表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不断のジャカ  作者: 吉良 善
臆病者の剣
70/92

出立へ

展示会が無事終わり、その翌日にジャカたちは

レッドハンドのロッジへ戻るべくシュテシアの街を出発した。

一行の中には、ここへ来た時にはなかった

ベルゼナッハとズィフィードの姿もある。

一方で、デュエルが一旦外れて別行動をしようとしていた。

朝食の際に、ジェサリアの許可を得ようと話していたのを

ジャカも聞いている。

「リーダー、オレ寄り道していってもいい?」

「どこへだ?」

「ガーラント。

 新しい得物を仕入れておきたくてさ。

 この辺りなら、剣を選ぶならあそこだろ」

「それならもう一人連れて行け」

「いい、いい。

 さっさと行ってちゃっちゃと済ませるからさ。

 そうだ、ジャカ、ついでだからガーラント以北の情報も

 めぼしい話があれば土産にしてやるよ」

「本当ですか?

 ありがとうございます」

「ってことで頼む、リーダー」

「わかった、油断するなよ。

 あそこばかりは何者がいるかわからねえからな」

「了解了解!」

そんな会話だった。

道中、街道を外れてロッジに向かう一行から離れ

デュエルはガーラントへと向かった。

彼の姿が見えなくなってすぐに、アイスレアがジャカに話しかけた。

「わたくしたちも、近い内にレッドハンドの皆さんとお別れして

 北へ向かわなければなりませんね」

いずれは出立が訪れるとわかっていたことではある。

ジェサリアは、自分たちにこの先生き延びていく力をつけるための

時間と手段を与えてくれただけで、

共に王都まで行くとは言っていない。

だが、十分すぎるほどに助けてくれたと思う。

最も大きかったのは、ジャカ自身が戦う覚悟ができ、

魔法や魔導剣をも習得するまでの意欲が生まれたことである。

強く、そして賑やかな彼らと別れるのは

寂しく、心細くもあるが、赤き手の猛者たちには

深い感謝の念を抱く他ない。

「そうですね…

 いつまでも立ち止まってはいられないし、

 ジェサリアさんたちに甘えてもいられない。

 …ロッジにいた間に僕たちを狙う人たちが

 探すのをやめてくれていたらとも思うんですけど」

「同感です。

 けれど、青の夜から十三年もたって

 わたくしたちの前に現れた方々ですからね…

 それほどものわかりのいい相手ではなさそうです」

その返事を聞いてジャカは少しうつむいたが、

すぐに顔を上げた。

「やっぱり、そうですよね…

 でも、僕もロッジに来るまでの僕とは違います。

 皆さんから色々教えてもらいましたし、

 シュテシアでは自分の力で戦うことも経験しました。

 逃げるだけじゃない…

 立ち向かうことができるんだってこと、

 しっかり証明します」

自分に言い聞かせるように語るジャカを見て、

アイスレアはにっこりと微笑む。

優柔不断で弱々しかったこの少年も、

いくらかは頼もしさが垣間見えるようになったではないかと。

「相手の攻撃にも、冷静に立ち向かうことができれば

 近くで戦うわたくしたちとしてはやりやすいですね」

「…い、いや、僕の戦い方は個性ですから。

 みんな違ってみんないいんですから」

二人の前には、アンジェとベルゼナッハが歩いていた。

どういう技なのか足音を一切たてないエクティナーの少女には

昨日アンジェが旅の事情を色々と説明したのだが、

態度こそ変えなかったものの途中で飽きて話を聞き流していたことを

アンジェは気づいていた。

「相手は大きな力を持っているのでしょ。

 外国にでも逃がしたらどう」

形の良い顎で後方のジャカを示しベルゼナッハは言ったが、

アンジェは首を振る。

「これまでの敵のやり方を見ると、

 国外にも刺客を送り込むくらいのことはするだろう。

 それに、ジャカたちはただ逃げ延びたいだけではない。

 誰が、なぜ狙うのか、なぜ大切な人々を失わなければならなかったのか…

 全てを知りたいのだ。

 それができなければ、たとえ逃げ切ってどこか遠い地で暮らし始めたとしても、

 とても平穏に過ごせるものではないだろう。

 何より…

 そんな人生に納得できるわけがない。

 少なくとも、私ならば」

「あなたのお父上たちは、最後まで協力してくれないの?」

「私を行かせることがレッドハンドとしての最大限の協力だろう。

 『こっちはこっちでやることがある、自分たちで何とかしろ』

 というのが基本的な姿勢だ」

「その辺りは、割り切って考えるわけね」

「レッドハンドにはジャカたちに最後まで付き合う理由はない。

 同僚である私も狙われているのなら共に対抗はするが、

 彼らと行くのであれば彼らと対処しろという話になった。

 もともと好きなように動けないのが嫌いな連中だ、

 自分たちは好きにやるから私も行きたければ行って来いということだな」

「結びつきが強いんだか弱いんだか…」

「互いに信頼している、からかな。

