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不断のジャカ  作者: 吉良 善
不死身のレゼルク
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向かうべきところ

眠れなかった。

暗闇の中、静寂を遮っていくつかの音だけが聞こえる。

一行は三つのテントに分かれ、

アンジェとベルゼナッハ、

オータとジルドラ、ドロウ、

そしてジャカとキーン、ズィフィードという

組み合わせで睡眠を取ることになっていた。

ジャカたちの班はすでに見張りの番を終え、

現在はオータらが外で周囲を警戒しているはずである。

明日もほとんどが歩き通しの一日になる。

ジャカは早く眠りについて心身を休めようとしたが、

そう考えるほど自分の身体はわずかな微睡みさえ与えてくれない。

そんな彼の耳に、

テントの外の風の音、

その風に揺れる草の音、

そしてキーンとズィフィードの呼吸の音だけが届いていた。

この二人は憎らしいくらいに寝つきが良く、

明日のことについて少し話そうと彼らに目を向けた時には

横になって三分と過ぎていないというのに

すでに寝息をたてていた。

今日も相当歩いたし、

アイスレアを失った悲しみはまだ癒えない。

心も身体も疲れきっているはずなのに、

眠気をあまり感じないことにジャカは焦りを覚えた。

これがこのまま続くとまずい。

何とか眠ろうと目を閉じた。

テントの中は闇に包まれていたはずだったが

まぶたの裏にぼんやりとした光のようなものが広がり、薄れていって、

かすかに残った光はしぼんでいき

やがて消えていった。

それに己の行く末を重ね合わせて不安に陥るような余地は、

今のジャカにはない。

おぼろげながらも脳裏に残る故郷の風景を思い浮かべた。

そこへ行くために。

進まなければならないので。

一刻も早く寝る。

と、順に考えたことによる結果だった。

「…(ルフィカに着いたら…)」

どうしようか?

自宅であった場所に行くか?

事件について聞き回ってみるか?

かの街へ向かう理由を、仲間たちには話した。

己の中にある言い表しようのないもの。

恐怖だか不安だか、よくわからないそれを、

どうにかしない限り自分は真に過去を乗り越えることはできない。

おそらく、それは忘れることも消し去ることもできないのだ。

ならば、直視して、受け止めて、

己の一部として生きていくしかない。

そのために、

自分にとって忌まわしき場所となってしまった

故郷へと行くのだ。

だが、到着したとしてどうすればよいのか、

その答えを毎晩のように探しても

見出すことは未だできていなかった。

何も得られないかもしれない。

さらに失うかもしれない。

それでも、ジャカは己のはじまりの地を目指す。





昨晩は、アンジェが一連の経緯をジャカたちに伝えた。

一夜明けての朝食の場では、ジャカたちがドロウに

これまでの旅について話していた。

「確かに、変な話だな」

耳を傾けながらもあっという間にたいらげてしまったドロウは、

腕を組んで視線を落としながら言った。

「事情を聞いた今でも、

 なぜハーディスがシュネールくんだりまで

 人をよこしてジャカを狙ったのか

 さっぱりわからん。

 お前たちの言う『青の力』のことを知ってもだ。

 協力してほしいと、まずは依頼しに来るならわかる。

 その力を持った者を、何人か軍に引き入れているわけだしな。

 しかしジャカ、お前たちは最初から捕えられそうになった」

「…そうです」

当時のことを思い出して、

ジャカは目を伏せ小さくうなずいた。

刺客たちは、

ご丁寧に表口と裏口とを固めて

訪ねて来たのである。

話し合いや交渉の余地などなく、

問答無用に始末しに来たとしか思えなかった。

「俺も発見次第捕えるよう要請されたが、

 そもそも発端が奴の方ならば従う必要もない…

 とは思うが、六部隊や七部隊が俺と同じ態度を取るという

 期待は持たない方がいいな。

 実際、すでに何度か交戦してしまっているとなると」

「あなたが確かめたいと思っていることとは?」

アンジェが切れ長の瞳の端で見ながら尋ねた。

ともにルフィカに行くという話を持ちかけてきた時、

ドロウがそう発言したのである。

彼は、ああ、とうなずいた。

「仕事でガーラントに向かう途中、

 ルフィカに寄った時のことだが…

 あそこは妙な所だ。

 インフォアとガーラントを結ぶ中継都市ではあるが

 大都市というほどじゃない。

 が、やけに警備は厳重だ。

 気になって少し探りを入れて知ったんだが、

 そうなったのは十一、二年前からではないかという話だった」

「…」

「そしてそれは、

 この街に奇妙な力を持った者が現れるようになったことと

 関係があるんじゃないかと聞いた。

 そっちの方は、おそらく約十三年前だろうと…

 つまり、ジャカやキーンが青い光を見た頃だな」

「実際、あの夜にオレたちは奇妙な力をもらったんだろうからな」

キーンの言葉に、

ジャカはそうですね、と答えた。

脳裏には、何種類の絵の具を混ぜても再現できそうにない

不思議な色合いの、夜空を染めた青がよみがえっていた。

どれだけ時間が遠ざかろうとも、

あの青い光の記憶が薄れることはない。

心が過去に飛んでいたジャカの意識を、

再び聞こえてきたドロウの声が引き戻した。

「しかしもう一つ原因となったかもしれないというのが

 ルフィカの住民の失踪だ。

 数人じゃない。

 数十人という単位でだ」

「失踪…?

