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不断のジャカ  作者: 吉良 善
臆病者の剣
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旅立つ人に

『(ジャカさん…

 あなたに与えられた力の、本当の姿を見せてください)』

ジャカは、確かにアイスレアの声を聞いた。

耳で聞いたのか頭の中に響いたのかははっきりしない。

今、自分がどこにいるのかも。

未だ正体の掴めない、そして恐ろしい方の力が発動し、

周りは真っ白な光に包まれた。

それまでいた世界がそうなっただけなのか、

別の異空間にでも飛ばされたのか。

とにかく、奇妙な浮遊感の中、ジャカはいた。

そこで、アイスレアの声が聞こえてくるのである。

彼は、おや、と思った。

「アイスさん、どうやって僕に話しかけているんですか?

 僕の力では、離れた所にいる人と会話するなんて

 できないと思うんですけど」

『(ふふ…

 どうしてでしょうね。

 あまり深く考えない方がいい時もあるものですよ)』

「…」

過去に、どこの誰かわからない声が問いかけに答えたことはあったが、

まともな言葉のやり取りとなると

ヴァッセを失った直後の一度だけだったように思う。

その時のことを振り返り、ジャカははっ、となった。

「…アイスさん…!

 あなたは、まさか…!」

『(わたくしのことについては、この窮地を脱してからにしましょう。

 ジャカさん、今だからこそなのかもしれませんが、

 わたくしに宿る青い光の力のおかげで少しわかる気がするのです。

 あなたの力の輪郭が…)』

耳慣れたはずのアイスレアの声を聞きながら、

ジャカは涙をあふれさせていた。

彼女がどういう状態にあるか、まだ確かめられてはいないものの

悟ってしまった気がしたからだ。

しかし、泣いている暇はない。

自分にも仲間にも、危機は迫っている。

「…僕の力の…輪郭」

『(そうです。

 自分の力でありながら、あなたはその実体がわからなかった。

 制御することもできず、自分の力ではないと

 そう感じていたのではありませんか?)』

「…それは…

 はい、確かに…

 そうです」

『(わたくしが思うには、

 その光があなたの力であるというのはおそらく違うのです。

 なぜこれほどの光が発せられるのか…

 それは、あなた一人が生み出したものではないからでしょう)』

「…」

アイスレアの言葉には、納得できた。

レキッタでも今この場所でも、

これは自分の力ではないと感じたからである。

そうだとすれば、源泉は青い光が輝く度に感じていた

多くの人々の存在だろう。

迷った時に彼らの意思が伝わってきたという出来事はやはり本質ではなく、

本来ならば大いなる光を発動するための力を集める機能が

偶然ジャカに意思や声を伝える働きをしたにすぎないのか。

『あなたは声なき声を聞くことができる…

 たくさんの人々の想いを受けることができる。

 だから、あなただけによるものではないけれども、

 まばゆい光として発現させることができる…

 それが、あなたに与えられた力なのではないでしょうか。

 わたくしの想像が正しければ、

 その力に上限はないのかもしれません。

 あなたの元に集まる想いが多いほど、強いほど、

 高まっていく)』

「…そんな…

 そんな恐ろしい力が、なぜ僕に…

 誰よりも小さくて、誰よりも弱かった僕が

 持つことになったというんです!?」

『(そう考えていたから…

 かもしれません。

 誰よりも弱いあなたに、

 誰よりも強大になりうる力が宿った…)』

「そんなの…

 そんなの、勝手ですよ。

 僕は特別な力なんて欲しかったわけじゃない。

 たくさんの人と別れて、今こんなことになっているのだって、

 その力が原因だっていうじゃないですか。

 それがなければ、もしかしたら今でも…」

ジャカは両手で耳を覆って、大きくかぶりを振った。

もし自分に最も強い力が与えられたのだとしても、

喜びなどひとつもない。

それで大切なものを守れるならともかく、

ことごとく失っているのだ。

一体、何のための力なのか。

心を千々に乱す彼に、アイスレアは優しく語りかけた。

『(ジャカさん。

 あなたはあなたとして生まれたし、

 これまで数奇な人生を歩んで、この先も歩んでいかなければなりません。

 別れてきた人も自分の人生を歩んだのです。

 あなたと出会ったから、あなたが何かをしたから

 そうなったのではないのです)』

「…アイスさん…

 あなたも…?」

『(もちろんです。

 だから、自分の力を呪うことも恐れることもせず、

 受け入れてみてください。

 そして、操るのではなく導くのです。

 あなたは恐ろしい力とおっしゃいましたけれど、

 決してそんなことはないはずです。

 それは、人々が生み出したものなのですから…

 敵とはいえ強く大きな力をぶつけることをためらう気持ちはわかりますが、

 今は皆さんを助け、先に進むことを考えるべきです。

 大丈夫…

 わたくしは感じます。

 その光に触れた者はただ命を奪われるのではなく、

 敵も味方もない場所へと召される…

 戦いに身を置き疲弊した魂を浄化するように)』

「…導く…

 あの巨大な力を…

 でも、どうやって…」

『(あなたはこの戦場で誰よりも恐怖を感じている…

 だからこそ、誰よりも鋭敏に殺意や殺気を感じ取ることができるはずです。

 それも、恐怖を力に変えようとするあなたの強みになるに違いありません。

 おのずと、導くべき場所がわかるはずですよ)』

そうなのだろうか?