 一応、だが」

かすかな笑みを浮かべたアンジェ。

そう、とうなずいたベルゼナッハは、

そういう間柄もあるものかなと思いながら

傾き始めた陽に照らされる平原の風景の中に精霊の姿を探した。





「(…まただ…!)」

地面に転がった己の剣に目を落とし、レゼルクは難しい顔をした。

これが何度目のことか、数える気にもならない。

そのままにはしておけないので、仕方なく拾い上げて軽く振り砂を払った。

「(ただ速いだけではない…

 何かが…惑わせている)」

考えながら、切っ先をゆっくりと揺らす。

そうしていると、陽気な声音が耳に届いた。

「違和感があるようですね。

 結構結構」

視線を巡らせた先には、セレンティア・エリンの無邪気な笑顔があった。

レゼルクとクラトー、ガラテアは空き時間に宿舎の中庭で、

時々エリンと試合をさせてもらっていた。

今日だけでもそれぞれに数十回はやったはずだが、

これまで誰一人まともに撃ち合えることなく敗れ続けている。

三人がかりでも結果は同じだった。

今もエリンの剣をまともに捉えることすらできず、

気づくと剣が地に落ちていた。

そしてようやく、レゼルクはエリンの言う違和感を

抱くところに到達した。

のだが、本人は納得がいかず問うた。

「何十本と相手をしていただいて未だ全く歯が立たず、

 なおかつますます難しく思えてきました。

 結構とはどういうことです」

「今までとは違う感覚になれたということじゃないですか。

 あなたが前に進めている証ですよ」

にこやかに答えるエリン。

レゼルクは、眉をひそめた。

彼の反応を受けて、エリンは剣を納め腕を組んだ。

「これまでのあなたは、難しく思うことすらできなかったんでしょう。

 並の腕なら、曖昧模糊とした違和感にも届かないはずです。

 それじゃあ糸口もないでしょ。

 あなたが一流の剣士になれるか、その境目に来たんです。

 存分に思い悩んで、突破してください。

 でなきゃ、倒し甲斐がないじゃないですか」

底意の量れない笑顔に、三人は仏と鬼を同時に見た気がした。

本当の鬼というのは、一目ではそれとわからないものなのかもしれない。

などと考えたのが遠い昔に思えるほど散々打たれて立てずにいた時、

エリンの部下であるアスリルが姿を現して呆れたような顔をした。

「まだやっていたんですか。

 目的を達成したとはいえ、

 九部隊は暇なわけではないんですよ。

 エリンさん、隊長がお呼びです」

彼の言う目的とは、第九部隊がガーラントに来た理由でもある

この街で暗躍していた組織の壊滅である。

作戦にはレゼルクたちも参加し、無事完遂することができた。

「お三方とも上達して楽しくなってきたところなのになあ。

 もう少しだけ、駄目ですかねえ」

「なぜもう少し大丈夫かもと思えるのか強く興味を惹かれますが、

 隊長が呼んでいる以上お聞きしている時間はないでしょう。

 当然稽古を続ける時間もありません、

 早く行ってください」

ぴしゃりと言われ、エリンは肩をすくめて見せると

レゼルクたちに軽く頭を下げて宿舎へと向かい歩き始めた。

横を通り過ぎる時には、

「我が隊の副隊長って、アスリルさんでいいと思うんですよね。

 隊長と僕が大雑把な人間だから、あの人がいないと

 物事が進まない時があるんですよ。

 よっぽど向いていると思うな」

と、表情豊かに語りながら去って行った。

聞こえていたかどうか、アスリルは目を閉じて小さくため息をついた。

「あの人は剣のことになると時を忘れがちですから、

 皆さんも気をつけてください。

 それと、近々我々はこの街を離れることになると思います。

 共に行くなら準備をしておいてください」

「おお、ついにか!

 待っておりましたぞこの時を。

 無論参りますとも、この私たちも!

 なあ、レゼルク殿」

「ああ…

 九部隊は、どちらへ?」

顔をほころばせるクラトーにうなずきつつ、レゼルクは尋ねた。

確かに、危険を避けてガーラントを離れることは自分たちの目的でもあり、

その時を待っていた。

そして、第九部隊が向かう場所によっては

新たな選択を迫られるかもしれない。

ドロウやエリンらには感謝しているが、

これから先も従い続けるかというと、それは違う。

次への判断をするためにも答えを待ったが、

アスリルは小さく首を捻った。

「さあ、それは隊長の指示が出てからでないと。

 十隊を率いる立場ともなればいくつかの使命を

 同時に帯びているものですからね。

 次にどう動くのがよいか、

 隊長がどのように考えるかによるのではないですか」

その使命の中に、ジャカたちの捕縛も入っているのだろうか。

気になったが、確かめる術はない。

何をするにしても、ガーラントを発ってからのことだ。

出立前にエランカの所に顔を出しておこうと考えながら、

レゼルクは自室へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