 そんなことがあったんですか。

 僕は街を出ていたから知りませんでしたが、

 キーンさんは知ってました?」

「いや、

 覚えがねえな」

ジャカの問いに、

キーンは首を捻った。

「数十人もいなくなったってんなら大事件だが…

 まだガキだったからか、

 オレも引っ越しちまったからルフィカでの記憶が

 薄れていたのかもしれねえが」

二人の様子を見やりつつ、

ドロウは再び口を開く。

「調査にあたった隊は原因も行方も不明という結論に至ったが、

 当然地元民はそれじゃ納得しない。

 例の夜や力を得た者たちと関連があるのではと噂されたが、

 やがてそれも立ち消えた。

 だが、ひとつひとつ見れば

 どれもこれも普通の出来事じゃない。

 といって、言ったとおり警備が厳重になっていては

 調べられる者なんてのはいないわけだ。

 と、ここでようやく俺の確かめたいことってのが

 出て来るんだが…

 住民かルフィカで働いたことのある兵でもなきゃ

 知っている者は多くはないだろうが、

 あの街の付近には立ち入りが制限された区域がある。

 それが、まさに例の夜の前後に

 できたと思うと古株の兵が言っていた」

「あなたは、

 そこに青の力に関する何かがあると考えているんだな?」

オータが、自らが空にした皿を布で磨きながら言った。

アイスレアを失った戦いでは彼も重傷を負い、

しっかりとした治療を受けたのが遅かったことから

回復するまでに時間を要したが、

何とか普通に動けるまでになっている。

彼の問いに、

ドロウはそうだ、と答えた。

「あそこは少々特殊な状況にあって、

 元は宮廷魔導隊の管轄だったが国王直々の命で

 ハーディスが管理するようになった。

 しかしそれに宮廷魔導隊のトップ、

 ウィルスター最高魔導士ドズルフォート・アシュレイが反発し

 時々現地で小競り合いが起こる。

 臭うだろ、『青の力』に固執しているらしい特命大臣と

 色々と知っていそうな最高魔導士の両者が

 こだわっている場所となると」

「宮廷魔導隊ってのは王都の外にまで出張って来るもんなのか?

 その名のとおり王城にいるんじゃないのかよ」

キーンが問うた。

選りすぐりのエリート魔導士が集まっているとして

存在を耳にしたことはあったものの、

宮廷魔導隊は一般市民にとっては身近な存在ではない。

王都にあって王族などの警護や魔導の研究を

行っているらしいというくらいの認識だった。

「基本的にはそうだ。

 が、あれの仕事には調査や研究も含まれている。

 件の制限区域の中にアシュレイが調べたい、

 調べるべきと考えるものがあるとすれば…

 そりゃ出て来るさ。

 温厚質実に見えて芯の強い男だからな、

 国王の命といえどハイそうですかと引っ込んでいるヤツじゃない」

「…不可解な力を持った連中の発祥の地、

 その近くに立ち入り禁止エリア…

 怪しく思っていたところにオレたちと接触する機会が訪れて、

 あんたは一時軍を抜けてまで機会を逃すまいと

 考えたわけだ」

「この話はどこを取っても不可解だ、

 わからん以上お前たちの話も聞いてみなきゃ事が進まん。

 追手のついているお前たちと話し合い、

 入るなという場所へ近づくなら軍を出た方がやりやすい。

 ジェスリット・ジェサリアから

 いくらか事情を聞けたことも判断に影響したと言える。

 お前たちが狙われていること自体がおかしいのなら、

 行くしかないだろう。

 全ての原因があるかもしれない場所へ…

 そして、確かめる。

 今のウィルスター軍に後ろ暗さがあるのかどうか」

「さすがは剛将エシエン・ドロウ殿!

 何と篤実なお方だ!」

「…確かめた結果、

 やはり我々を捕えるべきと判断した場合は?」

感嘆の声を上げるズィフィードには見向きもせず、

アンジェはきらりと瞳を煌めかせた。

その問いを受けて、

ドロウは快活な笑顔を咲かせた。

「心配するな、

 いきなり捕えたりはしない。

 その時は結論をお前たちにちゃんと話した上で正々堂々勝負だ!

 互いに全力を尽くし、自らの信念を貫こうぜ」

「…ズィフィード君、

 この人本当に篤実なんですか?

 ただの脳筋に思えてならないんですがね…

 あまり同行を歓迎してはいけない気がしますよ、

 ワタシとしては…」

ジルドラは嫌そうな顔で言ったが、

ズィフィードはどちらかと言えばドロウに似た人種である。

もしそうなったら悔いの残らない勝負にしましょうなどと言いながら

ドロウと握手を交わした。

「未熟者なれど、

 持てる全ての力をぶつけます!」

「ハッハッハ、

 気合の入ったヤツだ、気に入った!

 お前の仮面なかなかいいな。

 俺の顔も知ってる奴は知ってるだろうし、

 仮面着けようかな!」

「やめろ!

 一つのパーティーに仮面が二人は多いだろ!

 そういうキャラは一陣営に一人でいい!」

キーンが訴えたが、

ドロウの耳には届かなかったのか、

ズィフィードと盛り上がっている。

「いいですね!

 このズィフィード仮面に対抗なさいますか!」

「おう、人呼んで…

 いや俺呼んでマスク・ド・ドロウだ!」

「…何でこの人たちは顔を隠して名前を出しちゃうの?

 正体を隠す気がないなら恥ずかしいから

 仮面着けるのやめてくれないかな…」

ジャカはそう思ったが、

もちろん声には出さない。

第九部隊の隊長ともあろう人物である。

実際に仮面を着けて行動したりはしないだろう…

皆は、そう信じるしかなかった。

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