そうかもしれない。

人の殺意を誰よりも恐れ、大きく感じている。

それによって素早く敵の攻撃を感知し、動きを見極める。

そんなことができたなら、仲間を助け、生き残れる可能性が

大幅に広がるのは間違いない。

だが、本当にできるのだろうか。

「…(そうだ…

 これは、きっとジェサリアさんが言っていたことだ。

 剣と同じなんだ。

 自分の力を知り、自分のものにして、信じる…

 まだ全てがわかるわけじゃないけど、

 僕には人の想いを受け取るというような力が与えられた。

 いい想いも、怖い想いも受け取れるはず…

 そして、僕は臆病者…

 この短所を武器に変えて、与えられた力と合わせて、

 強みに変えるんだ。

 アンジェさんみたいに鋭く察知できるかわからないけど…

 敵意や殺意を、感じ取れ。

 そこに向けて、どこかの誰かさんたちからもらった力を導く…

 そうすれば、みんなを助けることができる!)」

ジャカの瞳が、力強く輝く。

その様子を見守っていたのか、アイスレアが微笑むのを感じた。

『(もう、わたくしの助けは必要ないですね)』

「…できれば、ずっと助けてほしいです。

 でも…

 それは、できないんですよね?」

『(そうですね…

 今と同じようには。

 わたくしは、もう行かなければなりませんから)』

彼女は、きっと天国へと向かうのだ。

現世での旅を終えたアイスレアをいつまでも引き止め、

煩わせるわけにはいかない。

「…僕、やります。

 アイスさんが安心して休めるように…

 自分の力を受け入れて、みんなを助けます。

 …だけど、悔しいです…

 どうして、もっと早く…

 もっと早くできなかったんだろう。

 できていれば、アイスさんも…」

『(人間は、そんなに便利にはできていませんよ。

 悔しい想いをして、後悔して、それを乗り越える決意をした時にこそ

 希望を見出すものです。

 あの時、ルフィカで言ったでしょう?

 寂しいけれど、悲しむことはありません。

 わたくしとあなたたちは離れてしまうだけ、

 友情が消えてなくなるわけではないのですから。

 こうしてお話することはできなくても、

 目を閉じて思い出してくださればいつでも会えます。

 だから、おゆきなさい、ジャカさん。

 皆さんと一緒に、目指す場所まで…

 そして、わたくしたちに与えられた力の正体を突き止めてください)』

「…はい!

 アイスさん、あなたと出会えて、あなたとここまで来ることができて、

 僕は本当に良かった。

 そう思って、いいんですよね。

 僕たちの出会いは、悲しいものなんかじゃない…

 あなたも、連れて行きます。

 一緒に、目指す場所まで…

 そのために、僕はやります。

 今、自分にできる精一杯のことを!」

涙は、空へと吹き上がる光の気流に乗って消えていった。

仲間を助け先へ進む、それが託されたアイスレアの願い。

彼女の最後の言葉を聞いたジャカは、果たさねばならない。

死への恐怖も、己の力への畏怖も飲み込んで。





アイスレアに誓い目を大きく見開いた時、

未だ周りは純白に満たされていた。

その白い世界で首筋に感じた殺意。

それはジャカの身体から発された一際強い光に弾き飛ばされた。

自らを覆うあまりにも膨大な力に全身を震わせながら何とか耐え、

ジャカは正面を見据えながらも

戦場全体に意識を行き渡らせるイメージをした。

「(…この力…

 不必要に大きくなりすぎている…!

 もう少し小さくまとめられればいいんだけど、

 そう都合良くはいかないか…!

 それなら、せめて僕が…

 放つべき所に、狙いを定める!)」

自分を中心に、一帯を包んでいる光をできる限り

集束させていくことを意識する。

力の強大さだけでなく、ジャカにはもう一つの懸念があった。

前方には、敵だけでなく味方もいる。

このままでは、彼らも巻き込むことになるのではないか。

「(敵だけを倒す…

 そんなことができるか…?)」

考えながらも、ジャカは感じた。

戦場を照らす光を通じてなのか、

それがジャカの恐怖心ゆえの敏感さを増幅したのか、

自分たちに向けられた鋭利な感情を。

今は、そのことが武器になる。

「(…いや、できる!

 アイスさんが言っていたとおり…

 これは、敵意や殺意といったものだ…

 それを僕たちに向けている相手の元にだけ、力を導くんだ。

 そうすれば…

 この戦いは終わる)」

妖剣ルルメクはジャカの手にはない。

レキッタの時とは違う。

今度は、自らの意思で剣を振り上げる。

天と地を結ぶ光の柱は刃を軸にして

ジャカの剣に宿った。

すさまじい振動と衝撃が、彼を襲う。

身体が、砕け散りそうだ。

引きちぎられそうだ。

ジャカは、歯が壊れそうなほどに食いしばって

全身を貫く力を逃すまいとした。

これ以上は、数秒の間だって持ちこたえられない。

体内に嵐が起こって、風と雷が暴れ回っているかのようだった。

抵抗するべく、ジャカは吠えた。

「殺気だけを狙う!

 この光は…

 たくさんの人からもらった、僕たちの道を切り拓く力だ!」

見ている者の目には、ゆっくり、ゆっくりとに映った。

天に架けられた橋の如き光は少しずつ少しずつ傾いていき、

大地に到達した瞬間に星が大爆発を起こしたような

想像を絶する規模の烈光が激しく弾け飛び、

世界に存在する全てのものを根こそぎ奪う大嵐の上陸を思わせる

烈風が音もなく吹き荒れた。

その時間は長く短い間続き、前とは異なり地をえぐることはなく

収まった後も草は揺れ、そこに住まう小さな命も変わらずあった。

ただ一つ、ジャカが感じ取った殺意をまとう者たちの姿が

消え果てた光の柱に連れ去られたように戦場からなくなっていた。

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