第105話 リンジーの選択肢
リンジーは会議室を出たフリューゲルを追う。
「待ってください!お兄様!」
「うん?」
フリューゲルはゆっくりと振り返る。
そこには、青髪の女がいた。
フリューゲルは一瞬、その女がルーナに思えた。
「私の事を覚えていますか?」
「ああ、リンジーだな?」
「違います!リンジー・グローテルです!あなたの妹です!覚えていますか?!」
「ああ、私が幼少期に一度会ったな。お前は覚えていないかもしれないが」
「はい、ヘリルスの騎士団長を担っているという情報が頼りでした」
「そうか」
フリューゲルは再び、歩き出そうとした。
「待ってください!」
「まだ、何か?」
「え……その……」
リンジーは俯いたまま自分の服の袖をがっしり掴んで何かを考えている。
その光景にフリューゲルは何かを感じたのか、「はぁ~」と大きなため息をついた。
そして、フリューゲルは話を始める。
「――あの時、私が止めればよかったな……」
「え?」
「お前は覚えていなかったかもしれないが、私は、いや、私達は剣聖である亡き母から虐待を受けていた―――」
今から数十年前、
「こら!フリューゲル!何度言ったらわかるの?!」
フリューゲルは母親であるアドルフィーナ・グローテルからよく殴られていた。
「ごめんなさい!」
フリューゲルは幼少期、そのたびに謝ることしかできなかった。
次第にフリューゲルの心の中に闇ができていった。
そんなある時、アドルフィーナのお腹の中に胎児ができた。
出産ということもあり、フリューゲルは父親に面倒を見てもらうことが増えていった。
そんな中、父は嫁であるアドルフィーナに強い劣等感を抱いていた。
それは次第にコンプレックスとなり、剣聖を超えたいと考えるようになった。
そして、父はアドルフィーナの見様見真似でフリューゲルに剣術を教えるようになった。
そして、アドルフィーナはリンジーを出産する。
しかし、リンジーは剣術の才能はないわ魔法適性がないわ勉学もあまり期待できない為、孤児院に送られる事になった。
しかし、フリューゲルにとってリンジーは家族であり、妹だ。
当然、アドルフィーナに反発の意思を示した。
が、その意思は暴力によってすぐに却下されてしまう。
その後、ヘリルスから緊急要請がかかったアドルフィーナは魔王軍によって殺害された。
そして、フリューゲルはアドルフィーナがいつも言っていたことを思い出す。
『お前は私と似た才能を持っている。剣聖となり、魔王を討つのだ』
この言葉がフリューゲルにとって原動力であり、目標になっていった。
そして、その事を全てリンジーに話す。
「すまない。私は母から認められていたのかもしれない。私は、お前から全てを奪った。もう、兄ではない」
それに対してリンジーは言う。
「いいえ、私の兄です。止めようとした意思があれば十分です。そのおかげで愛すべき人に出会いましたし、それに―――全てを奪ったって……これからお兄様と取り戻していきます!」
リンジーは少しイタズラっぽく笑っていった。
「では、ジューヤさんに呼ばれていたのでもう行きます」
「ああ」
フリューゲルは思う。
―――これは呪いだ。
過去の呪縛が全て解き明かされた気がした―――
いや、終わるのは早い。母の呪縛を解かなくては―――




