっと時間がかかっちゃうかもしれなくて…」
「その時は?」
「諦めてレッカーにするつもりです」
スフェーンは答えて新しいカードを引く。そしてその後もずっとカードを引き続けてストックがなくなった時、再度捨て札をシャッフルして二巡目を行う。
「どうかね?」
「うーん…少ししょっぱいですね」
スフェーンは手札を前に答えると、セントレジャーは呟く。
「なるほど、私もそれほど強いとは言えんな…」
彼もまた役が強くないと言うと、そこで新たに山からカードを引いていく。
「お前さん、名前は?」
「スフェーン・シュエットと言います」
「仕事は?」
「運び屋です」
カードを交換しながらスフェーンとセントレジャーは短い会話を行う。
「運び屋がなぜこんな場所に?」
「仕事が終わったリフレッシュで」
そして黙々とカードを交換していき、二回目のカード交換を終えたところで二人は手札を出す。
「フルハウス!」
スフェーンはドヤ顔で作った役を見せる。するとセントレジャーはニヤリと笑った。
「悪いな…」
そこでパラっと彼の作った役が卓上に置かれた。
「ロイヤルストレートフラッシュだ」
「なっ…?!」
最強の手札を出され、スフェーンの表情が固まった。
「はっはっはっはっ!私の勝ちのようだな」
セントレジャーは固まったスフェーンを見て豪快に笑うと、そこで傍に置いてあったブランデーを一杯傾ける。
「今日はいい酒が飲めそうだ」
「もう一回!もう一回しましょう!」
スフェーンはそう言うと、セントレジャーは頷いてカードを回収する。
「いいだろう。夜明けまでたっぷりとしごいてやる」
ポーカーを肴に彼はブランデーを見ると、そこでスフェーンにグラスを見せて聞いた。
「飲むか?」
「…お願いします」
スフェーンはそこでウォッカを注がれると、それを片手に二回戦を行った。
そして五回戦ほど行った後、
「お前さん、随分と弱いな」
「どうして…」
困惑気味にスフェーンは頭を抱え、それを揶揄うように渡ってセントレジャーは酒を飲む。
「面白いやつだな」
「イカサマしてませんよね?」
「無論だ。それでは面白くない」
困惑するスフェーンにセントレジャーは言う。
「運も実力の内。とはよく言うものじゃないか」
「だとしても五連ロイヤルストレートフラッシュはおかしいでしょう?!」
スフェーンは突っ込んだ。
普通おかしい!なぜこんなにもポンポンロイヤルを打てるんだ?!
「まあこの幸運がなければ俺もあそこまで強くなかったさ」
「?」
軽く笑って言ったセントレジャーに首を傾げると、彼は壁に飾られた一枚の写真に目を向けた。
それに釣られてスフェーンもその写真を見た時、
「え?」
その写真を見てスフェーンは固まり、そして直後にセントレジャーを見た。
「え?!あなたやっぱり…」
驚くスフェーンにセントレジャーは頷いた。
「ああ、昔はセンタサルボーという名で走っていた男だ」
「…」
衝撃の告白をされ、パルプンテを食らったような顔でスフェーンは固まった。
「(わぁ〜、史上最強の無敗王者じゃないっすかやだー)」




