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不断のジャカ  作者: 吉良 善
不死身のレゼルク
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契約

「…あの人、

 本当に仲間にするの?」

「そのつもりだ。

 仲間と言っても、雇うだけだが」

「反対はしないが

 積極的に賛成もしないぞ、この私は」

「オレは積極的に反対だが。

 まあ、この組にはオレも居候の身みたいなモンだから、

 絶対嫌だとは言わない」

ロズウェル、レゼルク、クラトー、ガラテアが

ひそひそと順に言った。

『あの人』とは、

宿の食堂で少し離れた席に座り

食後のコーヒーを楽しんでいる黒髪の男性のことである。

ウィルスター最大とも言われた傭兵団『暁の牙』の

団長であることから『傭兵王』と称される歴戦の勇士だが、

暁の牙はもはやなく、すなわち彼は傭兵王でもすでにない。

つい先程まで、レゼルクらは元傭兵王と同じテーブルに着き、

彼と話していた。

その際に彼、ルオグラン・フレイムの事情も聞いたのである―――――





―――――「門前での騒ぎは何だったんだ?」

「人々と何を話し合っていたのか…か」

「私は何の騒ぎだったのかと尋ねたのだが…

 話し合っていたようには見えなかった。

 一方的に責められていた」

「大体フレイムさん、

 暁の牙はどうしたのよ」

レゼルクの言葉が切れると同時に、

ロズウェルも尋ねた。

二人の問いを受けとめるように、

フレイムは息を吐いて腕を組んだ。

「それらの質問には、

 一度に答えることができる。

 娘、ロズウェルといったな…

 お前も参戦していたと思うが、

 レッドハンドとの戦いの後

 暁の牙は解団した。

 その際に、皆が異口同音に言ったのだ。

 俺と刃を交えてみたいと…

 俺は心が震えた。

 まだまだ若い、未熟だと思っていた連中が

 戦士として成長し、

 そして俺のことを勝負を熱望するほどに

 目標とし慕ってくれていたのかと。

 俺は、迷わず承諾した」

「…あなた一人対他全員?

 みんなあなたをボッコボコにしようとしてたんじゃない?

 大丈夫だった?」

「その戦いの舞台に、

 俺は暁の牙終焉の地となった

 シュテシアを選んだ。

 だが、無断でというわけにはいかない。

 レッドハンドと戦う前にも

 通行人を巻き込まぬようそれとなく伝えはしたが、

 今回も俺は筋を通すべく

 シュテシアの人々に事情を説明した。

 すると、彼らは聞くなり即座に

 烈火の如く激怒した。

 すぐさま俺を追い出そうと、

 門の方へと押しやっていった」

「…一度ならず二度までもと怒り、

 住人の方々は街は自分たちで守ると

 言いながら貴殿を小突き回していたのか…

 涙を禁じ得ないぞ、この私は」

「…やっぱりアホなんじゃねえか、コイツ…

 レゼルク、おたく傭兵王が思慮深いって聞いたそうだな。

 それ言った奴ここに連れて来い。

 俺が三十メートル飛ばしてやるよ」

話を聞いたクラトーは眉間を押さえ、

ガラテアは小さくかぶりを振ったのだった―――――




―――――「マステマがいつまた私たちを狙うかわからない。

 そしてハーディスに近づかなければならないことを考えると、

 彼の力が必要だ。

 本人は宿代と三食おやつ付きで手を打つと言っている。

 実質、単に仲間になるのとほぼ一緒だ」

国有数の腕を持つ戦士を雇うとなれば

通常相当の出費を覚悟せねばならぬところだが、

フレイムは先刻そのような条件を出した。

王都に戻ることが目的の一つではあるが、

それは同時にマステマに近づくことでもある。

第七部隊も王都に戻っているらしいからだ。

彼は気まぐれな男である。

以前ガラテアが言っていたように

こちらへの興味を失ってくれていればいいのだが、

突然その興味が復活することもないとは言えない。

「だからアイツはアホなんじゃないかって言ってんの。

 だったら仲間になるって言えばいいじゃねえか。

 何で寝床と飯で雇われてやるなんて言い張るんだよ」

「傭兵のプライドというやつかな!

 わからなくもないぞ、この私は」

「オレにはわからんね。

 ほぼ話がついた段階で追加のおやつを要求するのがプライドなら、

 丸めてドブにでも捨てとけよ」

ここまで付き合ってきて重々わかっていることは、

ガラテアは実に文句の多い人物だった。

しかし意外と己の立場は弁えていて、

最後まで強硬に反対するということはない。

だから、

「もう一つ、

 私が彼を雇いたい理由がある。

 ロズウェルの話によれば、

 レッドハンドの者と互角に渡り合ったという

 傭兵王の実力は本物だ。

 それが同行しているとすると、

 十隊の隊長に近い力を持つ強者と

 毎日でも手合わせができるかもしれない。

 王都に着くまでに、

 できる限り力を伸ばしておきたい」

レゼルクが真摯な眼差しでそう語ると、

ガラテアは両手を頭の後ろで組み

椅子の背もたれに身を預けて何度かうなずいた。

「神童エリンに続いて豪傑の剣を

 体験する機会だってか。

 貪欲だねえ、おたくは…

 まあしかし、

 オレも機があれば不殺の天使を討ち取りたい身だ。

 傭兵王様を追い詰められるくらいじゃねえと

 夢物語で終わっちまうか…

 なあ、フレイムさんよ。

 手ひどくやられたってんなら

 赤手の一人や二人仕留めたいだろ?」

彼は視線を投げかけながら、

静かに腕を組む元傭兵王に問うた。

揶揄するような色を含む物言いだったが、

微塵も意に介する様子はない。

「赤手と対し勝利したいという欲求はある。

 だが、その理由として

 手ひどくやられたからというのは当たらない。

 俺は一人の剣士として強敵を凌駕したい、

 奴らを倒す際の動機はそれだけだ」

「そりゃ神妙なこった。

 失敬致しましたね」

面倒な奴だ、とガラテアは肩をすくめた。

フレイムはどうも堅物のようだし、

これが道中一緒だとなると少々気が滅入る。

レゼルクとは性質的に近いかもしれず、

反対にロズウェルやクラトーはやかましい。

色々とちょうどいい人間はいないのだろうか。

「そんじゃ、

 傭兵王様の気が変わらない内に

 さっさと契約しちまえよ。

 三食おやつに昼寝もつけろとか言い出す前にな」

「そうしよう。

 そんなことになっては

 自分も昼寝すると言い出しそうな者もいることだし」

「…何だァ…

 そりゃあたしのことかな、

 レゼルク君…

 いや、クラトーさんのことだろうな、

 時々寝坊してるみたいだし!」

「フフ、無知蒙昧なるは悲しいかな、ロズウェル嬢…

 昼寝など必要としないために

 多少遅くまで寝ているのだよ、この私は!」

「なに威張ってんだ!

 昼寝しなきゃいいんだって思ってるんなら

 とんでもない勘違いだからね!

 よおし、これから朝起きたら太鼓の練習しよ!

 とても寝てなんていられないから覚悟しとけ!

 喧嘩太鼓だからね!」

「…それはやめてくれ、ロズウェル。

 クラトー殿への嫌がらせに我々や

 他の方々を巻き込むのは」

昼寝については杞憂に終わり、

フレイムが追加で要求してくることはなかった。

元傭兵王という強力な存在を味方につけ、

レゼルクたちは王都を目指す。

そこが安住の地というわけではない。

それでも、彼らはたどり着かねばならなかった。

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